第1062話
音も止み、魔力も消えた。
それだけで、民衆は戦いが終わったことがわかった。
複雑な構造の森なので、どの魔力が消えたかは判別が難しい。
しかし、敵はモンスター。
戦いが終わったところで、魔力が消えるくらい遠くまで引き戻すとこは考えにくかった。
さて、理屈っぽいのは抜きにして、結果だけを伝えると、
「勝ちました」
“帰巣” を使ったG・Rが、帰って来て早々にそう言った瞬間、民衆からはこれまで以上の歓声が上がった。
しばらくは収まりそうもない。
しかし、いい光景だ。
皆心から笑っている。
自分がまいた種ではあるが、無事で何よりだ。
このまま混ざって騒いでもいいが、少しばかりそうもいかない事情を抱えていた。
実は、今結構まずいことになっている。
「………………っ」
予想はしていたが、反動が来ている。
魔力のオーバーフローと、神の知恵の濃縮は、俺の体にかなりの負荷をかけていた。
久しぶりに、自分の意思でなく気を失ってしまいそうだ。
我慢はしているが、現在耳の方がかなりノイズ掛かっており、掛けられる声が聞き取りにくくなって来ていた。
視界も塞がり始めている。
もう、限界に近かった。
すると、
「…………ほいほい、騒ぐのはいいがァ、ちょいと疲れちまった。休憩させてくれねェかイ?」
「そう………ですね。あとでいっぱい騒ぎ………ましょう。さ、ケンくん」
「行こうぜボウズ」
ノームとG・Rは、俺の肩を抱きながら、そっと身体を支えてくれた。
どうやら、色々と不味いのを察してくれたらしい。
「反動か?」
小声で尋ねたノームの問いに、俺は小さく頷いて返した。
「ああ…………わかんねーけど、数日眠るかも………G・R、ポケットにメモがあるからさ、後はその通り行動してくれ」
「!!………っ、はい!」
こうなった時のために、メモは取っている。
概ね俺の想定した通りのシナリオだ。
メモ通り行動すれば問題はないだろう。
それともう一つ。
これだけは頼んでおかなければ。
「それとおっさん………多分、俺はここ10日間、領主に命を狙われるかもだから、情けない頼みだが、無防備になってる俺を護ってくれ。領主に保護するって言われても無視してくれ。疫病の件で、俺の拠点の方が優秀な治療道具やらが揃ってるとか言っとけ、ばいい………から………たの…………っ………………」
「おい!!」
大丈夫、と手を出すが、声が出ない。
そんな気力もないという事らしい。
いよいよ限界だ。
「………心配すンな。戦いの後に緑髪の姉ちゃんから簡単に事情は聞いた。体張って護ってやるから、安心して寝てなァ」
それを聞いて安心した。
マイペースなG・Rにしては機転が利くな。
そう思った瞬間、完全に意識が落ちた。
「「「………!!? …………!」」」
少しばかり騒ぎになっているのが聞こえるが、それも次第に遠くなる。
一応、役目は果たせた。
後は、最後の一点を残すのみ。
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「寝てる………」
眠っているケンの額を何度も突くG・R。
心なしかむすっとしたのを見ると、思わず笑いが溢れた。
こんな事をしているが、G・Rはケンに恩を感じていた。
ケンは、どうにもならないと思った領主のとの戦いを、たった一月で解決してしまった。
望みであった領主の失墜はもちろん、疫病の問題も解決の兆しが見えている。
何もかもがいい方向を向いていた。
「………」
ケンのメモをジッと眺めるG・R。
書いてあったのは、事件の後処理と、ケンが眠っている間の領主への対策だ。
市民に呼びかけ、不祥事を広めると同時に患者が人質に取られない様有志の者で監視を行う事にした。
好感度のミッションの件もあり、領主は拒否が出来ないので監視はすんなりつける事が出来た。
領主が想像以上に素直に従ったため、市民からの信用はそこまで下がらなかった様だが、しかし間違いなく疑念は生まれていた。
あらゆる事が計算づく。
モンスター退治の件も、別宅にいる敵の下僕を味方につけた事も、人質の保護やそのタイミングも、一気に畳みかけた事によって領主の動きを一気の封じた。
そして、治療という望みをチラつかせることによって、ケンは自分が殺されない状況を作り出したのだ。
万一殺そうとして失敗でもすれば、それこそ領主の株は大暴落。
ノームや市民の目を味方につけた今、襲う方がよっぽどリスクなのだ。
そして、一番の目玉は、モンスターである。
先日、メモに従ってG・Rが森に向かったのは、ケンの指示であった。
その森にあったのは、とある魔法陣。
ケンに預かった道具は、その魔法陣——————モンスターを意図的に発生させる魔法陣を暴発させる、神の知恵を使って作り上げた一種の魔法具であった。
と言っても、複雑なものではなく、魔法陣にほんの僅かに手を加えて狂わせるというものとなっている。
ケン曰く、これは先日行った異界童話で生成されたモンスターの血を使ってできたものとのことだ。
つまり、これもゲームのイベント管理者の仕業である。
この魔法陣を用いて、領主はモンスターを呼び寄せて狩るという自作自演を行い、人気を集めた。
そして、ケンはそれを逆手に取り、楽にこの状況を作り出したわけだ。
「………」
異常。
この言葉に尽きる。
強引ではなく、本当にあるものだけで領主を追い込んでしまった。
それも追われながら、手元にほとんど何も無い状態で。
「………………貴方は、一体何者………なんですか?」
「………」
答えるはずも無いとわかっていても、つい問いかけてしまった。
そしてやはり、返答はない。
だが、G・Rは妙にスッキリした様な顔をしていた。
彼が何者であろうとも、恩人であることには変わりない。
ただ、感謝あるのみ。
だからこそ、心苦しそうな表情をしていた。
まだ、領主は倒れ切っていない。
だから、頼らざるを得ないし、メモを見る限り、ケン自身もそのつもりでいる。
ともかく、運命が決まるのは、後10日以内。
鍵を握っているのは、今ここにいない “彼女” である。




