第1072話
「暴走………」
目覚めた力を御しきれていないのか、ミレアは意識がないままフルパワーでリンフィアを攻撃しようとしていた。
目覚めた能力の内容は不明。
しかし、まず間違いなく喰らなひとたまりもないとわかる程の力をひしひしと感じていた。
ただ、こうしている間、ミレアは一切攻撃をしてこないでいた。
妙だと思ってリンフィアはじっとミレアを観察し始める。
すると、
「…………うっ………ぅ」
「!!」
僅かにだが、抵抗している様子は見えた。
どうやら、まだ完全に力に飲まれたわけではないらしい。
「ミレアちゃん!!」
「う………ぐぅ………」
以前抵抗を続けるミレア。
苦悶の表情を浮かべ、顔を押さえて呻いている。
時折、私は………私は………と、うわ言を呟いていた。
強くなった筈のミレアの姿は、それはもう弱々しいものであった。
「どうすれば………………」
何をすべきか、必死に考えるリンフィア。
どうすれば正気に戻るのか。
倒せばいいというものではないことはわかっていた。
しかし、だからといって別の案は考えつかない——————わけでもなかった。
「………いや、もしかしたら」
原因である力が弱まれば、どうにかなるかもしれない。
ではどうするか。
そう考えた時、リンフィアが思いついたのは、力の発散であった。
あれだけの力を放出すれば、疲れて力が弱まるかもしれない。
そうなれば、制御出来る様になる可能性は十分にあった。
そして、発散するための的も、おあつらえ向きのものがあると、リンフィアは自覚していた。
「………操れないのなら、そんな力諦めてしまいなさい!! あなたには、身に余る!!」
「!!」
声が届いたのか、殺意は一気に増していた。
これがミレアの発する殺意か、力によって訳もわからず敵視しているのかは不明。
だが、何にしても食いついた。
殺意を向けられる立場としては、少し複雑だろうが。
「やってもないのに、先のことなんてまだわからないのに、勝手に悲観して、焦って、先走ろうとするから呑まれるんです!! あなたが何もできない様な人なら、私たちは最初から手伝ったりなんかしてません!! それなのに………あなたががあなたを見限ってどうするんですか!?」
「ぅ、が………ぐぅ………ぁ——————」
その瞬間、ぶらりと腕が吊り下がる。
脱力し、俯いて、呻き声も止んだ…………その瞬間、
「!!」
羽根は大きく広がり、その優雅な見た目からは思いこ寄らぬ速度で、弾ける様に、飛び出した。
(っ………速ッ…………!?)
風を切る巨大な塊は、着地寸前で急減速し、音もなく着地。
予想以上の身体能力の変化に、リンフィアは息を呑んだ。
あまりにも上げ幅が大きい。
恐らく、本来はゆっくりと解放されるであろう力が必要以上に引き出されている。
暴走の原因も、それであるとリンフィアは睨んでいた。
一方で、凄まじい怒気を纏った目でリンフィアを睨みつけている。
すると、
「ぅ、ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
極限まで貯められた力が一点に集まり、ミレアの意識は一層リンフィアに向かった。
覚悟を決めるリンフィア。
手を広げ、ここだと自分を主張し、大声でこう叫んだ。
「さぁ、来なさ——————」
一歩、踏み出した瞬間、ミレアはもう目の前にいた。
目で追うことは出来た。
以前のリンフィアの力ならば、十分対応できる速度。
しかし、それは白紙化以前の名残りであり、今ではもはや対応不可能なほどの超速度。
ブワッ、と汗が滲む。
想定外の速度、対応は不可能。
どう転んでももう防御も回避も間に合わない。
力を貯めたミレアの手は、リンフィア胸にふれていた。
正しくは、心臓の前に手を置いていた。
そして、ミレアは収束させた “全力” を、何一つ容赦なく解放した——————
「………………………?」
数秒経過。
身体にこれといった変化はない。
そして、何故かミレアの力の大半は、すでに分散していた。
理由はわからない。
今何かが起きたのか起きなかったのか、自分が自覚していないだけで、体には異変があるのではないのか。
次々に起こる以上事態に、リンフィアは目を回していた。
だが、今何をすべきか、それだけは見失うことなく、気がつくとリンフィアは動き始めていた。
両手を開き、力を垂れ流すミレアの顔に向かって手のひらを叩きつける様に両手を閉じ、そして、
「目を覚ましなさいッッ!!」
「——————」
顔を近づけ、叱りつける様にそう叫んだ。
声がこだまし、あたりがしんと静まり返る。
数秒の静寂。
暴れていたミレアはピクリとも動く様子はない。
大きな力を使った反動だろう。
ただ、暴れない保証はない。
この距離ならば、動き出した瞬間リンフィアはやられてしまうだろう。
しかし、それでもリンフィアは動かなかった。
それは、ひとえにミレアを信じているからである。
「………ミレアちゃん?」
すると、
「………………ごめん、なさい………」
「!!」
そう言って、意識を失った。
倒れ込むミレアを、抱きしめる様に支えるリンフィア。
今確実にミレアは正気に戻っていた。
様子を伺うが、どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
衰弱している様子はない。
「お疲れ様です………」
そう言って、ゆっくりと座りミレアを寝かせようとした。
ここはまだ焼け野原になっていない。
柔かい草の上で、ひとまず休ませてやろうとしたのだ。
「………?」
しかし、ふと違和感を覚えたリンフィア。
やたらと地面がゴツゴツしている。
そう思って振り返り、斜め下を向いた。
そして、不可解なものを目の当たりにした。
「————————————は?」
緑の中に突然むき出しになった、灰色。
草でも土でもない。
土地が削られているわけでもない。
にも関わらず、変わっていた。
いや、置き換えられていた。
その一帯、原っぱの中、一部だけ不自然に岩場と化していたのだ。




