第1101話
「まさか、今のを防がれるとはね」
驚いたと口ではいいつつも、やはり余裕なレイター。
片やこちらは余裕がない。
何でもいい。
最低限コウヤが動けるようになるまで、少しでも多く時間を稼がなければ。
「………なぁ、レイター。そっちの奴は違うとして、お前は王候補だろ? 一体なんで王になろうとする?」
「ははは、清々しいほどにあからさまな時間稼ぎだ。そう言えば答える奴とでも思われたかな?」
反応がイマイチ。
ダメか?
ダメならダメでいい。
何でもいいから適当な話題を——————
「まぁ、いいでしょう。ボクはそういうのを答える奴だからね」
「………え?」
驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を洩らした。
まさかの、一発合格。
探ってどこかしら奴の琴線に触れる物語を引き出してやろうと思ったが、思わぬ収穫だ。
「人を騙すのは得意だけれど、それでも善悪の分別は付いているよ。殺し合いも、ボクとしては望ましくない。そもそも、君は国の英雄だ。感謝はしているし、一端の尊敬の念は持っている。だから、動機くらいは喜んで教えるよ
「………」
言葉が心なしか柔らかい。
これは、
「胡散くせぇ………………」
「今までのことがあるからボクは突っ込めないんだけど」
自分で話題を振っておいて悪いのだが、よく考えれば王を目指す動機も信じられないかもしれない。
「ま、何でもいいさ。簡単な話、ボク」
だが、それはそうと理由は気になる。
これが本当か嘘かどうかは別にして、あいつにも動機はあるはずだ。
王を目指す理由が。
「結婚したいんだよね」
「「………………」」
冷たい風が流れている気がする。
空気を切るような高い音がそうさせたのか、単に冷めたのか。
何にせよ、俺の冷ややかな目がこれ以上まともな回答をレイターに求めることはない。
そう思ったが、
「だから、とりあえず彼女はボクが貰うよ」
まるで妥協するかの様なセリフを、レイターは吐いた瞬間、少し熱が戻ってきた。
このセリフは、流石に看過出来なかった。
「テメ………っ」
文句を言おうとした俺の横を、コウヤが静かに横切る。
眉間に皺の寄ったその顔は、明らかに何かに対して怒っていた。
どうやら、今の一言が気に食わなかったのは俺だけではないらしい
「おい、詐欺師」
「うん?」
「早く再開しよう。モチベが上がったからさ」
そう言いながら、コウヤは持っている剣を鞘に収めた。
「………言っている事とやっていることが逆な気がするんだけど?」
「心配すんな。今アップグレードを………っと、その前に」
スッと両手を広げるコウヤ。
手には薄らと魔力が込められていた。
それに、心なしか表情が強張っている。
まぁ、精々気合い入れとかそんなところだろうと、思っていた次の瞬間、
「すーっ………………フンッッ………………!!」
「「!?」」
広げた両手を耳に叩きつけ、そこからポタポタと血が滴り落ちていた。
そして、頬をひくつかせながら、コウヤはこう言った。
「これで、消音による余分な魔力消費は必要ない」
「こいつ………!!」
俺はすぐにコウヤの頭を掴み、“眼” を使って耳を調べた。
間違いない。
鼓膜が破れている。
神の知恵の余計な時間消費と魔力消耗を抑えるために、かなりの荒技だが対策を立ててきた。
自傷だが、そこはかなり躊躇うだろう。
なかなかの覚悟だ。
「コウヤ………お前………」
「え?」
「あ?」
ああ、そうだ。
耳が聞こえてないのだ。
指示に関しても手を使うなり少し気をつけなければ。
「え? なんだって?」
「ああ、いや何でも」
「え? 何? 何言ってんの?」
「だから大じょ」
「は? あ? ん?」
………落ち着け。
悪気はない筈だ。
「おいおい、ちょっと………もっと声張れよ!! 聴こえないだろ………ぉぶぼお!?」
「聴こえるか!!! オメーが潰したんだろうが!!」
反射で出たビンタがコウヤの頬にクリーンヒットした。
こいつはすぐふざける。
改めて見直したと思ったらこれだ。
「イテテテ………何言ってんのかわかんねーけど冗談だろうがったく………」
どうやら、ようやく真面目にやるらしい。
「よし………………いくぞ」
ゆっくりと手を伸ばし、コウヤはゆっくりと手を開けた。
前に掲げたコウヤの手の上に、本が現れる。
あれは、この国の攻略本。
白紙化され、管理者に支配されたこの妖精界改め、【フェアリア】についての知識が記された一冊。
アップグレードと言っていたが、
「おいおい………聞いてねーぞ………………って………」
どうも、少し様子がおかしい。
何かをするつもりにしては、ひどく不安げな表情だ。
手も僅かに震えている。
「悪いね。少しでも冗談めかしとかないと、ちょっとしたトラウマ付きでさ」
「お前、何を………」
神妙な顔で本を睨むコウヤ。
一体何をするつもりだろうか。




