第1079話
突如現れた謎の助っ人。
その正体は、先の戦争で滅亡した人間界の大国、ルナラージャの元王女、ウルクであった。
「わー、ケンくんこんな状況なのに呑気に寝転がっちゃってるなー」
「貴様も、ヒジリケンの仲間か?」
「そうだよー」
身体を伸ばしてストレッチをしながら、やはり気の抜けた返事をするウルク。
「ならば、容赦はせんぞ」
「うーん、初対面の女の子に言うセリフじゃないね。そう思うでしょ? ケンくん?」
「!!」
ベルドランドは慌ててケンの方を向いた。
しかし、ケンは目を覚ましていない。
——————マズい、こんな古典的な手に——————
露骨な注意逸らしとも気づかず、まんまと振り返ってしまっていたベルドランド。
揃いも揃って間抜けを晒し、思わず隙を生んでしまう。
再び慌てて振り返った時には、
「このッ………………」
ウルクは、目の前に迫っていた。
しかし、ウルクは素手。
手甲すらない完全な丸腰。
恐るるに足りないと、ベルドランドは落ち着いて剣を構えた。
だが、ベルドランドは妙な胸騒ぎを覚えていた。
「よっ」
軽く放たれた一撃。
これといって特別強いという様子もない。
しかし、
「ッ——————」
ベルドランドは大きく下がり、間合いから外れる。
長年と経験で培った勘と本能は、それをわき目も降らず全力で回避した。
すると、ベルドランドの後ろにいた男に攻撃が向いた。
とぼけた顔でウルクを見つめる男。
警戒する必要性を感じない攻撃を前に、完全に舐めきっていた。
「ハッ、素手とは舐められたものだ」
素手で向かってくるウルクを馬鹿にするように手をかざし、正面から受け止めようとした………その時だった。
「馬鹿ッ、避けろ!!」
「は?」
声をかけたのは、先程奇行に及び、鉄仮面を逃す原因となった男。
ただならぬ様子で仲間に向かってそう叫ぶ。
だが、ことは既に、起きてしまっていた。
「それじゃ、頑張って」
パァン、と軽い音と共に拳がぶつかる。
重さはない。
当然、痛みもない。
これは、そういうものではないのだ。
「………おい、だいじょう——————」
先程の男が近づくと、ウルクの拳を受け止めた男が、一才の容赦なく、目の前にいた仲間であるはずの男を斬りつけた。
「………………ぁ、あ………?」
斜めに刻まれた一閃。
身につけていたローブから皮膚が、肉が見え、その一本の線は、瞬く間に赤く滲んでいった。
そして、力なく倒れていった。
「………え?」
程なくして、斬りつけた男が正気に戻る。
時間が飛んだような感覚。
血塗れの仲間と、赤く染まった自分の剣。
何が起きたのかは、明白であった。
「君は意志が弱いんだね」
呆然と立っている男に、そう呟くウルク。
そう、これは、ウルクの能力——————先代命の神が使っていた能力の、名残のようなものであった。
命と魂を司るその権能。
それによって、ウルクは魂に外部から干渉する能力を得たのだ。
「知ってる? 魂っていうのはちゃんと存在していて、それは外から傷つけることが出来るんだ。意志の弱い人は、とても脆い魂を持っている。だから、少し突けばこうやって暴走してくれるの。こうなりたくなかったら………私に触らない方がいいよ?」
「「「!!」」」
ベルドランド達は、一層強く警戒した。
しかし、これはブラフであった。
権能といっても、戦争の時に先代がふるっていた程の力はない。
少し意志の強い者であれば、簡単に解けてしまう。
だが、ハッタリには丁度いい力であった。
「傷は結構深いけど、まだ間に合うよ。逃がして治療するのをお勧めするかな」
「チッ………………誰か1人、そいつを連れて出て行け」
「おっ………俺が………!!」
斬りつけた男は、気が動転していながらも、大急ぎで外に出ていった。
「さてと、少しは落ち着けたかな。全く………人使い荒いんだから、ねぇケンくん」
と、ウルクはケンの方を見ながらそういった。
しかし、さっきの今で痛い目に遭ったばかりのベルドランドが反応するわけもなく、剣を構えてじっとウルクを睨んでいた。
「………そう何度も同じ手が通じると思ったか?」
「そう言うなよ。民間人巻き込んで無茶苦茶してるお前らと比べれば、嘘の一回くらい可愛いもんだろうが」
聞こえるはずのない声。
しかし、それはあまりにもはっきりとしていた。
恐る恐る、ウルクへの警戒を忘れないように、ベルドランドは声の聞こえた方に目をやった。
するとそこには、
「………………………まさか………」
「よお、半月ぶりくらいか?」
眠っていたはずのケンが、目を覚ましていた。
「ま、お前はどーでもいいさ………………………お前だ、ウルク。ってことは、さっきの鉄仮面は流か?」
そう。
姿を隠す能力を使っていたのは、まさしく流であった。
「せーかい! ってか起きてたんだー、人が悪いなー」
「勘弁しろ、起きたのはマジでついさっきだ」
さて、と言いながらベッドから起き上がるケン。
少しふらつきながらも、もう後遺症は残っていない様子であった。
「………………お、来てるな………よし」
何やら状況も理解しているらしい。
いや、それどころかその先のことも考えている様子であった。
「そんじゃ、この長ったらしいミッションをサクッと終わらせるとしようかね」




