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第1086話


 それから、程なくして隔離されていた患者達は各々里へ帰っていった。

 肉体そのものが衰弱していたわけではないので、回復自体は早いというより必要がなかったようだ。


 イーボの妹も無事イーボの元へ帰ったとの事だ。




 「いよいよ全部片付き始めたってことだな」


 「そうですね」


 「………」





 という俺たちは、数日後カイトを発つことになるので、色々と買い足そうとしているのだ。


 今は適当な店で休憩しているのだが、そんな事はどうでもいい。

 メンツは俺とミレアとウルク。



 これも懐かしいメンツだ。


 ファリスによって、もとい奴のせいで寮で男女ごちゃ混ぜで同室になった時のメンバーである。





 「ねー、2人とも」


 「ん、なんだウルク」


 「そのサングラス逆に目立つからやめときなよー」




 む、と。


 思わず何もいえなくなる。

 というのも、疫病患者が無事家に帰ったので、必要ないのに俺の評価が爆上がりしてしまい、変に視線が集まるようになったのだ。


 それ故のグラサンなわけだが、この世界でさほどメジャーでもないグラサンは帰って注目を集めていたわけだ。




 「でも、こうでもしないと目立ってしまうので………」


 「ミレアちゃんもアレ超見られてたからね。女神が降臨したとか巷では言われちゃってるよ」


 「め、女神ですか………」




 頬を赤らめながらやりづらそうにするミレア。

 元々美人なのだから、きっかけがあればそりゃあ目立つだろう。




 「しょうがない。エルに行ってもらうか」


 「お呼びなのです?」




 話を聞いていたエルが、人間体で影から顔を見せていた。




 「おつかい頼めるか?」


 「もちろんなのです!」




 フンと胸を張りながらエルは意気込んでいた。


 見た目は幼いが、歳そのものは俺よりも上だ。

 こんな感じだが、多分大丈夫だろう。




 「んじゃ任せた」




 俺は金やらアイテムポーチやらを渡して、エルにお使いを頼んだ。




 「よーし………一気に暇になったな」


 「それじゃあこのままダラダラ話そー」


 「おー」




 と、平然と隣で返事をするG・Rを見て、俺たちは思わずギョッとした。

 いつ現れたのだろうか。




 「わー、ビックリしたー………あ、G・Rちゃん久しぶりー」


 「こんにちはウルクちゃん。落ち着いて話すのは………ぷぁ、まぁ………うん、久しぶり………ですね」




 数えるのを諦めたG・Rは、これまたいつ頼んだのかわからない紅茶をすすりながらそう言った。




 「買い物………ですか?」


 「今度の旅支度だ。カイトからかなり離れたウンディーネの領地まで行くからな」


 「なるほど。それじゃあはい」




 G・Rは俺になぜか金を渡して来た。


 心当たりはない。

 今回の報酬のつもりかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 すると、こんな事を言い出した。




 「私の分もよろしくお願い………します」




 私の分。

 意味は解るが、意味が判らない。


 つまり、こういう事だろうか。




 「お前………来ンのか?」


 「とりあえず、私の新たな職場を探すまでは行こうかなと。賑やかですし、ご飯が美味しいし、色んなところ行けそうですし、ご飯が美味しいし」


 「たかる気満々じゃねーか」





 相変わらずマイペースが過ぎる。

 許可云々以前について来るつもりのようだ。


 しかし、嬉しい話ではある。

 一時的にとはいえ、こいつが加入することで間違いなく戦力はアップするだろう。




 「………しゃーないな。金は余分に持たせてるし、エルに頼んどくか」


 「よし」





 よしって。





 「ねんこーじょれつという奴………です。年寄りを助けると思ってお願い………します」




 それは年功序列とは少し違う気がした。

 ………そういえば、こいつ一体何歳なのだろう。





 「ちなみに、どれくらい年上?」


 「200は上だと思い………ます」





 俺は思わずミレアと目を見合わせた。




 エルフらしいファンタジーな年齢であった。

 これで見た目は17、18なのだから恐ろしい。


 


 「おぉ、さすが長寿種ですね。おんなじくらいかと思いました」




 そういうリンフィアも種族的にはかなり長寿だが、一応こいつは俺とタメである。




 「ぅあー………じゃあ、敬語取れば? 流石に100以上離れたお前が敬語で俺がタメ口なのはちょっと妙な感じがするし、この先しばらく旅の道連れなわけだしな」



 「うん、そうする」





 切り替えが早いのも年の功なのか。

 別にいいけれども。




 「そういえば、アクアレアに行くんだったよね。何か向こうに用事があるの?」




 「………ちょっと待て。お前なんで普通に喋ってんだ。あの『………です』みたいなテンポはどうしたんだよ」


 「ああ、私敬語苦手だからね。いつまで経ってもなれないからああなるんだよ。元々傭兵だったし」




 そういえば、時々失礼な側面というか片鱗は見せていた気がする。

 それを考えればなんとなく納得だ。




 「まぁいいか………それで、アクアレアに何の用にか、だったか」


 「うん」




 アクアレアとは、俺たちが行く予定のウンディーネの里である。

 人口も多く、白紙化後の妖精界に於いてウンディーネの領地の首都のような位置付けになっている。




 「俺っつーよりはルージュリアが行きたがってるんだよ。ま、今後のシナリオ的にもどの道行く場所だし、なんでもいいけどな」


 「シナリオ?」



 そういえば、G・Rはこの間の晩に一緒に話をしていなかった。


 では、知らない筈だ。

 カイトに戻る前、俺たちは領主の別荘で今後について話をしていたのだ。




 「今後俺たちは、異界童話の攻略からメインを勇者の力の強化に切り替えるつもりだ。目標は、ミレアの持つ【裁定】の力の完全化。それによって、俺たち本来の肉体を取り戻す事だ」


 「!! それって………………!?」




 そう。


 ミレアの持つ裁定の能力は、異常を正常に変える力がある。

 そこで俺たちが考えたのは、その能力を完全に扱えるようになれば、魂が正常な状態に——————つまり、元の体に戻った状態に移行できるのではないかと考えたのだ。




 「白紙化以前の現役の肉体を取り戻す。それが、確実に俺たちが管理者に勝つための唯一の方法だ」




 特に、俺の肉体が戻れば、デバッガーであっても瞬殺が可能だ。

 敵は生物迷宮の王の力と手に入れたとはいえ、こちらは曲がりなりにも神を殺している。

 勝算は十分にある。




 「取り戻す確証はねーけど、どの道ミレアの力は強化するつもりだ。取り戻せなくても最低限の報酬があるし、成功なんかすれば渡に船って事だ。()()()はちょーっと勿体ねーが後回しだ」




 俺はポケットから小さなコインを取り出した。

 本のマークの入った模様付きコインだ。




 「それは?」


 「領主のミッション………異界童話をクリアした時貰った。多分、一定以上クリアした報酬ってところだ。そのうちコウヤにでも聞いとくよ」




 万が一肉体が戻れば、恐らく経験値等のシステムも無効となる。

 これを使うのは、勇者の能力強化に行き詰まった時か、ミレアの能力でも肉体が戻らなかった時か。


 どの道、今のところは優先頻度低めだ。




 「さて、近況は把握出来たところで」




 俺は手の甲をG・Rに向け、こう言った。




 「しばらくまたよろしく」


 「もちろん!」





 手の甲を合わせ、俺なりの歓迎の挨拶を交わした。



 これでパーティーは6人。

 俺、リンフィア、ミレア、コウヤ、ルージュリア、そしてG・Rだ。


 数日後から再開する旅は、少し騒がしくなりそうだ。

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