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第1052話



 イーボから逃げたのはいいが、流石に宿には居づらくなったので、別の地区にある適当な倉庫を点々とすることになった。


 やはり、大っぴらには探せないのか、思った以上に監視の目は少ない。

 そこで俺たちは、1週間ほど逃げ回りつつ、他の患者親族について調べて回った。




 疫病が話題なだけあって、探すのは案外簡単だった。




 だからこそ実感する。

 領主がいかに徹底してこちらの道を絶とうとしているか。




 「お疲れさん」




 調査に出ていたG・Rが、ちょうど “帰巣” を使って帰ってきた。

 ゲッソリしているので結果は聞くまでもない。




 「10人目。ここまでダメだったか」




 親族の調査と同時に、味方になるよう説得もしようとしているのだが、今のところ全員それどころではない。


 そう、全員領主に抱き込まれている。

 1人残らず怯えた様子だといっている上に、殺すのにためらいが見えたというあたり、脅されてやりたくない殺しをさせられているのだろう。


 接近したG・Rを、あの手この手で殺そうとしてくるのだ。




 「領主の方はどうしてる?」


 「また冒険者とモンスターの対処………してます」




 領主が自分の評価を上げたきっかけであるモンスターの襲来。


 恐らくはモンスターバブル。

 魔力溜まりが原因でスタンピードが発生する、以前は人間界のフェルナンキアでも起きた現象だ。




 「ご苦労なこったな。妖精界の魔力は豊富だから、一度出来た魔力だまりはそうそうなくならねーだろ? ははは。ギルマスも大繁盛だろーな」


 「? ご機嫌………です?」




 G・Rにそう指摘されてハッと自覚した。


 ご機嫌、か。

 確かに機嫌がいいのかもしれない。

 プランBは、上手いこといっている。




 「まーな。反転の目は出てる」


 「?」


 「とにかく、調査は終わりだ。知りたいことは全部わかった。ほれ」




 書き終えた情報のまとめをG・Rに渡した。




 それは、敵方のルール。

 今回の調査で見せた敵の動きで、一応ある程度絞ることが出来た。



 まず、やはり敵は俺の評判を下げるようなことが出来ないということ。

 それ故、患者親族に俺の悪評を吹き込むという方法が取れず、脅していうことを聞かせるという方法を取ったと俺は見た。


 

 だが、おそらくその事によるダメージは向こうにはあまりない。

 ウィンドウを見る限り、じわじわと好感度は増えている。

 色々と工作をしているようだ。



 それに、これが終われば好感度はもう心配する必要はない。

 不安要素に繊細な触れ方をせずとも、多少強引な手を使って問題なくなる。



 例えば、その一家を全員殺す………なんてのもありだ。

 これまでそうしてこなかったのは、そこにつけ込まれないようにするためだろう。

 管理者を味方につけているとは言え、中々徹底している。




 他のルールとしては、おそらく一般市民にG・Rの事を漏らしてはいけないというもの。

 俺はともかく、G・Rは手配した方が確実にメリットの方が大きい。

 恐らくこれも封じられているのだろう。




 こちらとしては嬉しい限りだが、




 「以上だな」


 「この二つだけ………ですか?」


 「ああ。多分それ以外に制限はない。あってもないものとして考えた方がこの際楽だ」




 敵につけられた大きな二つの条件は、こちらの動きをかなり自由なものにしてくれる。


 しかし、それ以外は遺憾なく権力を使いまわせるし、こちらに対する遠慮もない。

 見つけ次第確実に殺そうとするだろう。




 「………」





 流石のG・Rも言葉を失っていた。


 確かに、こうやって見ているとわかる。

 ゲームはゲームでも、これはかなりの無理ゲーだ。



 このミッションの発動条件ははっきりしないが、始まりの里スタートである以上、恐らく想定では低レベルで発動するもの。



 にも関わらず、敵は領主とその手下ども。

 敵の制限はたった二つで、好感度を上げない限りこちらは領主を殺せない。




 理不尽極まりない。


 しかし、どうしようもない程ではない。

 それは恐らく、このゲームの趣旨が管理者の養分となる逞しい王を育てるというもので、殺す事は目的ではないからだ。



 故に、隙はあった。





 「明日から、領主の別宅に向かう。そうしたら期限まで丁度2週間になる。そこで作戦開始だ」


 「はい」


 「………お前相変わらず動揺鎮めるの早いな」


 「あ、見て………下さい。ねこ………です」






 聞いてないし。



 だが、今日一日くらいは休憩させてやりたい。

 明日からはどうしても気を入れっぱなしにしなくてはいけないのだ。



 貼った糸は切れやすい。

 だから、適度に緩めなければ、何処かに綻びが出てしまう。



















 だから、敵は休ませないように、追っ手を送り込んだのだ。




 「可愛いよねぇ、猫。俺も好きだなぁ」


 「「!!」」




 外の音が聞きやすいように開けていた倉庫の入り口に、人影が一つ。

 声をかけられる寸前でようやく存在に気がついた。


 こいつ、只者ではない。




 「誰だ、テメェ」


 「以前、セイレーンの件で世話になった男の上司、かな。ちなみに俺は遠目で見たからよく知ってるよ」




 思わず、目を見開いた。


 そう。

 あの時俺たちが捕まえた黒服以外にもう一人隠れていた。

 恐らく、こいつはその時いた奴だ。




 「あの黒服の………………!」




 ということは、ついに例の犯罪組織とやらが動き出したという事だ。

 そろそろ痺れを切らす頃だと思っていたが、よりによってこのタイミングとは。



 来ているのは恐らく、この黒服だけではない。

 他にも気配はする。

 いずれも、今の俺では少し手こずるレベルの手練れ。

 あまりいい状況ではない。

 一歩間違えれば、出鼻を挫かれるどころか、そのまま全て崩れて泡と消える。



 限りなく細い綱の上。

 一歩を間違えても、進まず止まっても、俺たちに待っているのは奈落の底にある死だ。


 しかし、




 「…………………いや。まだマシか」




 細くとも、その道は続いている。

 まだ、余裕はある。




 「G・R。これを持ってさっきのメモの裏、項目2を予定通り進めろ。一人でだ」


 「このまま行けと………? 貴方を放って?」


 「お、仲間意識はあるのか。へっ、嬉しいね」


 「無駄口を言うのは私の役目………です。だから、そんなことは………」


 「ああ。俺たちの中なら、それは()()()役目だな」





 一瞬だけ、G・Rを睨み付けた。


 言葉を詰まらせるG・R。

 そして、理解したらしい。


 ()()()()軽口でも無駄口でもなく、本気でそう思っている、と。





 「逃げるのは得意だろ? 行ってこい」


 「………」




 G・Rは、何も言わずに走り出した。

 しかし、敵は追っていく様子はなかった。


 当然と言えば当然だ。

 何せ、ここで俺を潰せば、G・Rを追って口止めをする必要もないのだから。




 「一人の方がこっちは都合がいいんだけど………わかってるのかねぇ」




 黒服は大袈裟に肩をすくめた。

 だが、そんなことは百も承知だ。




 「ああ、知ってる。でも、アンタは知ってるか?」


 「ん?」




 多対一。

 四面楚歌。


 向こうの世界では何度見たかわからない展開。

 殺されそうなことも多々あったが、なんだかんだ生き延びた。

 そして、今の俺にはまだ切り札がある。




 「俺、こういうの嫌いじゃねェンだよ」


 「あはははは。その軽口、すぐに黙らせてあげるよ」




 是が非でも、生き延びてやる。

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