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第1077話



 拘束具をつけられ、ボロ雑巾の様に横たわるメメス。

 魔力もほとんど残っておらず、体力については言うまでもなく限界まで削り取られていた。




 「彼女はこの話を聞いた途端に凄まじい剣幕で襲いかかって来てな。悪いが、こちらで拘束させてもらった。少しばかり手荒ではあるがね」




 領主は、2人を誘導する様にある方向へ視線をやった。


 そこで2人はようやく気がついた。

 暗闇の奥から、何者かが自分たちを見ていることに。




 「「————————————!!」」




 見た途端に、瞬時に理解した。

 凄まじい手練れである、と。


 そして、彼らがメメスに暴行を加えたと直感した。





 「万一君らが暴れた時のために、『組織』の上層部が送ってくださった。一応どころかトップの実力を持った傭兵。念には念を押させてもらった。ただ………君らはさらに別格。ともすればこの顔ぶれでも厄介な相手だ。故に………………もっと大きなものに頼る事にした」




 警戒する2人。

 その目の前には、




 「「なっ………………」」




 青い画面が、表示された。

 ウインドウ………と言っても、プレイヤーとは違い、それは一つの機能しか宿していなかった。


 つまり、画面の表示は、お告げが下る事を意味する。





 「この世界の“神”は、今私の味方に付いている。筋書きに必要な私の後押しをしてくれるのだ。逆らおうなんて思わない事だな」





 今はまだ2人には意味のわからない発言であろう。


 このお告げが後に始まる王の選別のための準備であるなんて、思ってもみないはずだ。




 「さぁ、名を失いたくなければ、そのお告げをまっとうする事だ。大して難しいことではない。覚悟と忠義を示せばいいだけなのだから」





 酷い裏切りだ。


 傭兵と言えど、2人は領主に信頼を置いていたし、正しいことをする人物だと信じていた。

 今は力のない領主でも、いずれそれに相応しい人物になると思っていた。



 だが、実際はこのザマだ。



 こうなった以上、信用などもうどこにもない。

 あるのはただ不信感と怒りのみ。

 忠義など、もっての外であった。



 ………しかし、それでも2人が動けなかったのは、やはり名を失うと言う事に対する恐怖があったからだ。

 未だ解明されていないと言う意味では、疫病以上に得体が知れない。




 「………ベル」


 「従うしかないだろ。何が起きるかわからないんだぞ。それによく考えろ。俺たちは別に正義の味方をやっているわけじゃない。これくらいの悪事、目をつむろう」


 「っ………」




 わかっているつもりだ。

 それでも、【彼女】はどうしても反発してしまう。





 「懸命な判断だ。しかし、安心しなさい。私は悪どい事をさせるわけではない。これから下されるお告げも、あくまでも領主として必要な行動に過ぎない。なに、単なるゴミ掃除だ」


 「………?」





 単なるというが、そんなわけがないと2人はあからさまに警戒していた。


 そして、ゆっくりとウインドウに映った文字を読んでいく。

 長々と書き綴られた文章。

 要点を飲み込んでいく。



 すると、ある地点を境に、【彼女】の訝しげな表情が消えた。

 思考が止まり、何も考えず頭から読み直す。


 だが、当然何も変わらない。

 飲み込めないのは状況ではなく、現実そのもの。





 しかし、何度も目にしたものを前に現実から逃避し続けるられるわけなく。






 【彼女】は大きく表情を変えた。




 




 「………………………これを、本気でやれと?」




 お告げの内容は、要約すればこうであった。




 『反逆者メメスを、処刑せよ』





 「不服か? たかがゴミ掃除だろう?」


 「貴方には、ゴミに見えているん………ですか………?」


 「不穏分子な上に、愚かにも領主に逆らった罪人。もはや役に立たないただの肉塊に、別の使い道があるとは思えんのだがなぁ? ………そうだ、娼館にでも売るか? 少しくらいは稼げるだろう? ははは、これをまだ使おうなんて、お前もなかなか悪どい——————」






 ブチ、と。





 理性を繋ぎとめていた手綱が、ちぎれた様な音がした。


 タガが外れ、魔力が吹き荒れる。

 怒りはやがて殺意に。

 意思に従い、一切の躊躇なく槍を持ち、心臓へ一直線。



 風を纏い、最高の威力で放たれる。






 「ァァァアアァアアアアアアアアアッ!!!!!」






 そして、怒号と繰り出された殺意の一撃は——————















 「………………………なに、してるの?」




 思いもよらぬ一撃はから放たれた攻撃によって、不意をつかれた形で阻止された。


 それも、今自分と同じ立場に立っているはずのもう1人の友人——————ベルドランドから。




 「やめろ………お告げが下ってしまってるんだ。これを下してくる奴が向こうについてる限り、何をしても無駄なんだよ」


 「………見捨てる気?」


 「わかってくれ【——————】………お前も知ってるだろう? 今の妖精界は、どうしようもなく理不尽なんだ。お告げも、白紙化も、疫病も、俺たちにはどうすることもできない!! だが、ただ流れに身を任せていれば、少なくとも死なずに済む………………お前まで死ぬことはない」




 お前まで。


 つまり、ベルドランドはもう、メメスを諦めているということ。


 いや、それどころか——————ベルドランドの武器が、あらぬ方角を向いていることがわかった。



 刃の先は、倒れている罪人の方へ。

 刃と罪人。

 道具を持つのは、権力に屈した処刑者。



 何が起こるのかは、いうまでもない。






 「………待って………………ねぇ、何して——————!!」














 喉が裂けんばかりの慟哭と、断末魔の叫びが響く。


 もう1人の友は、血飛沫が止んだ頃には、【彼女】にとって、絶対に許せない敵へと変わっていた。














——————————————————————————————













 こうして、仲間よりも保身を選んだベルドランドは、予定通り執事に。


 そして、友を失い、怒りと共に刃を振るった結果、【彼女】は名を失い、G・Rとなった。

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