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第1076話



 G・R



 槍使いの少女。

 彼女は以前、領主の元で働く傭兵であった。



 そして、数多くの傭兵の中で最も実力があったというベルドランドを、実は上回っていたのだ。



 しかし、そんな彼女だったが、とある出来事により領主の元より離反することになった。

 名前も、その時失うことになったのだ。



 これは、その名を失った日の………【彼女】がG・Rとなる前の出来事である。











————————————












 「側付き………か」




 領主直属の護衛。

 特に忠義があったわけでもないが、金払いがいいので、という理由で、【彼女】はなんとなく引き受けた。


 そんな【彼女】は今、任命式を終え、呼び出しを受けていた場所に向かっていた。


 馬車に乗って数日。

 領主の別荘があるという寂れた里だ。




 「なんだろう………お金くれるのかな? 特別報酬くらいあってもいいよね」




 そんな軽い気持ちであった。











——————————————————











 「え?」



 


 領主の別荘、その離れにあるとある部屋。

 そこには、兼ねてよりの友人であり、傭兵としての腕を競い合ったライバルであるベルドランドもそこにいた。




 「ベル、何してるの?」


 「いや………就任式で一緒にいただろう。お前は護衛騎士、俺は執事。一緒に昇進したろう?」


 「そんな昔のことは忘れたよ」


 「5日前を昔と言っていいのはセミくらいだぞ」




 やはりここでも、【彼女】は掴みどころのない性格をしていた。

 ベルドランドも、【彼女】には振り回されていた。




 「………一応言っとくが、俺たちだけじゃないぞ」


 「うん知ってる。メメスちゃんでしょう? そんな事、忘れるわけないよ、この間私と一緒に昇進したんだから薄情だなぁ」


 「もう病気だよお前」





 文句を言いつつも、雰囲気は良かった。

 振り回されるベルドランドも満更ではないし、こうも自由な性格を受け入れてくれるベルドランドを、【彼女】も気に入っていたのだ。




 「それで、メメスちゃんは?」


 「先に領主様の所に行ってる。相変わらず懐いてたな」




 メメス・サリマール


 2人と同じ傭兵であり、カイト設立時から領主を慕っているエルフの女。

 そして、2人の親友でもある。




 「なりゆきで領主になった人だけど、なんだかんだだ領地もやっていけてるしね。このまま順調に近づいたらメメスちゃんの夢である玉の輿も叶うかもね」


 「馬鹿野郎、屋敷で滅多な事を言うもんじゃ………」




 人目も憚らずとんでもない事を言う【彼女】慌てて止めようとするベルドランド。

 すると、




 「成り行きでも、最後に相応しい存在になれたら十分さ」


 「「!!」」




 肩を叩かれたベルドランドは思わず、ヒュッと変な声を出していた。


 ついさっきから領主がいたことに気付いていなかったのだ。

 これには【彼女】も流石にまずいと思ったのか、ベルドランドの後ろに隠れていた。




 「うお!? お前なに隠れてんだ!?」


 「知らないの? 首謀者は目立つところにいるものだよ」




 ギャーギャーと喧しく騒ぐ2人を、微笑ましそうに見る領主。




 「構わん。実力でこの地位についたとは思ってはおらんよ。しかし、ついに私も上に立つに相応しい力を手に入れる目処が立ったのだ」


 「!!」





 思わず、ベルドランドは歓喜の声を漏らした。

 成り行きで領主になり、白紙化によって路頭に迷っている皆を引き連れてここに至るまでの苦労を知っているためか、どこか誇らしげな表情であった。




 「では、今日呼ばれたのはそのための………?」


 「そうだ。側近としてこれから働くお前達には話しておくべきだと思ってな…………ふむ、立ち話もなんだ。移動して早速本題に移ろう」





 領主は踵を返し、2人についてくる様に指示を出した。

 すると、





 「あの、メメスちゃ………コホン、メメスも召集を受けたはずなの………ですが………」





 一向に現れない友人について、【彼女】は領主に尋ねた。





