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第1050話



 帰巣のスキルで設定したのは、宿にある俺の部屋だった。


 ギリギリだったが、なんとか間に合ってくれた。

 これでようやく一息つける………と思ったが。




 「っぷはァっ!! あー!! しんどいしんどい!! マジでヤバかった!」


 「………」




 柄にもなく大声で疲れを口にし、G・Rの気を引いてみるが、ベルドランドを見て以降ずっと黙ってしまっている。

 なかなか深刻そうだ。


 知り合いなのは察しがついていたが、思ったより深い仲………なのかもしれない。


 でなければ、様子見を頼んだりしないだろう。




 「G・R」


 「………」


 「おーい」


 「………」





 無視。

 呼ぶと体をギュッと丸めているので、多分聞こえている。


 放っておけとでも言いたいのだろう。

 G・Rが屋敷に来てすぐの時は、特に変わった様子はなかった。


 ならば、こうなった原因は一つ。

 ベルドランドを目にした時だ。




 「………ベルドランドが野郎を庇っててショックだったか?」


 「っ………」




 ビンゴ。

 まぁ、見知った奴が、悪人を庇っているところなんて見たくもない筈だ。


 なにより、悪だと分かって庇っているのだから、G・Rからすれば確かに苦しいものだろう。


 だとすれば、一つ言っておくべきことがある。




 「あいつなぁ。俺を助けたぞ」


 「!」




 俺は一度、奴に機会を与えた。

 それは、俺が領主にハッタリをかました時のことだ。


 あの時奴は真っ先に領主の元へ向かったが、俺よりも圧倒的に早く領主の元に辿り着けるのであれば、庇うのではなく危険の元である俺を真っ先に潰すべきであった。


 しかし、奴はわざわざ領主の前に立ち、その後は攻撃をしてこなかった。



 そうとも限らないという可能性はなくはないのだが、俺はそうだと思っている。

 手を抜いて戦うくらいなのだから。




 「良心はまだ残ってる。いじけてる暇があるなら、あいつが本当のクズに成り下がる前に助けねーか?」


 「………………はい」




 ようやく面を上げた。

 ここからが大事だというのに、やる気を無くされては困る。



 幸い、敵は俺の好感度を直に下げられないことは分かった。

 殺しには来るだろうが、それも多分対して警戒する必要はない。



 やはり、俺はどうにかして領主の好感度を一気に下げる準備をする必要があるのだ。






 ただ、今日は俺もこのザマだ。

 体力や“神の知恵”のクールタイムを回復するのに時間もかかるので、今日は休息を取ることにする。



 だから、今聞いておこう。





 「G・R。もう流石に聞いていいよな?」


 「………何を………ですか?」


 「お前が傭兵だった時のこと。ベルドランド………それと、領主との関係だ」





 あれだけヒントがあったのだ。

 流石に察しはつく。


 恐らく、G・Rは——————





 「領主のところで、傭兵をやってたんだろ?」


 「はい」




 んお、と思わず声が漏れる。

 今まで言ってなかった割にあっさりと答えたので、正直驚いた。




 「見極めに行くって言って………ましたよね。だから、領主が悪人だという確信を持つまでは言わないでおこうと思って、今まで黙って………ました。ごめんなさい」




 マイペースな奴かと思ったら、人のペースを見ることもある。

 なんともつかめない奴だ。


 ただ、この一言で納得は出来た。




 「なるほどね………まぁ安心しろ。奴は敵だ。断言できる」




 本人の口からはっきりと “疫病” を利用していると聞いた。

 これでもう迷うことなく敵対出来る。


 さて、本人も話す気がある事だし、G・Rの素性について、遠慮なく聞いていこう。




 「で、元はやっぱ傭兵だったのか」


 「はい。領主のところでここ前言ったように傭兵をして………ました。ベル………ベルドランドとも、そこで知り合い………ました。友達………………………です」




 『()()()』ではないらしい。


