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第1065話



 「ちか、ら………………」




 力を求めるか。

 そんな問いを聞き、つい思い出してしまった。



 それは以前、カーバンクルの異界童話を行なっている最中に現れた、緑髪の男に言われた事。

 ミレアははっきりと、弱いと言われた。


 その男には、この妖精界に来てすぐの頃にも、弱いと言われた事がある。



 誰よりも弱い、と。



 ケンはおろか、リンフィアにまで庇われ、何もできなかったミレアを見て男はそう言ったのだ。

 それはある意味言われて当然ともいえる意見であった。


 それ故奮起し、強くなろうと誓ったのは事実だ。

 だが、図星を突かれ、酷く惨めさを感じたのもまた事実。





 外界にいた頃から、ミレアはケンの周りにいた皆に、常に圧倒されていた。

 そして、この妖精界でも、神威を持ったケン・リンフィア・コウヤに追いつけず、未だ誰よりも弱かった。




 頼もしいはずの背中は、いつしか壁のように思えて来た。

 一枚ではなく、さらに壁は、日に日に高くなっていく。






 超えられるのか?


 自分に?







 「——————!!」








 ゾッとした。


 このままこんな思い抱き続けることを想像し、ミレアは足をすくませた。




 震える唇がゆっくりと開く。

 原動力は、向上心でも覚悟でもなんでもない。

 今、ミレアの喉から這い上がる声は、ただひたすらに、恐怖から出でたものであった。





 「どうすれば………………強く………もっと強く………なれますか?」






 ——————力を望むか………………ならば、今一度我が問いに答えよ






 声の主は、再びそう言った。





 「問い………?」





 ——————此度は例外である。前人未到の秘境たる、この泉まで辿り着いた汝の評価し、我は力を与えよう。ただし、汝が力を得るに相応しくない者であれば、





 「っ………………!?」






 ミレアは、血の気が引いていくのが、自分でもはっきりとわかった。

 首から下の感覚が、いつの間にか消えていたのだ。






 ——————相応の覚悟をせよ。






 その瞬間、全身に凍るような悪寒が走った。



 体の支配権がない。

 誰の仕業かは、火を見るよりも明らか。


 心臓を鷲掴みにされているも同然の状況であった。






 …………しかし、今感じている恐怖よりも、ずっと恐ろしいものがあると、ミレアは知っていた。

 震えている場合ではないと自覚するミレアは、見えない声の主を睨むつもりで前を向き、こう言った。





 「覚悟は、あります!!」





 ——————偽りは即ち死す。力を渇望せし若者よ。我が問いに答えよ。






 「………!」





 暗転。


 視界は、一瞬にして黒に染まる。

 その中心に、たった一箇所だけ、小さな光が差していた。


 スポットライトに照らされるように、それは暗闇でひときわ強い存在感を放っていた。




 見えるのは、小さなぬいぐるみ。

 金髪で、見覚えのある派手な髪型をした女の子。

 誰なのかは、すぐにわかった。





 「これは………私?」





 口に出す。


 これがトリガーだという風に、光が大きくなる。

 ミレアの人形の足元には、夥しい数の人形が敷き詰められていた。


 ミレアの人形は、たった1人その屍の山の上で、杖を掲げていた。



 状況は凄惨なもの。

 しかし、可愛らしい見た目がその凄惨さを薄れさせ、この状況に浮きでたある事実だけをミレアの目に映らせた。




 ………ああ、これだ。




 そう思いながら人形を見るミレアの目には、羨望が宿っていた。


 1人でも、他を圧倒する力。

 これは、ミレアにとっての理想であった。






 ——————汝が思い描くは、比類することのない圧倒的な強さ。


 しかしそれは、夥しい死を生み出す。





 「!!」





 力とは振るうもの。

 振るえば即ち、敗者を生む。

 力を望むということは、敗者を望むということ。



 そして、その敗者の中には、言わずもがな、命尽きた屍も、数多く存在する事になる。


 目の前に見えるこの光景のように。





 ——————問おう。汝、この景色を意味を理解し、なお受け入れるか?





 重たい質問だ。

 この力を手に入れ、強くなれば、必ず他のプレイヤーと戦う事になる。


 守護者は、妖精界で息絶えても死なないと管理者は言っていたが、ミレアのような王候補は、ここで死ねばそのまま目覚める事はない。


 王候補の中には、善人もいるだろう。


 それでも、その誰かの血を啜り、屍を踏み越えてもなお王になる覚悟があるのか。




 これは、そういう問いだ。






 「私は——————」






 喉から手が出るほど欲した力。


 これがあれば、追いつける。

 隣に立てる。



 ………——————も、なくなる。



 その気持ちは揺るがないもの………なのに、目の前に映る屍の山を見て、伸ばした手は掴みきれずに宙に浮いていた。


 人の死は、戦争で散々経験した。


 だからと言って、安易に殺しを是とするような考えを受け入れるわけにもいかなかった。






 そういう考えは、“彼” が忌み嫌う浅ましいものだから。







 「私は………」




 答は出ない。

 でも、答えなければ、得られない。


 ミレアは悩んだ。


 同じことを何度も頭の中で回し続け、“これがいい” を求め続けた。



 そして、





 「私………は………………」






 ——————答えられぬか。若者よ






 「!!」





 心臓が、跳ね上がる。



 ダメだ。


 見限られる。


 早く答えなくちゃ。



 ミレアの焦りは加速していく。

 欲しいという一言を言えばそれでいい。

 それで意思は伝わるし、その意思に嘘はない。




 しかし、躊躇いが、喉を塞いでしまっている。


 漏れるのは、意思と共に放たれた欲望。

 塞ぐのは、理性と()()から現れた躊躇。



 より強いのは——————

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