第1061話
「一級………だと!? なぜ、Dランクにそんな………経験値は!?」
領主は遠慮なしに疑問をぶつけて来た。
わからないだろう。
普通この妖精界では、モンスターの討伐やミッションによって得た経験値を、ポイントとして割り振ることで、ステータスをあげたり魔法を会得したりする。
一級魔法ともなると、それはもう膨大な経験値が必要になるのだ。
しかし、俺はそれを一時的に無視する術を身につけている。
それは、この国に入る時、本来であれば消されるはずだった神の知恵が、まだ残っていたが故に使えるいわば裏技のようなものだ。
だが、それをいちいち応える義理はない。
だから俺は、一言こう言った。
「俺は、アンタと違ってちょいとばかし “特別” でな」
「ッ!!」
お。
と、俺は思わずつぶやいた。
どうやら、特別云々というのは地雷だったらしい。
これは傑作だ。
分不相応な地位を求める理由が、そんなガキっぽいものだったとは。
『クソ喰らえ』だ。
………そう言ってやりたいと思っていたのだが、正直今領主はどうだっていい。
今にも里を呑み込んでしまいそうな獣の軍勢は、もうすぐそこまで来ていた。
さぁ、見せてやれ。
たった2人が、領主なんぞよりずっと頼れる存在であるということを。
「んじゃ、任せた」
「「任され——————」」
た。
残ったのは、言い切れなかった一文字ではなく、凄まじい衝撃と爆音。
誰もが言葉を失っていた。
そして、誰もがもう視界にはないその姿に希望を抱いた。
市民も、冒険者も、領主の兵だって関係ない。
皆等しく、ただ歓喜した。
湧き上がる歓声と、遠くで鳴り響く破壊音が、あたり一体を支配する。
その頃には、もう誰1人領主を見るものはいなかった。
流行りというものがある。
人は、大きな流れに乗っていくもの。
波は次第に小さくなり、後からくる新たな波に呑まれて消える。
そして、例えどんな大きな波であろうとも超えられれば呑まれて消える。
俺は今、わかりやすく示してやった。
みんなを救う領主がどうにも出来ないような敵を、瞬く間に倒していく、新たなヒーロー——————大きな波を超える、より大きな波を。
「………………………」
ふと気がついて、俺は領主の顔を見た。
そこには、ようやく俺の望んだ反応をする領主の姿があった。
「やっと見せたな。吠え面って奴を」
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——————身体が軽い。
白紙化以降の全盛期………いや、それ以前のものにすら勝るとも劣らないレベル。
先程まであった不安も、恐怖も、もうどんなものだったか忘れてしまった。
不安のあった場所には、堂々と自身が居座っている。
だから不思議と、怖くない。
目の前に見える巨大な化け物が、本来なら私が何人いても手こずるような敵が何体もいるのに、負ける気が、しない——————
「………!!」
小細工は要らない。
G・Rは敵に真正面から突っ込む。
先頭、中型の地竜。
堅牢な鱗が全身を包み、その身を守っている。
しかし、今のG・Rにとってその鱗は薄皮同然であった。
槍を構え、魔力を込める。
投擲の構えを取り、照準を合わせる。
狙うは、地竜の頭。
大地を踏み締め、腕を引く。
根を張った巨木のように、軸足は不動のものとなる。
そして、吸い上げた力は、流れるように上へ上へと伝わり、
「ッッッッッ………ァアアァッ!!!」
投擲。
そして、弾ける。
弾ける様は、花火の様。
しかし、綺麗とは程遠い。
鮮血と肉塊は、勢いよく飛び散り、生々しい音と共に地面に散らばる。
首のない地竜は、一歩、二歩と歩き、倒れ込んだ。
「………………え?」
想定外も想定外。
もはや貫通ではなかった。
その一撃は、頭を丸ごと呑み込んだ。
そして、前を見てG・Rはさらに驚くことになる。
「な………………………え、ええぇっ!!?」
槍は、そのすぐ後ろにいた敵ごと爆散させていた。
「えぐいなアンタ………」
「え? ええ??」
そう言いつつも、ノームはG・Rのこの劇的な変化に感動を覚えていた。
それ故に、期待が膨らむ。
『これならば』
そう思ったノームの眼中に、もはやBランクのモンスターはいなかった。
期待を胸に、ノームは真っ直ぐ走り抜けた。
走って、走って、次第に魔石に変わる死体の山とBランクの群れ無視し、駆け抜けた先にいた、より強いモンスターの群れ。
Aランクのモンスター。
対峙するは、オーガの王。
「オマエだよ………………なァ」
屈強な種族である、オーガの頂点に立つだけはあって、放っているプレッシャーは、後ろにいるモンスター達の比ではない。
しかし、強化前に持ち合わせていた緊張は、とうに消えていた。
「グゥゥウオオオオオオオオオオオ!!!!!」
方向と共に放たれる巨大な拳。
大きさに似合わず、凄まじい速度で向かうそれに対し、ノームは武器を持つことは無かった。
片手棍をしまい、同じく拳を握る。
そしてその拳に対し、己の拳をぶつけた。
「——————」
聞こえたのは、肉が裂ける音。
ピタピタと、水の滴り落ちる音。
静かに手を引き、傷一つない自分の拳を、血飛沫を浴びながら眺めていた。
そして次の瞬間、再び吠えようとしたオーガキングの首は、ノームの傍に落ちていた。
首のない死骸は、力なく膝から崩れ落ちる。
ノームが押すと、死骸は一切の抵抗なく後ろに倒れ、魔石へと変わっていった。
もう、強敵ではなくなった。
これから行うのは戦いではない。
これは、蹂躙である。
そして間も無くここには、“何も” いなくなる。




