第110話
「メイさん達が、ヴェルデウスの娘………?」
やっぱり聞かされて無かったか。
意図的に隠していたんだろうな。
それっぽい事は言ってたし。
悪いけど話すぞ、メイ。
「ああ」
「こんな近くにいたなんて………」
リンフィアは外に飛び出していこうとした。
「待て、まだ全部終わってない」
「でも!」
「あいつもまだ仕事中だ。話すのは後からにしてやれ」
俺は戻るように手を振った。
リンフィアは渋々元の場所に戻った。
「さて、続きを話す」
「その前に一つ」
ニールがそう言った。
「どうした?」
「私も今日、エヴィリアルの魔族と接触した」
「!」
これは、マズイな………
俺が苦々しい顔をすると、
「やはりマズかったか?」
「ああ、かなりな」
少なくともこいつがマークされたとなると危険度が増す。
出来れば接触して欲しくは無かったが、こうなっては仕方ない。
「まあ、いいか。俺の方は既にマークされてるしな。1人増えようが構わねーよ。いや………なぁ、お前の確保か殺害は向こうに利益はあるか?」
「………あるだろうな。おそらくこの装備は向こうも欲しがってる筈だ」
ヴァルヴィディアの装備か。
確かに狙われそうな装備ではある。
炎・氷・雷耐性に加えて攻撃力と防御力の増加と魔法威力の増加。
竜族が装備した場合は更に効果があるという。
「多分、その剣もだろ?」
「恐らくこちらの方が優先度は高いだろう」
覚醒半魔のキーは向こうも欲しいだろうな。
バルムンク。
竜殺しの名と同じ竜化の剣。
竜の血を持つ半魔族なら皆使える剣だ。
その力は普通の半魔族を隔絶する強さを誇っている。
「今度の祭りまでは警戒してくれ。祭りが終りゃどうにかなる」
「どういう事だ?」
「奴らは恐らく今度の祭りを利用して何か仕掛けてくる。魔石回収をしていたのはそのためだろう。そこで全員取っ捕まえて、逃げた奴の居場所も吐かせて万事解決だ。いうほど簡単じゃないだろうが、出来ればしばらくは危険を回避できる」
特にリンフィアは見つかれば大事になりかねない。
まとめて尻尾を出すであろう当日に全員捕らえておきたいところだ。
「本当はもうちょっと後にする筈だったけどしゃあないな………」
俺はチラッとリンフィアの方を見る。
「お前と」
「はい?」
そして今度はラビに視線を投げた。
「お前」
「へ?」
そこで一つ俺はこいつら、主にリンフィアとラビを急激に成長させようと思った。
「今度の祭りまでにせめてBランククラスになるように訓練させることにした」
「「B!?」」
Bランク、つまり今とは比較にならないほど強化する必要がある。
「そんな無茶な………」
「これがまた可能なんだわ」
この2人の潜在能力的に可能な筈だ。
あれを使えば。
「手順は追って説明する………いいか、うまくいけば今回、お前ら2人はよく分かっていなかったエヴィリアルの事情を知れるんだ。全てを知れるって訳じゃないだろうが、少なくとも真実には近づける。奴らを叩きのめして情報をできるだけ多く入手するんだ。ラビは完全についでだが、なりてーだろ?」
「Bランクかー。だったらワタシはやる。ワタシはワタシでつよくなりたいぞ」
「私もやります。弟のこと、父様のこと、ヴェルデウスのこと、もっとちゃんとしりたいんです」
リンフィアはいつになく真剣な表情だった。
「よし、分かった。今日はとりあえずこれで話は終わりだ。あとは好きしろ」
「じゃあ、私はメイさんのところに行ってきます」
「そろそろ休憩時間か。よし、行ってこい」
リンフィアはメイのところへ走って行った。
今の生活を壊したくない、か。
悪ィな、メイ。
でも、願わくばあいつの話を聞いてやって欲しい。
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「メイさん!」
リンフィアは勢いよくメイの部屋に飛び込んだ。
「やはり来ましたか。はぁ………ケンくんには困ったものです」
ため息をついたものの、そこまで嫌な表情はしていない。
何故なら、メイはこの場にリンフィアが現れるとなんとなく思っていたからだ。
「あの、ケンくんに聞きました………あなたが、彼の、“ヴェルデウスの娘”なんですね」
「はい、父がお世話になりました」
頭を下げようと思っていた瞬間。
「すみませんでした!」
先に頭を下げたのはリンフィアの方だった。
「私が………私が不甲斐ない王だった所為で、皆を苦しめ、あなたの父を亡き者に………」
「………顔をあげてください、リンフィアさん」
リンフィアはゆっくり顔をあげた。
「もし、後ろめたく思っているなら、それは違いますよ。私は、貴方を恨んではいません」
「え?」
「貴方は悪くない。だって、父が最後まで守ろうとした人なんですから」
その瞬間、リンフィアは何か肩からすっと力が抜けたような感じがした。
「リンフィアさん」
「は、はい!」
「また今度遊びに来てください。歓迎しますから。同じ魔族同士、ね?」
「是非!」
長年抱えていた悩みの一つから解き放たれたリンフィアだった。




