第11話
「全員追っ払ったし、迎えに行くか」
再び上に登った。
背を向けているので声をかけた。
「終わったぞー」
「うひゃあ!」
屋根からひょっこり顔を出したら驚かれた。
「何驚いてんだよ、ほら、降りンぞ」
蓮と琴葉を担ごうとしたら、
「俺は自分で降りれるから大丈夫」
「お、真面目に修行してたんだな」
「言っただろ。出来ることはやったって」
確かにこいつのステータスはクラスの連中の中では最高水準だ。
———————————————————————————
獅子島 蓮
異世界人
HP:1000
MP:100
攻撃力:800
守備力:800
機動力:700
運:10
スキル:逆転・【固有スキル】/剣術Lv.10/弓術Lv.5/話術Lv.5/カリスマLv.7
アビリティ:鑑定・ステータス表示
———————————————————————————
こんな感じ。
現代にいた頃とは比べ物にならないほど強くなっている。
自分なりに本気で修行していたんだろう。
「それじゃ、降りるぞ」
飛び降りてベランダに着地する。
蓮は壁の足場を伝って降りてきた。
「よう、お疲れさん」
「お前もね」
俺は右手を、蓮は左手をあげる。
「あー! 私も!」
「はいはい」
全員で右手を出してグータッチをした。
「もう行くのか?」
「ああ、俺は死んだことになってっからな。死人があまりうろつくもんじゃねぇだろ」
恐らく、もう少しでここにベッドメイキングや掃除に来る人が来る。
アイツらがここに来た時点で勝手にチェックアウトされていた筈だ。
「そっかぁ……ねぇケンちゃん」
「ん?」
「また、また会えるよね?」
俺は琴葉の頭をくしゃくしゃにした。
「わ」
「なーに大人しくなってんだよ。当たり前だろ。さっき言ったろ、俺は死なねぇって。俺はむしろ、お前らの方が心配だ」
「おお、珍しいね。ケンが心配を口にするとは」
「うっせ」
ふぅ、とため息をつきながらやれやれと手を広げる。
「ンだよ」
「お前も結構過保護だね」
「オメーにだけは言われたくねぇ!」
俺もこう見えて過保護な部分があるのは自覚している。
「あー、クソっ、とにかく心配いらねーよ。今度会ったらケーキ何個でも食わせてやっから、そんな顔すんな」
「ホント!? やったー!」
本気で喜んでいる辺りコイツらしい。
やはり笑顔の方がこいつに合ってる。
俺は生活一級魔法の【アイテムボックス】で持ち物を収納する。
「それじゃ、行くわ。頑張れよ、勇者サマ」
「ああ、達者でな」
「ジジィかよ。じゃあな」
「またねー! ケンちゃん!」
「おう、またな」
俺は隠密スキルを最大にし、姿を消した。
琴葉と蓮はしばらく俺が去った方を眺めていた。
「……泣かないのかい?」
「また会えるもん。会えないのは寂しいけど、泣いちゃダメだよ。それに……」
琴葉は後ろを振り向いて言った。
いつもの顔で。
「ケーキ、食べたいし」
にしし、とイタズラっぽく笑っている。
「帰ろっか」
「ああ」
———————————————————————————
俺が出た少し後のことだ。
ルドルフが跪いている。
「報告します。対象の異世界人“ヒジリ ケン”の抹殺を完了いたしました。死体は既に処理を終えています」
ルドルフが王に報告していた。
嘘の報告を。
「ご苦労だったな。下がれ」
「はっ」
ルドルフは玉座の間から退出した。
ルドルフは気が気でないだろう。
王への虚言は処刑ものだ。
その上敵のいいなりになっていたことがバレれば部下もタダじゃ済まないだろう。
ルドルフはバレなくてホッしたと同時に情けなくもあった。
それは、揺るがないルドルフの鋼のように固い忠誠故だ。
忠誠を誓っている王を欺いた罪悪感が彼を苦しめているのだ。
それでも嘘を言ったことを後悔はしてない。
敵に回してはいけない者を敵に回し、それが巡り巡って王の喉元まで届くよりはずっといいとかんがえているのだ。
これも全て国のためである。
ルドルフはそう自分に言い聞かせた。
「フッ、完了した、か。彼奴め、余が気づかぬとでも思っているのか。余と付き合いは長いと言うのに。彼奴のことだ、裏切りからではなく、何か国の不利になる事を盾にされたな。フフッ、あの忠誠は買っているが、空回りするところは玉に瑕よな。ワイドはいるか?」
「はいよ、王様」
玉座の裏から声が発せられる。
ワイドと呼ばれたのは黒のローブを纏った怪しげな男だった。
「件の少年を泊めた宿に行ってもらえぬか? 調査を頼みたい」
「へーい、お安いご用で」
ワイドは闇に姿を消した。
「あの様子だとルドルフ達は手も足も出なかったようだ。余としたことが、惜しいことをした」
だが、と一言言うと、王は静かに笑った。
「敵の方が面白そうだ」
———————————————————————————
俺は城門の上にいた。
別に高いところが好きなわけではない。
今ここにいる理由は、外で野宿が嫌だからだ。
いくら土魔法が使えるとはいえ結局は土。
寝具が無いのはきつい。
そのうち寝具を買ってアイテムボックスで保管しておきたい。
今は倉庫の壊れかけのベッドを魔法で補強してそこで寝ている。
これを貰ってしばらくは使おう。
だが、
「このベッド小せェし使い心地は悪りぃな」
この様に合ってないのでいつかは必要だ。
ちなみにここは城門の構造的にできた窪みの部分だ。
兵のパトロールは規則性があってそこが丁度死角だったので利用して使っているのだ。
ぱっと見わからない様に魔法で誤魔化している。
念を入れて隠密も発動している。
これで滅多なことではバレないだろう。
とは言え近くを警備兵が通ると少し緊張する。
「巡回巡回っと。はぁ、なんで毎日毎日こんなとこを巡回しないといけないんだろ」
警備兵は愚痴を漏らしていた。
「大体今まで侵入者なんていたのか?」
今いるぞ、と言いたい。
杞憂だった。
こんな風に全然バレない。
これで安心して寝れる。
「一方的だったとは言え実戦で魔法使ったのは今日が初めてだったな。あんだけキレそうになったのも久しぶりだったし、なんか疲れた……」
俺は久し振りにぐっすり眠った。
2018年9月23日
セリフを追加しました。
「敵の方が面白そうだ」
国王のセリフです。
蓮のスキルを確定させました