第1075話
「野郎、遂に手段を選ばなくなったなァ」
『ノーム』は忌々しげに舌打ちをした。
ケンが眠って5日。
予想以上に眠り続けているところに追い討ちをかける様に、敵が襲って来た。
現在、『ノーム』を筆頭に、ギルドの冒険者やG・Rでケンの護衛をしていた。
流石に『ノーム』やG・Rがいるので、そう簡単に攻め入ることはない。
だが、物量勝負と言わんばかりに、護衛をしているギルドに敵が押しかけて来ていた。
流石に、下手を打てば無防備なケンはやられる恐れがある。
「くそっ、呑気に寝やがってこの金髪坊主………」
「起きないものは仕方ない………です。私ももう結構眠い………です」
「おい馬鹿野郎。俺たちゃ守備の要………おぉいい!? 何寝てんだてめぇ!!」
まだこんな話をする程度の余裕がある………という単純な話ではなかった。
殺気立った戦場の中でもつい糸が切れた様に意識が飛んでいるのを見るに、限界というのは本当にギリギリという意味で言っているのだ。
連日不定期に行われる襲撃に、流石の2人も疲れ果てていた。
だが、これだけ派手に襲ってきても、民衆からは特に領主に対する反発は起きなかった。
それもそのはず。
今回の襲撃、領主の仕業ではあったが、世間から見れば領主によるものではなかったのだ。
そして、連中の暴挙を報告にしにやってくる慌しい足音が聞こえて来た。
「アニキ! 増援だ!」
顔をガチガチに固めた鉄仮面を被った男が、『ノーム』にそう叫んだ。
「味方か!? 敵か!?」
「敵の方だ! また、“信者” が増えやがったぞ!!」
そう、今回の敵は、領主に心酔する信者——————を、装った領主の兵であった。
領主を嵌めようとするヒジリケンを引き摺り出そうとする領主の信者として、動いていたのだ。
そして、衛兵や残った兵は、その暴徒を止めるという立場になり、あくまで無関係を主張。
疑問は持たれても、クエストの好感度が、敗北が決定するレベルまで下がることはなかった。
「連中、時々市民を襲った後に衛兵に助けさせて、自作自演までしてやがる」
「なッ………………そいつァ確かなのか!?」
「ああ、妙な兵がいたから追って行ったんだ。そうしたら、やられた信者はやられたフリをしてやがった!! ちくしょう………………ダメだ、こうしちゃいられねぇ………『ノーム』のアニキ、俺は加勢してくるぜ!」
「おう。こんなくだらねぇゴミどもに殺されんなよ」
一例すると、鉄仮面の男は外へ向かって行った。
「………クソッ」
苛立ちを含んだ声を絞り出す『ノーム』。
明らかに、落ち着きがなくなっていた。
彼の任務は、唯一疫病に対抗できる手段を持った男を護衛すること。
圧倒的なまでの強さが、皮肉なことに彼が今戦えない理由になってしまっていたのだ。
「『ノーム』さん………」
「わァってる。俺が行っちまえば、ここが手薄になる。それでこいつが殺されでもしたら、それこそ取り返しがつかん」
G・Rは、苛立っている『ノーム』を宥めようとした。
しかし、ふと一つ、ある思考が頭をよぎった。
(………本当にそうなの? これだけの戦力、ここにいさせていいの?)
もしかしたら。
前提はつくが、可能性としてはあり得る。
敵の狙いが、『ノーム』がいない状況を作り出すという可能性が。
「………貴方なら、外の敵を一瞬で制圧出来………ますか?」
「? ………………まぁ、この辺にいる様なほぼ白紙の連中だったら一瞬だろうさ」
腐っても鯛とはいうが、仮にも族長。
ここに誰もいないのならともかく、護衛できる人物がいるのに止めるのは、絶対にマズい。
ならば、
「それじゃあ、一瞬で行って帰って来て………下さい。敵も多分じゃぶじゃぶ沸いてくるわけじゃないと思い………ます。虫じゃないんだから」
一理ある………………などというワンクッションを置く事はなかった。
待ってましたと言わんばかりに、ノームは武器を手に立ち上がった。
「いいのか? 本当に行くぞ?」
「急いで………下さい。それに、私が大丈夫な理由は、よくわかってる………でしょう?」
「!………なるほどなァ」
そう。
彼女には、“帰巣” のスキルがある。
いざとなれば、どうとでも逃げる手段は付いている。
「それじゃあ…………」
瓢箪を加え、酔いを回す。
肉体はわずかに膨らみ、『ノーム』の魔力は荒々しさを纏った。
そして、
「っぷァ!! 行ってくらァ!!」
『ノーム』は、戦場へと駆けていった。
「………………できるだけ早くして………くださいね」
そう。
『ノーム』の戦闘参加は、ある種の鍵だ。
味方からすれば、戦場を終わらせる偉大な武器であり、敵からすれば数少ないチャンスである。
メリットもあるが、隙を生む分デメリットも大きい。
確実に患者を救いたいのであれば、籠城も手だ。
しかし、それでは外でじわじわと死人が出て来てしまう可能性がある。
籠城しても、犠牲は生まれるのだ。
救うことが目的でケンを守っているのだから、そのための死人を出している様では本末転倒もいいところだ。
ならば、賭けに出る価値はある。
ただ、やはりこれは賭けなだけあって、当然の如く危機は訪れる。
あれだけ派手に強い男が登場するのだ。
敵も当然即反応する。
いや、反応したと言った方が正しいか。
「………気配の消し方、上手くなったね。ベル」
かつての旧友、ベルドランド。
敵側の最高戦力であり、恐らく、G・Rよりも格上の存在。
ある程度わかっていた。
確実にケンを殺すのであれば、彼が投入されるということは。
「久しいな——————………っと、名を失ったんだったか」
「正しいことをした結果だから、後悔はないよ。貴方と違ってね」
「ッ………………」
この2人には、とある因縁があった。
それは、G・Rが名を失ったきっかけであり、領主の元を離れた原因でもある。




