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第107話


 「人の家に勝手に入ってくるな」


 なるほどもっともな意見だ。

 確かにその通りである。


 「この家のガキに呼ばれてんだよ」


 「! お前ッ! 妹に何かしたのか!」


 妹?

 ああ、あのガキか。


 「何かしたって言うか、あのガキ共の家に病人がいるから助けてやるって言っただけだ」


 「ガキ共?………まさか、クソッ、あのクソガキ共、また俺の妹を誑かしたな………」


 「あ?」


 誑かした?

 いや、そんな感じじゃなかった。

 この少女は完全に自分の意思で来ている感じだった。


 「どう言うつもりか知らないが、帰ってくれ。仕事の邪魔だ」


 「ああ、帰ってやるよ。病人直したらな。場所教えろ」


 「何? お前医者か? ………いや、どちらにしろ信用出来ない。帰れ」


 一切聞く耳を持ってない。

 多分、騙されたんだな。


 「言っとくが、お前を騙したやつらと俺は無関係だぞ」


 「!? 何故それを………どこで聞いたか知らないがますます信用できない。帰らないって言うなら………」


 男は、足元の包丁を拾い上げた。


 「身ぐるみ剥いで追い出してやる………」


 「ハァ………」


 俺は頭をかきながらため息をついた。


 あの焦点の合ってない、泳ぎまくった眼。

 完全におかしくなっている。


 全く………


 「つまんねーことさせんじゃねーよ」


 俺はゆっくりと近づいて行く。


 「俺がやれないとでも思ってるのか? 馬鹿め………」


 男はその瞬間一気に飛び出して、腕を引き、グッと踏ん張った後、一気に前を刺した。

 俺はそれを、


 「よっと」

 

 中指と人差し指で挟んだ。


 「は!? クソッ、抜けない………」


 男は踏ん張って包丁を抜こうとするが、全く抜ける気配はない。


 「大人しく、しろッ!」


 俺はデコピンで頭を弾いた。


 「ッッ〜〜〜!!」


 「じゃあなー」


 散らかっている床から足場を見つけてようやく部屋の前にたどり着く。

 すると、


 「?」


 部屋の奥から嗅ぎ慣れない匂いがした。

 ものすごく甘い——————


 「っ!」


 俺は急いでドアを開けた。

 部屋に入った瞬間、何かの匂いがした。

 やっぱり甘い匂いだ。

 これは、


 「クソが! ドラッグじゃねーか!」


 この世界にも危険やクスリはいくらでもある。

 この煙はその類のものだ。


 俺は急いでさっきの男のところに戻った。

 頭を抑えて座り込んでいるところを掴み上げ尋ねた。


 「ぐっ!」


 「おい! 医者は信用しないんじゃなかったのか!? あれをどこで入手した!」


 「………信用できる医者が1人いる。その人がくれた薬を飲ませたらお袋がもっと欲しいって言ったんだ。だからこれで間違いないって………」


 俺は男を床に叩きつけた。


 「馬鹿がッ! あれは中毒性のある危険薬物だ! ただでさえ病気なのに寿命がさらに縮むぞ!」


 「そんな………嘘だッ!」


 「嘘じゃねェ!」


 こいつは恐らくその手の知識を一切持ってないのだろう。

 いやでもそれにしてもだ。

 恐らく上手いこと口車に乗せられたのだろう。


 「チッ!」


 俺は急いで部屋に戻り、締め切っていた部屋を全て開けた。


 「何を………やめろ!」


 男は掴みかかって来ようとした。

 なので、


 「るっせェ!」


 俺は暴れないように魔法で固定させた。

 まず元凶である薬物を消しとばした。

 次に屋内の空気を生活魔法の【クリアエアー】を使い清浄する。

 

 「布団剥ぐぞ」


 俺は中で寝ていたこいつの母親から布団を剥いだ。


 「!」


 それはもう酷い有様だった。

 身体中に掻きむしったような傷痕。

 痩せてしまい、頬骨が見えている。

 目元は隈だらけで、酷い匂いがする。


 俺は大声で怒鳴り散らした。


 「これが変だって気がつかねぇのか!!」


 その一言で、男は我に帰った。


 「あ………ぇ、ぁ俺………騙されて」


 俺は女の方を見た。

 回復魔法では治らない。

 あれは傷が塞がっても、こう言うのには効果がない。

 だったら、


 「仕方ねぇ、複合魔法だ………!」



 複合魔法


 魔法の構築中に別の魔法を組み合わせ、全く別種の魔法を作り出す。

 これは、無詠唱よりもずっと高度の魔法技術が必要で、神の知恵がないと使用は困難を極める。


 この魔法が使えるのは、魔法を完全に理解した者だけ。

 恐らく世界でも数人しか使えないだろう。

 魔族も含めて、だ。


 「回復魔法………精神に干渉する系統の光魔法………よし、これだ」



 複合:光回復三級魔法【マインドヒール】



 効果は、正常時と比較して、異常な状況の物を排除し、元に戻す魔法。

 ここで言うと、中毒などだ。


 俺は続け様に回復魔法のヒールで、掻いた傷を治した。


 「後は痩せているのをどうにかしねーとな」


 「………ぁ」


 気がついたようだ。

 俺はアイテムボックスからこの前作ったスープを取り出した。


 「よう、突然で悪いが、これを食え。ゆっくりだ」


 意識が朦朧としている間に食わせておく。


 「………体が」


 「楽になったか」


 俺はスープに付加魔法で【ソリッドアイテム】を付加した。

 一回きりの使用なら、基本的にどの道具も付加できる。

 ただし、三級まで。


 ソリッドアイテムの効果はアイテムの効果の増幅。

 実は、食べ物に付加えると、栄養価が上昇するという裏技がある。

 おまけに、それが効果を出すスピードも上がる。

 ただし、魔法の調節を失敗すると逆効果だ。

 どれくらいにすればいいのか理解している俺以外のやつの使用はオススメしない。


 「あなたは………」


 「あんたの娘に頼まれたんだよ」


 「お袋!」


 男は立ち上がって、母親に駆け寄った。

 近づいてまじまじと自分の母の顔を見た途端泣きながら喜んだ。


 「心配かけたね………」


 「ああ、治ってる………お袋ォ………」


 男はこっちを向くと、頭がすり減るくらい地面にこ擦り付けた。


 「すみませんでしたッ! こんな凄い医者だって知らなくて………」


 「頭上げろ。それに医者じゃねーよ。俺はただの冒険者だ」


 「いや、なんでもいい。とにかく礼を言わせてくれ」


 俺は何とも言えない気持ちになって頭をかいた。


 「礼はいい。ただ、一つ頼みがあるんだ」


 「な、何ですか? なんでも言ってください!」




 さっきのようにいらぬ誤解を招くと面倒なので、説明役になるように頼んだ。

 男は快く承諾し、俺たちは他の家の親も治しに行った。



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