第1080話
起き抜けだが、状況はあらかた把握している。
どうやら、G・Rは約束通り俺を守ってくれていたらしい。
ただ強いて言うなら、ウルク達がここにいるのは少し驚いた。
恐らく、俺の動向を見張っていたのだろう。
しかし、正直こいつらはここに来ている気はしていた。
以前から何度か助けられている感じはしていたし、何よりG・Rが魂を一時避難させる技術を教わったと言っていたからだ。
そんなことが出来るやつは、ウルクと一緒にいる先代命の神の残滓………チビ神くらいだ。
まぁ、今は置いといて。
やはり、向こうも攻め込んできている。
外からの戦闘音的に相当大規模。
ミッションはまだ消えていないので、恐らくは領主として攻めてきているのではなく、別の何かの組織として暴れているのだろう。
だが、起きて仕舞えばこっちのもの。
あいつらも来てるし、すぐにでも、終わらせてしまおう。
まずは、目の前のこいつ………ベルドランドからだ。
「さて、ベルドランド。ぶっちゃけ、クソに成り下がったテメーに慈悲をくれてやる気は毛頭ねェが………腐ってもG・Rのダチだ。一回くらいなら、チャンスをくれてやるよ」
「何を馬鹿な………」
反発するのは当然。
チャンスも何も、ベルドランドには選択の余地がないのだ。
しかし、この意見がひっくり返る手札が、今のケンにはあった。
「選ばないってより選べないってところだろ? どうせお告げだ。だったら、サクッと元を絶てばいい」
俺はウルクに目配せをし、合図を送る。
ウルクは、俺の意図をうまく汲んでくれたようで、すぐに窓から飛び降りていった。
「あっ!?」
これで、この部屋には俺とG・R、ベルドランドとその取り巻きだけだ。
そして、起きた以上ここにはもう用事はない。
ベルドランドは、いち早くそれを察し、俺たちの方に向かってくるが、
「G・R!」
「はい!」
スキル【帰巣】
恐らく、この一連の騒動では最後になるであろう帰巣の使用によって、俺たちは別の場所に移動した。
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「………ここは………?」
移動した先は、どこかの建物。
戦闘音がかなりよく響いてくる。
先程の場所から、そう離れていないようだ。
「一応、避難してもすぐに『ノーム』さんに守って貰えるよう、戦場が良く見える場所にマークをしておき………ました」
流石は元傭兵。
戦闘面の手際のいいことだ。
確かに、すぐ近くに、『ノーム』の魔力を感じる。
これは相当派手に暴れているようだ。
「なるほど………んで、なんでこんな紛争が?」
「領主は自分の私兵を、『領主を貶めたヒジリケンに反発する集団』として暴れさせ、混乱を起こしているみたい………です。衛兵はその集団を食い止める役割をしているんですから、完全な自作自演………ですね。多分、それに乗じてケンくんを暗殺するのが目的なんだと思い………ます」
「へぇ………!!」
それを聞いて安心した。
であれば、ことの他簡単に平定させられそうだ。
「何日かぶりだが魔力は………よし、錆び付いてねーな」
俺は、魔力の循環を確認した後、窓の飛び乗り、神の知恵を発動させた。
使用するのは音魔法。
効果は拡声。
範囲は、カイト全域に。
「何をするん………です?」
何も知らないG・Rはキョトンとしていたが、生憎説明している時間はない。
実際に見てもらおう。
「まあ聞いてろ。耳は一応軽く塞いどけ」
すーっと息を吸い、魔法を発動。
魔法に声を乗せ、全てのものへメッセージを出した。
『カイトの市民達、ヒジリケンだ。たった今、疫病治療の目処が立った。これからすぐにでも患者の所に行って治療を始めたい』
「「「!!」」」
ありとあらゆる視線、そして戦場に渦巻く殺気が、一瞬にして俺に集中した。
当然、敵は向かってくるが、何よりも早く、最強の男は俺の目の前に現れた。
「ようやく起きやがったかァ………」
「悪ィな。護衛頼むぜ」
「おう、任せろ」
最強のボディガードがついたところで、演説を再開させた。
『だが、今俺は領主のためと言いながら暴れる謎の集団に命を狙われている。このままじゃ治すものも治せない。だから、この状況にも関わらず、出てくる様子のない領主を探して欲しい!!』
カイトにいるのであれば、多分本人にも届いている。
ここで終わらせる。
確実に、今ここで引き摺り出してやる。
『しかし、やつは多分出てこないだろう。何せ、ここ集団をけしかけてきたのは領主本人だからだ!! 出てきたところで奴にメリットはない。治療が終われば、今度は疫病患者に関する悪事が明るみに出る。どう転んでも奴は地獄を見る事になる』
あと一息。
そのタイミングで、一際大きい殺気が、こちらに突如近づいてきた。
「させんぞ!! ヒジリケン!!」
今度は槍を手に、建物ごと破壊しそうな勢いで、ベルドランドは突っ込んできた。
焦りが表情に出ている。
ここで俺を殺さなければ、もう機会はないのだ。
たった一度。
ここで死力をつくし、何としても仕留めたいところだろう。
だが、これには動じない。
動じる必要がない。
その可能性は、もう潰えているのだから。
「!!」
立ち塞がるは、元ノーム族長。
ギルド最強の男。
ベルドランドの焦りも、望みも、これまでの苦悩も、まるで意味がないと言わんばかりに、『ノーム』の一撃は、全てを薙ぎ払った。
「よォ、ニィちゃん。邪魔すんなよ………なァッ!!」
間一髪、槍を胸の前に差し出し、防御。
しかし、
「っっ、ぐ………ゥ、ォオオオ!?」
槍は中央から真っ二つに折れ、『ノーム』の棍は、ベルドランドを容赦なく地面へと叩き落とした。
さっさとしろと、『ノーム』はこちらを見た。
当然、そのつもりだ。
『これを聞いても、俺を信じられないものがいるのであれば、それは構わない。だから、真実は自分で判断しろ!! 俺は逃げない!! 好きなだけ監視しろ! それで患者が治らなかったら、俺は命を差し出すと、ここで誓うぞ!!』
里中に、声が響く。
これまでとは違う。
あらゆる音が消え、俺の声だけが静かに響いていた。
伝えたいものには伝え切った。
後は受け取り手次第。
そして、領主がどう出るか、だ。




