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第1068話



 「殺し合いって………本当にギリギリの戦いをしろって事ですか!?」


 「それが条件ですので」




 リンフィアは絶句していた。


 本気の模擬戦はこれまで幾度となくケンやニール相手にもやっていた。

 しかし、それはあくまでも相手が圧倒的に強いためであり、実力がある程度拮抗している相手との模擬戦で本気を出した事は皆無であった。





 「………それ以外の方法は?」


 「今のところありません。過去成功した例はこれだけ。要因がわからない以上、これで試す他ありません」




 それ以上、ミレアは何も尋ねなかった。

 取り乱す様子はない。


 むしろ、かえってスッキリしたような顔をしていた。


 それでいて、どこか決心したような、覚悟を決めたような雰囲気があった。



 そして、どうやらリンフィアはそれに気がついたらしい。




 「! ………………これは、覚悟を決めた方がいいみたいですね」


 「ごめんなさい。でも、貴女が相手なら私は心置きなく戦える。“ギリギリ” で戦える」





 容赦なく戦えるというのは、ある意味信頼の裏返しだ。



 しかし、リンフィアの心配は別の部分にあった。

 今のところ杞憂となるかもしれない些細なものだが。


 ただ、今確かなのは戦わなければならないという事。

 戦ってミレアが目覚めなければ、犠牲者が生まれるという事。



 戦う理由は、十分にある。






 「………………………………………わかりました」





 幸い、周囲は一切の障害物のない原っぱ。

 おあつらえ向きだ。




 「どれくらい、追い込みますか?」


 「極限状態で、何かきっかけがあれば目覚めるとのことなので詳しくは………」





 条件は不明。


 だが、きっかけがいるという事は気を失わせるわけにもいかない。

 互いに、苦しい戦いになるのは目に見えていた。





 「だったら、とことんやります。ルージュリアちゃん達は、泉の近くの小屋にいて下さい。集中するので」


 「わかりました。強化魔法はあらかじめかけておきますので、存分に戦ってください」


 



 ルージュリアは、コウヤに目配せすると、少し離れた場所にあるあばらやに向かっていった。




 「………銀髪ちゃん。多分あの子………」


 「大丈夫、気にかけてます」




 コウヤは目を見開くと、リンフィアに一言頑張れと言ってルージュリアの後を追った。





 「準備万端ですね」





 少しピリついた空気の中、ミレアはそう言った。





 「私たちの仲ですし、あんまり深刻なのは嫌ですけど、そうも言ってられませんね」


 「ええ。条件が条件ですし、本気ですから」






 その一言で、一気に空気は引き締まった。



 原っぱは、今この時から戦場へと変わった。

 殺意はない、されど闘志は十分。


 鋭くなった目つきで互いを見つめ、リンフィアはグローブを纏った拳を握り、ミレアは杖を握りしめた。




 「………………」


 「………………」




 付き合いは1年から2年。


 学院にいた頃は交流はあまりなかったことを考えると、実質的には数ヶ月。

 それでも、共に旅をして死線をくぐり抜けたことで培った絆は確かにある。


 ああ言っていたリンフィアも、目的を早く果たしたがっているミレアも、本心は戦いに向かっていない。




 これは、模擬戦ではない。

 己の技を試すことではなく、追い込み、傷つけることが求められている。





 だから、この時ばかりはあらゆる情に鍵をかけ、拳を振るうことを共に決めた。






 「「行きます——————」」







 睨み合い…………は、始まることなく、先手は掛け声と同時にいきなり放たれた。






 「はァッッ!!」


 「!!」






 グローブから放たれる魔力弾。


 しかし、形状が通常と異なる。

 先端が尖り、小型化されたそれは、虚を突く形でミレアに迫った。




 「くッ………」




 すんでのところで雷魔法を発動。


 最速の属性である雷魔法を使ったことが幸いし、魔法弾はミレアの目と鼻の先で衝突し、瞬く間に弾けた。



 額から流れる小さな汗。

 “本気” を実感し、ミレアは不敵な笑みを浮かべた。





 (流石………貰って数日の装備に、もうアレンジを——————でも)






 「見切ってます!!」


 「!!」




 首を捻り、視線は上空へ。



 半歩、最小限の動きで迫り来る魔法弾を回避。

 そのまま間合いから外れつつ、即座に雷魔法を放った。



 リンフィアは着地前。

 空中、近距離な上ドンピシャで攻撃が迫る。


 しかし、





 「甘いっ!!」





 背中に一瞬羽を生やし、一瞬のホバリング。

 着地体制になると同時にギロリと視線をミレアに持っていく。




 位置を確認。

 組み上がった次の一手に備え、魔力を回す。

 そのまま着地と同時に飛び出そうとする——————が、







 ゾワリ、と。







 「…………!! ちッ………がァう!!」





 瞬間、不自然な魔力を検知。


 即座に地面を蹴ってブレーキをかけ、ミレアが去り際に地面に仕掛けた罠を回避。


 魔力を貯めつつ、一度距離を置いた。






 「ハァ………危ない…………」





 奇襲に奇襲を重ねていたが、騙し打ちはミレアには通じない。

 それどころか、逆に喰らいそうになっていた。





 「………そっか、あの目が………」





 そう。


 感情を見抜く目は、仕掛けようとするミレア内面を見抜き、あらかじめ攻撃を予期させていた。




 しかし、リンフィアも引けをとっていない。


 変形による自由な戦闘スタイルは、間違いなく手数を増やしている。





 まさに接戦。


 だが、まだ始まって数秒。

 本当の戦いは、これからである。

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