第1102話
「なんだ………本?」
接近術ではないのは確かだからか、少しずつ距離を置いていくレイター。
サバスも、とりあえず静観することにしていた。
とはいえ、これに関しては俺も何をするのかわからない。
何せ手にしているのは攻略本。
ただの紙とではないにせよ、そこにあるのは情報と文字だけ。
「よし………いける………………大丈夫、大丈夫………」
明らかにどこか躊躇っている様子。
しかし、それらを一切押し殺し、倒すべき敵を見据える。
そして、覚悟を決めたコウヤはこう叫んだ。
「“ロード” グラディエーター!!」
「!!」
1人でに本が開かれ、次々にページが捲られる。
すると、とある頁でピタリと動きを止め——————
「っ…………」
本は凄まじい勢いで文字を吐き出し、それはみるみる内にコウヤの全身を覆った。
これまでとはまるで分量が違う。
ギチギチに固まった文字が、次々に溢れてまとわりついている。
まるで泥だ。
とてもパワーアップには見えないほど、酷く禍々しいものに見える。
「これは………早急に片付けた方がいいかな? 」
魔法を構えようとするレイター。
それに応じて、サバスも動き出していた。
「チッ………流石におめおめ使わせてくれねェか………!」
殺したいとは思っているだろうが、レイターはコウヤを殺せない。
だとすれば、最優先で止めるべきは、
「!!」
「テメェだ、根暗野郎」
俺はコウヤの元に向かおうとしたサバスの前に立ち塞がった。
「………」
「!!」
巨塊が、寸前に現れ、鼻先を掠めた。
全身が一気に冷えていく。
半歩下がっていなかったら今頃頭がひしゃげてただろう。
とてもハンマーを振っているとは思えない速度だ。
しかし、
「っと、ぉ」
剣で捌きつつ動けば、対応できない程ではない。
だが、問題はこちらではない。
現在無防備なコウヤだ。
まとわりついた文字は未だ剥がれていない。
「コウヤ!! 魔法がくるぞ!! 気をつッ………………そが………!!」
こちらはサバスの対応で手一杯だ。
ろくに援護も出来ない。
ならば、
「すーっ………………もう一撃援護しろーッッッ!!!」
G・Rのいる方角に大声で叫んだ。
が、
「おっと、そうは問屋が卸さないよ」
既にレイターは魔力の充填を完了していた。
やばい。
あの槍の速度では、まず間に合わない。
だが、いくら考えても無駄であった。
敵の手には既に炎の刃が形成されている。
こちらが思考を張り巡らせる以前に、敵はもう、引き金を引いてしまったのだから。
「ごめんね。足を貰うよ」
「!!」
伸ばしたくても伸ばせない手を置き去りにして、炎の刃は飛んでいった。
凄まじい熱気がこちらまでやってくる。
だが、熱気とは裏腹に、自分の肝がどんどん冷えていく感覚があった。
俺とあろうものが、弱気になっている。
悪いイメージばかり頭に浮かぶ。
ダメだ。
止めなければ。
ここで無茶をせず一体どこでするのだ。
「コウヤ——————」
覚悟を決め、神威を発動させようとした瞬間、突然異変は生じた。
泥に、一本の線が入る。
まとわりついてい他文字がピタリと動きを止め、その亀裂に向かっていく。
その瞬間、
「——————ァ、ァア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
悲痛な産声と共に、“それ” は現れた。
“それ” は、亀裂をなぞる様に剣を振り、目の前まで迫っていた炎の刃を一刀両断した。
そして、割れた泥は弾ける様に乖離した。
「コウ………………ヤ………………?」
姿を見せたのは、大ぶりな剣を持った男。
あの燃えるような赤髪ではなく、日本人特有の黒髪を持ち、冒険者らしいレザー装備ではなく、まるで剣闘士の様な重装の鎧を着ていた。
武器も、鎧も、髪色も、何もかもが変貌していた。
そして、癖とも言える構えも、前の面影はまるで無い。
技術的には、突然かなり向上している。
不気味なまでに進化していた。
「………………敵、か」
「………?」
妙な事を呟きながらレイターを睨みつけるコウヤ。
すると、
「じゃあ死ね」
「!!」
敵に魔法を発動する間も与える事なく、一気に距離を詰めるコウヤ。
早い。
先程までのコウヤとは比較にならない。
これならまだ勝てる見込みがある。
………が、妙な胸騒ぎがする。
あれは本当に、コウヤなのか?
「チッ………まだそんな隠し玉が——————」
「あれは………!!」
力の塊が、あの大きな剣を覆う。
あれは神威。
そして、あの攻撃は、
「あいつ、まさかこんなところで………………!?」
初めてあった時に使った、神威による斬撃。
森の木々を一瞬で薙ぎ払ったの強烈な技をここでは放つ気か? と、思ったが、どうやら構えが違う。
あの時とは別の技だ。
「消えろ」
ズブリ、と剣を地面の奥深くに突き刺すコウヤ。
「? これは一体………………………………………っ!?」
地面に、異変が起き始める。
ガタガタと揺れながら、何か大きな塊がどんどん近づいてくる。
まずい、と認識した時にはもう遅い。
「防御が………………!!」
吹き出す、“破壊” の塊。
神威によって生成されたそれは、あっという間にレイターを飲み込んでいった。




