第1048話
元傭兵。
恐らく、白紙化後も相当数戦闘を行なっている。
それも、他の者よりも圧倒的に多く。
同僚もいたのだろうが、恐らくはそいつらとはまた別格の扱いを受けていた事だろう。
………いや、そうだ。
あいつがベルドランドの事を知っているという事は、もしかするとあいつもベルドランドと同格なのかも——————
「!!」
腕に伝う衝撃でハッと我に帰る。
余計な事を考えている場合ではない。
まずはこいつをどうにかしなければ、脱出は出来ない。
しかし、裏を返せば、こいつをどうにかすれば脱出はそう難しくない。
ベルドランド以外は、はっきり言って雑魚ばかり。
中にはそこそこできる奴もいるが、この3分間に於いてはどうやっても俺の相手にはならない。
それだけに、ベルドランドの強さは異常。
殺さないために加減をして戦うにはあまりにも強すぎる。
正直言ってジリ貧………ダメージは、確実に蓄積している。
「くそッ………」
「ッ………ァアッ!!!」
ピシッ、と。
攻撃を受け止めた瞬間、神経がはち切れそうになる痛みが腕に走る。
「ゥッ………ぐ………」
マズい。
かなり押され気味だ。
いくら脳を強化しても体力は変わらない。
長期戦に不向きな今の俺では、防戦になるとあっという間に体力を削られてしまう。
そして恐らく、そこが弱点だと向こうは瞬時に見抜いている。
そこは流石というべきであろう。
技も攻め方も、年季の籠った重さを感じる。
ただ、少し妙であった。
戦っていてずっと何かが引っかかっている。
そして、段々とそれがわかってきた気がする。
「………」
殺意の篭もった重い攻撃。
何度も受けて腕が痺れそうになる。
しかし、何故かほんの僅かだが、どこか引いているような小さな抵抗を感じる。
本気を出しきれていない。
小さな違いだが、これは大きい。
殺し切れるか切れないか、そこで振り切って武器を振るう事が出来なければ、仕留められる獲物も仕留められない。
こいつは、何度も機会を逃してしまっている。
いや………というより、自分で機会を手放している。
「………………なるほどね」
これも “お告げ” か。
殺らなければ殺られる。
名を失い、失墜すればどれほどのものを失うかわからない。
もし、それを恐れて向かってきているのであれば、俺は責められない。
だが、それなら尚更、灸を据えてやらねば。
しかし、状況が状況だ。
今の体力ではろくにゲンコツも喰らわせられない。
なので、
「こればっかは勘弁したかったけどな………」
奥の手を使う。
正直割と卑劣なのでしたくはないのだが、する相手がゴミクズなので良しとする。
時間的にも頃合いだ。
残った魔力の半数を、左手に収束。
そのままベルドランドのところに向かい、攻撃を掻い潜ってなんとか間合いに入る。
しかし、あまりにも無茶な動き。
腹に大きく隙が生まれる。
ここだ、と。
ベルドランドは、最高のタイミングで、渾身の一撃を繰り出そうとした。
その時、
「!!」
俺は武器をアイテムポーチに収納。
瞬間的に丸腰になる。
これにはベルドランドの表情を大きく歪めていた。
回避も誘導もできず。防御しか残っていない状況で、武器を捨て、手を前に突き出す。
素手で防御?
いいや違う。
防御はしない。
目には目を。
一点集中の一撃に、寸分の狂いもなく、魔法攻撃をぶつける。
鉄魔法———足の裏の一点を硬化。
ここにさらに残った魔力の大部分を込める。
残りの魔力はごく僅か。
しかし、出し惜しみは無しだ。
炎と風魔法を発動させ、威力ではなく、推進力に全神経を注ぐ。
そして、
「首を、もらうぞ!!」
ベルドランドの一撃に向かって、思い切り蹴り込んだ。
足の裏から、全身に酷い激痛が走る。
硬化した足の骨が軋み、確実に砕けた感触があった。
しかし、その衝撃は得た。
槍を受けたその反動と、炎と風の魔法による爆発。
力は、ベルドランドから見て正面の方角——————領主の方へと向いた。
狙い通り。
槍から受けた力に、炎と風の推進力を得た俺は、弾丸のように直進していった。
「ッッッ………………!?」
凄まじい加速で領主の方へと飛んでいく。
衛兵のほとんどはこちら側にいるので、やはり薄い。
ここで俺が領主を殺せば、ミッションに失敗する事を分かっているが故に、領主は自分の身を護る兵を全て俺に向かわせたのだ。
しかし、それが仇となった。
「何を………!?」
「首はもらうっつったよなァ!?」
依然丸腰。
それ故に、領主は落ち着きを取り戻しつつあったのだが、段々と迫る俺を見て理解出来ただろう。
こいつはやる、と。
負けるくらいならここで殺して少しでも憂いを断つ。
ああ、やってやるとも。
ここで失敗るならば次点として道連れにしていく。
だが、ここはまだ、妥協をする場面ではない。
この先、俺の読み通りに動いてくれれば、起死回生のチャンスはある。




