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第1063話





 時間を遡ること、およそ15日前。


 “勇者” のレッドカーペットを求めて迷いの森の深部へと向かったミレア・リンフィア・ルージュリア・コウヤの4名は、着実に森を進んでいた。




 「2日くらいか………だいぶ深い森だなー。つか長過ぎ」




 攻略本を使って先導するコウヤは愚痴をこぼしつつも、道案内としての役割を果たしていた。




 「凄いですね、その本。今の妖精界のことなら何でもって感じですか?」




 リンフィアは宙に浮かぶ光の文字を突きながらそう尋ねた。

 万能とさえ思える攻略本。

 地理はもちろん、この先起こるミッションについても書かれた優れものだ。



 だが、やはりそう上手い話があるわけもなく、コウヤはふるふると首を振っていた。





 「うんや、そう都合のいいもんでもない。原因はわかんないけど、情報に穴があるんだよ。俺の能力である以上、俺が成長すれば埋まるのかそれ以外に埋める方法があるのか………」


 「うーん………自分のことなのにわからないって、やっぱり怖いですよね」





 しみじみと、どこか含みのあるリンフィアの発言。


 その半分は、先代魔王である父が封じたという得体の知れない力を宿したリンフィア自身にも言えることであった。


 ケンが闇雲に使うのを禁じるほどの危険な力。

 その力で魔王形態を会得するなど、得るものもあったが、やはりわからないということは、リンフィアにとって怖いことであった。




 「………」


 「………ん、けどまぁ、今でも便利なことに変わりはないよ。不完全は、決して役立たずじゃない。今あるものだけでも役に立つなんてことはザラだ。だからほら」





 コウヤの視線を追って、リンフィアは前を向いた。

 森が途切れ、原っぱが見える。


 すなわち、終点だ。




 「着いた。ここが最深部だ」


 「ここ、が………?」





 真っ先に奥へ進んだのはミレア。

 思っていた光景と違っていたのか、気の抜けた声を漏らしていた。


 ここは先々代エルフ族長が住むと言う妖精の泉。

 想像していたのは、それなりに立派な泉だったのだろう。



 だが、森を抜けた先にあったのは、小さめの池とポツンと立っている荒屋のみ。


 とてもそんな大層な人物の住む場所とは思えなかった。



 しかし、






 「そんな………本当にこんな場所に——————」





 森の外に足を踏み入れ、その空気を肌で触れた。




 “こんな場所” と言う評価は、一瞬にして覆った。

 大きな仕切りでもあったかの様に、内と外とでは明確な違いがあった。

 その様子を一言で言うと、『充満』


 以前、冒険者の試験で、森の魔力濃度が一時的に上昇したあの時よりもずっと、濃く質の良い魔力で満たされていた。



 見た目がどうであれ、ここは間違いなく何か特別な場所だと、ミレアは確信した。





 「ここが泉………」


 「すごいな………魔力がこんな………」




 皆、足を踏み入れるとミレア同様驚いていた。




 「普通は来られない場所なだけあって、特別感はありますよね」


 


 そう言いながらうんうんと頷くリンフィア。


 しかし、思い返すとそこまでの苦労はなかった。

 時間こそかかったものの、障害があるわけではなかったのだ。




 「でも、案外あっさり来られましたね。罠やモンスターもなかったですし」




 リンフィアはチラッとコウヤの顔を覗いた。

 特に誰に言ったわけでもないのだが、たまたま近くにコウヤがいたので話を聞いてくれた………と思っていたのだが、何やら様子がおかしい。




 「………………」


 「コウヤくん………? どうしました?」


 「ん………あ、ああ悪いね。ちょっと………」






 何やらコウヤはキョロキョロと辺りを見回している。

 しかし、誤魔化すように笑うと、コウヤはそのまま話の答えを返していた。





 「えーと、モンスターと罠だったか。迷いの森の道って、カイトの裏道みたく定期的に変化するからなぁ。当然生き物は住めないし、罠なんて仕掛けたところで無意味。だから、道そのものは比較的なーんもない。普通はそもそも入れないからな」




 コウヤの説明を受け、なるほどと頷くリンフィア。

 だが、そうなるともう一つ疑問が湧く。



 ここに来られたのは、純粋にコウヤのみの功績と言っていい。

 逆に、コウヤがいなければここには来られないのだ。

 だから、ここが先々代のエルフ族長の住処ということに疑問を抱いたのだ。





 「魔力があるとはいえ、こんなところに人が住めるんでしょうか………」


 「………………………」





 すると再び、コウヤはあらぬ方角を向いていた。


 やはり、何かある。

 具体的に何かはわからないが、間違いなくコウヤは何かを探っていた。



 そして、何を探しているのかを尋ねようと、手を伸ばし——————







 た、ら。












——————————————————






————————————






——————






———




















 「————————————え」




 伸ばした手の先には、誰もいない。


 いや、何も無かった。




 「………ここ………え、みんな………は………」




 この小さな原っぱを囲っている木々はおろか、そもそもあらゆる物体が消えていた。


 そして、仲間たちの姿も見えない。

 だが、空は見えており、仕切りも特にない。

 屋外であることは確かである。



 ただ、ここはあの原っぱではない。

 足の裏にあった柔らかい草の感触が消え、異様にゴツゴツとした感触へ。


 ふと、気が付いた感触に誘導されるように、リンフィアは下を見た。

 足の裏にあるのは、大きめの石——————





 「っ………これっ————————————」






 ——————ではなかった。




 白………というには、やや黄ばんで薄汚れたその塊。

 形は様々。

 一体()()()()わからないほど夥しい量のそれが、一面に敷き詰められていた。



 酷く不快な光景。


 持ち上げた足の裏にあったしゃれこうべの空洞と、目があったような気がした。





 そう、ここにあるのは全て、人骨である。




 それに気が付いた時、それは唐突に聞こえた。






 「覚悟は、あるか?」

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