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第1087話



 6人パーティだ、と思っていた俺だが、少し予想外の事態になった。




 「先に行く、か」



 出発の朝、起きてすぐ派手な便箋が枕元に置いてある事に気がついた。


 差出人………というほどちゃんとした手紙でもないメモ程度のものだが、書いたのはルージュリアであった。

 何故とは書いていない。

 ともかく、先に行くのでアクアレアに来いという旨の簡潔な文が書き置かれていた。




 「………ま、色々とあいつにも事情があるんだろ」




 アクアレアはウンディーネの領主にある里の中でも主要な都市。

 恐らく、族長の娘であるルージュリアの家はそこにあるのだろう。


 

 何にせよ、今日は出発の日。

 次なる目的地に向けて、旅を再開する。











——————————————————————————————








 朝食を取り、支度を済ませて、荷物をまとめた俺は、馬車の待つギルド前に向かう前に、宿の看板娘のところに少し顔を出そうと下の階に降りた。


 すると、そこには汚ったない顔をしたコウヤが何故かうちひしがれていた。




 「ぅぅぅぅぅふぐぅぅぅぅ………どぼじでだよぉぉぉ」


 「うおおおお………何だこいつ」




 すぐそばには、例の看板娘が立っていた。




 「ほらほら、今日から旅に出るんでしょ。アクアレアには美人が多いって聞くし、元気出しなよ………………おや、白紙くん。もう出るの?」


 「ああ。世話になったからな。これ、俺の地元の飯のレシピだ」


 「うふふ、ありがと。里を救った英雄の故郷の味………これは絶対売れるわ」





 商魂凄まじいな。


 こいつならきっとどでかい宿のオーナーになる事だろう。

 陰ながら応援しておこう。


 と、ちょっといい話にする前に、気になる物体がすぐ横で水溜りを作っているのだが、これは一体。




 「んで、これどうした?」


 「彼、君らについていくんでしょ? だから、里を出る前にセルビアさんに想いを伝えるんだって息巻いてたからさ、丁度いいと思って隠してたセルビアが片思いしてる人のことを伝えたらこうなったの」


 「お前エグいことするな」


 「ふふ、一応前々からやめておきなよってやんわり言ってたんだけどね」





 やれやれだ。

 まぁ、これに関しては特に誰が悪いというわけでもない。





 「ほら、元気出せよ」


 「ぐぅぅう金髪ぅぅぅ、お前に俺の気持ちがわかるもんかよぉぉ………いっつも女の子にくっつかれやがってこのスケコマシがぁぁぁ」


 「おいこいつ噛み付いてきやがったぞ」





 思わずため息が出る。


 こうなっては仕方がない。

 こういうのに使うのは勿体ないが、まぁ30秒くらいなら問題ないだろう。


 俺は神の知恵を発動させた。





 「いいか、よく聞け——————」












——————————————————————————————










 「あ、来た!」





 ぶんぶんとこちらに手を振るリンフィア。

 そばにはミレアやG・Rもいた。


 見送りに来た流やウルク、『ノーム』やギルド職員達も勢揃いしていた。




 「おお、勢揃いだな」


 「英雄サマの門出だァ。ド派手にいかねェとだろォ。あひひ」




 相変わらず『ノーム』は昼間から酒を飲んでいた。




 「折角いい稼ぎ、ゲフンゴフン………素晴らしい人物がギルドに加入してくれたと思っていたッピから、残念だッピ」


 「安心しろ守銭奴小蝿。お前にはまだ『ノーム』がいるじゃねーか。働くかは知らねーけど」




 それを聞くや否やギルドマスターは奇声を上げて暴れまわっていたが気にしないでおこう………………と思ったが、『ウチはもう終わりだッピ』というそこだけ言語が聞き取れたので、なんとなく『ノーム』の方を見てみた。


 ご愁傷様なことに、予想は正解だったらしい。




 「まぁな。近いうちに俺もアクアレア方面に出向く予定だ。古いダチに用があってなァ」


 「そか。じゃあ近いうちにまたな」


 「おう」




 近くにいるのならそれだけでも頼もしくはある。

 これは嬉しい誤算だ。




 「ケン」


 「お、イーボか」




 と、イーボの顔を見た後、後ろでもぞもぞ動く影が見えた。

 視線をズラすと、そこにはイーボに似てなかなか目力の強い少女が隠れながらこちらを見ていた。




 「妹だ。お前のおかげで、またこいつと暮らせる。領主から搾取されてた治療費も、いくらか帰ってくるみたいだから、この先はゆっくり過ごせそうだ」




 心なしか、いつもよりも饒舌だ。

 多分、いいことなのだ。




 「そいつはよかった」




 妹。


 こうして、仲のいい兄妹を見ると、昔を思い出して少し………何ともいえない気分になる。



 だが、これは紛れもなく祝福すべき光景だ。

 俺たちで守った、幸せな光景だ。




 「よ、ガキンチョ」


 「………?」




 軽く頭を撫でると、ビクッとしながらも、イーボの妹は大人しく撫でられてくれた。




 「お前の兄ちゃんと、兄ちゃんの友達はな、お前を助けるために頑張ったんだぞ。だからこれからは、目一杯兄ちゃんを助けてやれな」


 「………うん!」




 ニカっと俺は笑顔を見せ、頭から手を退けた。




 「お前、あんな優しい顔するんだな」


 「さーな」


 「そうか………まぁそれはそうとして………」




 イーボの視線は、当然俺の後ろで浮かれまくっているある男へと向いた。




 「ゆくぞ、俺の約束の地、アクアレアへ!」





 やたらとテンションが高いコウヤ。

 先程、その場しのぎではあるが、神の知恵を使ってまで全力で言いくるめたらこうなってしまった。




 「あれはな、振られておかしくなった結果次の希望を求めて更におかしくなった男の末路だ」


 「そうか………」




 スッと妹の目の前に手をかざすイーボ。

 正解だ。




 「まぁ、お手柔らかに頼む。あんなでも俺の友達だ」


 「ああ。任せろ」




 そろそろ時間だ。


 リンフィア達も、ウルク達との会話を終え、馬車に乗り始めていた。

 せっかくだ。

 最後、軽くウルク達にも声をかけておくことにした。





 「んじゃ、またな。ラビに会ったらよろしく頼むぜ」


 「任せといてよ」




 ポンと胸を叩くウルク。

 少しやんちゃ気味だが、流がいれば安心だ。




 「また会おうぜ、聖」


 「ああ」




 俺も後に続いて馬車に乗り込んだ。



 いつの間にか、全員座っていた。

 どうやらみんな、準備はできている様子だ。

 これでもう、心置きなく出発できる。




 「コウヤは良かったのか? イーボとあんま話してないだろ」


 「ああ。これでいい。必要な分は、これで交わした」




 握り拳を振って、コウヤはそう言った。




 「そっか」




 御者が声をかけてきたので返事をすると、馬車が動き始める。


 この里には、それなりに長いこといた。

 名残惜しさはあるが、こういうのもまた旅の醍醐味かもしれない。


 そんな事を感じている余裕なんてないのかもしれないが、できればこういうのは大切にしたほうがいいだろう。




 歓声が聞こえる。


 街の人気者であるコウヤへの歓声。


 俺やミレアへのものも聞こえる。



 ガラではないが、大勢に見送られながらの出発というのも悪くない。




 こうして、里総出で見送られながら、俺たちは次の目的地に向かうのであった。

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