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第1055話



 『カイトは、迷いの森という自然の作った防壁によって囲まれた安全な都市である』




 誰もが信じて疑わなかった。


 モンスターは習性的に人の気配を感知して森を抜けて来る可能性があるのだが、道は一本なうえにここは始まりの里。

 強くてもDランクが上限であるため、狭い森の一本道で戦えば基本負けはない。


 それ故の安全神話であった。




 ただ、領主が持ち上げられた件ではあまりにも大量に発生したため、ギルドでは対処しきれず衛兵を出してもじわじわと侵攻されていた。

 それでも領主は手持ちの兵で颯爽とモンスターを討伐したので、ギルドや衛兵の信頼を丸ごと飲み込む形で好感度を得たのだ。




 『あれだけの大群が来ても領主がいれば問題ない』




 実績は信頼へとつながり、市民は再び安眠できる………筈だった。



 だから、これは明らかに例外であった。










 「クソッ!! 結界を固めろ!! もうこれ以上中に入れるな!!」




 先頭には、やや小型だが地竜の姿が見受けられる。

 さらに後続には、“ジェネラル” や “ロード” もゴロゴロついてきていた。

 いない筈のモンスターの姿が………いや、いない筈のモンスターの姿()()なかった。


 


 明らかにおかしい。


 しかし、圧倒的な絶望の前では、細かい理由など些事である。

 ただ恐怖し、足をすくませながら、使命感と自己保身のために武器を掲げている彼らには、そんなことを考えている余裕などどこにもなかった。




 だが、たった一人余裕綽々な笑みを浮かべて走って来る者がいた。




 「その結界、待っときなァ」


 「!!」




 酒やけしたしゃがれ声を聞いた瞬間、結界を張ろうとしていた魔法使いの部隊が一瞬ピタリと止まる。


 声の主は一気に駆け抜け、皆が防戦している中たった一人最前線に躍り出た。





 そう、元ノーム族長——————。

 あのネームレスのノームだ。



 ダンッ!! と、地面のヒビが入る程強く踏み込んだ瞬間、ノームの姿は、もう地竜の前にあった。





 「くたばれ、デカブツ」





 ぐしゃり、と。


 強烈な一撃を受け、耳が割れんばかりの悲鳴とともに地竜はのけ反った。


 だが、それでも相手は竜。

 一撃で仕留められるほど、脆くはない………が、




 「立ってもいいこたァねェぞォ!!!」




 回転しつつ、もう一撃。

 脳天に棍が突き刺さり、さらに一撃、二撃と連撃する。


 片手棍は元より一撃で仕留めるような武器ではない。

 異常な破壊力は独自のもの。

 しかし、片手武器故の手軽さは捨てられていない。




 大剣のような破壊力と、片手武器故の手軽さが組み合わさり、目の前の地竜だったものは、瞬く間に巨大な肉片と化し、魔石になった。




 「ふーっ………1匹………か」




 瞬間、ワッと歓声上がった。


 難なく倒したノームを見て、一気に士気を上げる冒険者たち。

 ようやく現れた勝利の象徴に希望を見出した。


 だが、そこに水を挿したのは、他ならないノーム自身であった。




 「やめな。攻め入るチャンスなんて間違っても思っちゃァならねェ」




 眉間に皺を寄せるノーム。


 そう。

 これでやっと1匹。


 最前線が竜というのもあったし、防御に徹していたのもあるが、20人以上いてようやく1匹。

 しかも手柄はほぼノームのものだ。


 敵は同レベルのものが群をなしており、こちらも複数だが、一体すらままならない状態。

 死人を出さないようにするには、ノームが庇いつつ戦うしかないのだ。




 「どう足掻いても防戦一方かィ………………チッ、遠距離が苦手ってのがねェ………」




 だが、庇いながら戦って、冒険者が出しゃばることがなければ、ノームだけで均衡は保てる。

 名を失ったとて、伊達に最強と呼ばれてはいない。




 「テメェら、援護だけ続けて後は護りに徹しな! 領主はまだ兵力を溜め込んでる筈だ。それがいねぇと話にならねェぞ」


 「しかし旦那………俺たちだって!!」




 先頭にいた男が食い下がった。


 これは、冒険者を守るための指示だ。

 だが、冒険者とて戦士の端くれ。

 他人に戦いを押し付けながら自分たちは身を守るなどというみっともない真似はプライドが許さなかった。


 しかし、




 「ごちゃごちゃ抜かすな!! プライドがあるンならこの里始まりの里を出て抜かしやがれ!! いつまで燻ってやがる!!」


 「「「っ………!!」」」




 痛いところを的確に突いたノームの一言で誰も何も言えなくなった。


 フッと前を向くノーム。

 苦虫を噛み潰したようような顔で、敵を眩んでいた。




 (こうでも言わねェと止まらねェからなァ………だが、これでいい。奴ら、わかってねぇンだ。手前ばっか見て、奥にいるマジでヤバい気配に気付いてねェ………)




 そう。


 此処にいるのは、Bランクモンスターだけではない。

 かなり奥だが、ノームはその気配を微かに感じていた。


 名を失った代償で魔力を読めないノームだが、本能と鋭敏な感覚が危険を告げていた。


 これはまだ、序章である、と。





 「くそッ…………領主の援軍はまだかよ………」











 ——————“勇者” がこの里を救ってくれ………ます。





 “彼女” は、先日ノームにそう言った。

 ノームも元は族長。

 封じられたレッドカーペットのことは耳にしていた。


 情報源も、あらかた目星は付いている。






 そして、誰が勇者たり得るのかも、なんとなくわかっていた。




 (金髪小僧………テメェ一体何してやがる………ん?)





 ふと、匂いがした。


 視線を後ろにやって、モンスターにも注意を払いつつ、キョロキョロとあたりを見回すノーム。

 それは、久しく嗅いでいなかった、強者の匂い。




 「信じてくれて嬉しい………です」




 槍を持ち、ローブを着た女がゆっくりと近づいて来る。

 見覚えのある女だ。

 いわゆる、“噂をすれば” というものだ。




 「テメェ………この前の………そうか。此処でこいつらを倒すのを——————」


 「いいえ、違います」




 くるりと回れ右をして、冒険者の方を振り返るG・R。

 そして、こう叫んだ。




 「これだけの戦力では、勝ち目は………ありません! だから、一旦撤退………しましょう!」


 「「「!?」」」




 それは、明らかに無理難題であった。


 どう考えても、背中を見せられる相手ではない。

 逃げた瞬間背中から襲われて即死。



 それは誰もがわかっていた。



 しかし、そうはならない自信と根拠が、G・Rにはあった。

 そう、G・Rには、あのスキルがある。

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