 「お前、相変わらず敬語が下手だな」




 と、浮かれていたベルドランドは揶揄うようにそう言った。




 「うるさい!! それで………メメスちゃ………メメスは………」


 「………詳しくは向こうで話そう。いいな?」


 「………………」






 妙な悪寒と共に、【彼女】はわずかに固まった。


 ほんの一瞬故に、気のせいかと頭を振ってついていく。

 そして、違和感を僅かに抱えたまま、ベルドランドと共に領主の元へついていった。




 この後、他愛無い話をしながら、彼女は歩いていった。

 最近の事や、それこそメメスについての話題。

 とにかく、いろんな事を2人と話した。




 何故だか、そうしなければと思ったから。

 日常に、影が差している様な気がしたから。


 しかし、話しても話しても、影は一向に消えない。





 それどころか、先程感じた違和感を裏付ける様に、領主に強い不信感を抱くようになった。

 何か様子がおかしい。



 【彼女】の中の領主が、次第にズレていく。



 そして、気がつくと、影はどっぷりと全てを飲み込んでいる様な気がした。


 







 「………………………あの、領主………様」


 「なんだね?」


 「どちらに向かっているの………ですか?」





 はははと乾いた笑い声を出す領主。

 笑うというより、嗤う、であった。



 すると、しばらく何も言わずに歩き続けた。

 廊下の雰囲気も、少しおかしい。

 照明が極端に減り、物々しい雰囲気が漂っている。



 そのまま歩いていると、ふと、




 「ふむ………丁度いいな」




 と呟いて、領主は回れ右をした。

 2人と向き合う形になった領主は、笑みを浮かべ、先程の質問に答えた。




 「言っただろう? 将来の目処が立ったから、情報を共有しておきたいのだ。これから共に働くであろうお前達2()()に」



 「2人………?」





 ここで、ベルドランドも様子がおかしいことに気がついた。

 領主はそれについて何も答えず、再び2人に背を向け、扉の取っ手に手をかけた。


 そして唐突に、主題を語り始めた。




 「………いま、領地では疫病問題が起きている。何人もが犠牲になった難病。それについて、私はある情報を得た。それは………………この疫病は、伝播性のある病では………いや、そもそも病でもなんでもない、と。そして、決して治せない一種の現象である、と」


 「「!?」」




 突然そう語られ、2人はあからさまに動揺していた。

 しかし、領主は続ける。





 「しかしね、その現象についてある解決策も見出された。君らは知らないだろう?この疫病による死亡者は、遺体が残るのだよ。妖精は死ねば自然のものへ還る。だが、この現象で死ねば例外として残るのだよ。そしてなんと」




 決して聞いていて楽しい話ではない。

 縁起も悪ければ、気分も悪い。


 そして、胸糞の悪くなった【彼女】に追い討ちをかけるが如く、この話で最も不愉快になる事を領主は言い放った。





 「その遺体を取り込めば、素晴らしい力が得られるという話だ」


 「「!!」」





 豹変する笑顔。

 邪悪が表に現れた。


 違和感は確信へ。


 小さな影だと思っていたものは、いつのまにか闇になっていた。




 「どうだ素晴らしいだろう!? 不治の病に罹った者も、最後は私のために死ねるのだ。私も別に殺すと言うわけではない。ただ、死後その肉体を譲り受けると言うだけの話だ! 確かに倫理的に問題を指摘する様な輩がいるだろうが、そんなことは些事だ! どうせ死ぬのなら、誰かの役に立つべきだ、そうだろう!?」



 「「………………………………………」」





 絶句する2人。

 それを見て、領主はやれやれと頭を振った。





 「全く………誰も彼も始めはそんな顔を見せてくる………もう見飽きてしまったよ………………そういえば、彼女もそんな顔を見せたね」


 「………え?」






 領主は、徐に扉を開けた。


 そして、【彼女】は目の当たりにした。






 「メメス………ちゃん………………?」





 ボロ雑巾の様に打ち捨てられた、見るも無惨な瀕死の友人を。

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