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第1091話



 「なんの集まりだ、これ………」




 訳もわからず連れてこられ、いざ部屋に入ると、何やら物々しい雰囲気の部屋に放り込まれた。

 緊張いうよりは単に億劫なだけだが、気分はやや暗め。


 この様子だとやはりなんらかの行事に巻き込まれたのは確かだ。


 男たち4人を取り囲むウンディーネたちの視線がこちらに集中している。

 まるで値踏みするかのようなベッタリとした視線だ。

 聞こえてくる会話をいくつか拾うと、『人間にしては』だとか、『ましな奴が』なんとか、やはりこちらを試すような事をひそひそと話している。


 気分の悪さは一層増すばかり。


 だが、目下一番気に食わないのは、中央に集まっている4人の男が俺を親の仇であるかのように凄まじい目つきで睨んでいることだ。

 一体俺が何をしたというのだ。





 「遠路はるばるご苦労様です、ヒジリケン様。さ、どうぞ中央へ」


 「………何も聞いてないんだけどな」




 と、俺は一応聞こえないようにそう呟いた。


 一先ず、指示に従って中央に向かう。

 近づくにつれ、やはり男たちはよりこちらを睨んでくるが、いっそ気にしない事にする。


 誰も見てないのを良い事に目配せをするルージュリアには少しイラっとしたが、何やら事情があるようだし、話を合わせてやる事にしよう。




 「では、候補者が揃いましたので、始めましょう」




 ルージュリアがそう言うと、年老いた文官が1人前に出てきた。


 眉毛が太く、角刈りで目力が強い。

 如何にも内政を牛耳ってそうな濃い顔のウンディーネだ。


 そんな政治家フェイスのウンディーネは、小さく咳払いをすると、手に持っていた巻物を広げ、それを読み上げ始めた。




 「“ウンディーネ族長・ウンディルの名を以って、これより時期ウンディーネ族長継承の儀を()()する”」


 「………?」




 開催とは、妙な表現だ。


 しかし、それを聞いて少しホッとした。

 この様子では、恐らくこれはルージュリアが族長となるための儀式だ。


 つまり、巻き込まれずに済む——————と、つい楽観的に考えてしまった。



 そしてすぐにわかる事になる。

 俺が呼ばれた本当の理由が。





 「“ウンディルの名は男子が受け継ぐものとされる。しかし、当代に於いて継承権を持つのは、私の一人娘であるルージュリアのみ”」


 「………」




 ものすごい、嫌な予感がする。

 この状況や、ミレアではなく俺が選ばれたことや、先程値踏みされたことや、男たちが俺を睨んできたことが、ある一つの答えを導き出す。


 流石に、と思ったが、そういえばG・Rは言っていた。

 そこのところが、適当である、と





 「“よって規定により、我が娘ルージュリアの夫を取り決め、その息子を時期族長とするべく、祭儀を執り行う”」


 「——————」






 ——————は?





 やはりという納得と、当たってほしくなかったという失望が一気に引き寄せる。


 周りを見ると、男たちは緊張しつつも引き締まった顔になっているので、やはりそういう事だろう。


 まるで、己の使命を再確認したような、そんな喝を入れられた顔だ。

 こちとら覚悟どころか初耳だというのに。




 「——————以上、族長ウンディルより下された命にございます。今回は一応の顔合わせですので、正式な祭儀とその詳細の説明については追々行うので、しばしお待ち下さい」




 ペコリと頭を下げ、爺さんは下がっていった。


 どうも今日は何もしない様子だ。

 顔合わせというより、それこそ品定めなのだろう。

 誰が夫に相応しいかと、周囲にいる連中が評議しているのだ。


 これ以降は、色々と周囲の連中やルージュリアが、何やら色々と話をしていたが、こう言った行事毎のあいさつよろしくどうでもいい内容だったので、適当に聞き流していた。









——————




———










 しばらく話を聞き流すと、どうやら全て話し終えたらしい。

 楽な格好をしているので幾分マシだが、態度が悪いと言わんばかりに睨まれるのは気に食わなかった。


 だが、それもこれで一旦終わりだ。




 「それでは、本日はこれにて解散いたします。それと………ヒジリケン様は少しお話がありますので、隣の部屋へいらして下さい」


 「マジかこいつ………」




 やっと終わったと思った矢先、余計な一言でまた周りの男たちからヘイトが向けられる。


 いい加減慣れてきたものの、やりにくさはある。

 何せこっちは結婚しようなんて微塵も思ってない言わば冷やかしみたいなもんだ。

 真面目にここに来てる奴に睨まれて「ナニミテンダコラ」とはいえない。




 「やれやれ………………」




 言われたまま、仕方ないので部屋に向かう事にした。

 すると、




 「おい」




 と、肩に手を置かれた。

 なんだと思って振り返ろうとしたその瞬間、



 チリッ、と。




 「!」





 毛が逆立つような感覚を肌で感じた。

 向けられたのは明らかな敵意。



 そして、小さな魔力。

 後方に、微弱だが魔法の気配があった。

 攻撃というより、挨拶代わりという訳だろう。


 では、挨拶には挨拶で返すという日本人のお家芸を見せてやる事にしよう。




 「ほいっ」


 「!?」


 


 ガラスが割れるような音と共に、術式が破損する。

 一瞬変わっていた俺の瞳の色は元の黒へと戻り、その頃にはこちらに魔法を向けていた男の間抜けな面が拝めた。


 惚けているのは、中年のサラマンダーだ。

 どういう基準で俺たちを集めたかはわからないが、無精髭と不潔感のあるロン毛に加えてお世辞にも整っていない顔を見る限り、容姿ではない事は確かだ。


 だが、そんな事はどうでもいい。



 こいつには、一言言っておきたい。




 「不意打ちを狙うようなクソが、あいつと結婚しようだなんて思わねぇこったな。おっさん」


 「なッ………………このガキ………!?」




 これ以上は流石に目立つと思ったのか、それ以上危害を加えられる事はなかった。

 仮に争うにしても、こいつは大した事はなさそうだ。


 問題は、




 「………………」




 こちらを睨んでいる、ウンディーネ。

 青髪の、やり過ぎなレベルのおかっぱの男がいるのだが、あれは中々強い。


 そして、僅かにミレアに似た魔力を感じる。

 つまり、そういうことだ




 「………まぁ、居るだろうな」




 そう思いながら、俺はこんな所にもいた【王候補】から背を向け、指定された部屋に向かうのであった。


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