 結構な事だ。

 まだ切り捨てるつもりはないようだ。




 「ベルを、見たん………ですよね? 私も、今のベルみたいに側近として働いて………ました。だから、悪いこといっぱい知って………ます」


 「!………そいつはいい事を聞いた」




 それは嬉しい誤算だ。

 汚点を知ってるというわけらしい。


 だから領主は必死こいてたった1人に人員を割いて追い回しているのだろう。




 「奴が手を染めてる悪事に目星はついていたが、はっきりするに越した事はねー。わざわざ内部を探る手間も省けたっつーもんだ」


 「………ちなみに………ですが、どんな事をしていたと思い………ますか?」




 む。

 からかいたいのか、好奇心からか、そんな事を尋ねてきたG・R。


 正直まだ情報が少ないので、推測の域を出ないものばかりなので、あまりペラペラと話すものではない。

 が、これはやっているだろうなと言うものが実は一つあった。




 「まぁ、患者の水増しはやってただろうな」


 「水増し………どうして?」


 「1人も治せなかったら文句じゃ済まねーだろ。世間じゃ未知の疫病で通ってるくらいだ。隔離して時間が経ったら戻す。そうやって偽の患者と治療の成功例があれば、ある程度信頼は保てる。治る確率が低いって話にしとけば、ヘイトもそこそこ減るし、できない話じゃないだろ?」




 「………さすが、です」




 と、拍手をされるが、これが正解ならわからないところがある。

 それは、




 「んで、患者はどうやって引っ張ってきたんだ?」




 ここだ。

 いくつか考えては見たが、絞るにはあまりにも情報が少ない。

 残念ながら、こういう推理は知恵でカバーできる部分には限界がある。


 だからこそ、G・Rのような確かな情報源は心強いのだ。


 して、質問の回答は一体どうなるか。




 「毒………です」


 「!!」


 「遅効性の毒を食事に混ぜるん………です。基本は外食の際………でしょうか。薬の調合はエルフの得意分野………ですから、都合のいいものが作れ………ます。こっそり入れる役割の人も………います。そうやって病院に行った人に疫病だと言って強制入院させる………いくつかあるやり口の一つ………です」





 十中八九、薬を混ぜ込むのはルージュリアの言っていた、管理者に認可された犯罪組織の連中であろう。

 コソコソするのが得意なのは、セルビアの件でよく知っている。

 セルビアの声を盗んだやつも、本人に気づかれないように直接手を下していた。



 どうしようもないクズどもだ。

 呆れてものも言えない。


 ただ、それは俺にとって不幸中の幸いと言えるものであった。




 「毒なら、俺でも治せそうだな」


 「治しに行き………ます? 屋敷に忍び込むなら、一応隠し通路は知って………ますよ」


 「んや、時間かかるから、用事がある程度決まったら行こう。それに、忍び込む必要はない」




 「?」




 そういうと、G・Rは怪訝そうに首を傾げた。

 心配せずとも治すつもりだ。

 だが、忍び込むのは効率が悪い。


 敵もバカではないだろうから、俺の味方にG・Rがいる時点で、患者のとの再接触は頭に入れてくるだろう。


 だから、乗り込む必要はない。


 もっといい方法がある。


 だが、実行は後だ。




 期限まで残り25日。

 陥れるなら恐らく機会は一度しかない。


 だから、可能な限り準備をして、最高のタイミングで一気に攻め落とす。

 そのためにも、準備が要る。




 少なくとも絶対にやっておきたいのが4つ。




 その一つが、水増しされた偽疫病患者の治療だ。


 ちなみに、治療とは別の準備としてミレア達にやってもらう役割があるが、そちらは賭けだ。

 加えて俺は何もできない。


 だからまずは、自分ができることとしてやっておくべきことがある。




 「効果的にやるなら準備が必要だ。つー事で行くぞ」


 「どこに?」


 「協力者を誘いにお隣に、だ」




 そう。

 その準備というのは、仲間を増やす事だ。

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