第1047話
今日の収穫はある程度得られた。
後は脱出すればそれでいい。
ただ、一つ聞きたい事があった。
それだけを聞いて暴れるとしよう。
「なぁ、領主サマ。冥土の土産と思って聞くけどよ」
「殊勝な心がけだな。死んでくれるのか」
「冗談と本気の区別もつかねぇのか?」
「本気になるのだから関係ない」
本当に余計な口の回るおっさんだ。
が、ここでイライラしても仕方ない。
尋ねておこう。
「アンタがずっと追っているあの女。あいつはアンタの元部下か?」
「………それを聞いてどうする?」
「単なる好奇心、つったら教えてくれンのかよ」
やれやれとかぶりを振る領主。
だが、それも結局本人に聞けばわかる事。
それ故領主は隠す事なく質問に答えた。
「お前が思っている人物と同一なのであれば、そうだ」
「!」
そうか、と呟き俺は剣を抜いた。
そして、念のため顔を隠し、髪色を変えて準備を整える。
「意味のないことを………」
「よく言うぜ。これの意味はアンタが一番よくわかってるだろ?」
「ッッ………………」
ほんの僅かに言葉が詰まったのを、俺は見逃さなかった。
そう、この変装には意味がある。
以前俺が立てた予測………俺の敗北条件である一定までの好感度の低下を仕掛ける行動を、領主が取れないという予測だ。
地位も権力もあり、今は人望もある領主。
貶めようと思えばいくらでもできるのに、わざわざしない理由がわからなかった。
そこで考えたのは、二つ。
一つはその条件を知らないというケース。
そしてもう一つは、直接的に俺の好感度を下げる行為が取れないというケース。
今の反応を見る限り恐らく——————後者だ。
「礼を言うぜ、おっさん。これで俺も動きやすい」
「賊だ!! 始末しろ!!」
開戦待った無し。
周囲の魔力が膨れ上がり、幾つもの魔法が形成されていく。
そう。
こいつらは知らない。
俺を相手に魔法を使うのがどれだけ無意味なのかと言うことを。
「——————テメェが出てこいよ」
「!!」
術式が破壊され、ガラスが割れたような音がそこら中から聞こえてくる。
集まっていた魔力は霧散し、大惨事となっていたはずの部屋は、何秒経っても無事なままであった。
驚愕する領主。
この時初めて、大きく表情を変えた。
そして、
「つーわけで、お邪魔しやした」
「っ………貴様——————」
手を伸ばす領主。
当然待つわけがない。
ドアを蹴破り、俺は部屋を飛びでた。
だが、これで終わらないことも重々承知している。
「おお………ゾロゾロと………………」
一気に駆け抜けようとすると、そこには衛兵達がズラッと並んでいた。
剥き出しになった敵意が降り注ぎ、ついつい笑いが溢れる。
——————ここに来て気づいた事がある。
それは、敵側の中でも、領主の裏を知っている者と知らない者がいると言うことだ。
純粋に、表側の領主だけを見て慕っているものもいれば、領主の裏を知ってついて行ってるものもいる。
前者は別宅にいた執事や、先程のメイド。
別宅のある里にいた一部の衛兵………俺に助けを求めてきたあの衛兵も多分前者だ。
しかし、あからさまに俺を警戒していた人物………今まさに目の前で俺を迎え撃とうとしているベルドランドは、恐らく後者。
後者は、俺が領主に敵対する人物であると知っていたのだ。
「職務なら容赦はするが、外道に加担して俺を殺ろうってンなら、ある程度の苦痛は我慢しろよ?」
「………関係ありません。賊であれば始末する。ただそれだけの事」
「そうかい」
笑う気は失せた。
殺したり、闇雲に苦痛を与えるつもりはない。
ただ、一応無実の俺に職務と称して危害を食えようとするその根性には、灸を据える必要がありそうだ。
「ここで始末する!」
ベルドランドの大声とともに、一斉に衛兵達が流れ込んでくる。
やはり魔法は撃ってこない。
そして、室内であるお陰か、やたらめったら飛び道具を撃ってくる奴もいなかった。
攻撃の種類は接近に絞られる。
多角から迫るそれなりの威力の攻撃。
しかし、やはり未熟。
力はいらない。
そっと剣を差し込み、攻撃の線をずらす。
そして、すれ違いざまに魔法を残し、発動。
まとめて3人が倒れ込んでいった——————その瞬間、
「!!」
鋭い一撃が、一瞬にして迫る。
剣を即座に返し、刀身を現れた槍に当て、なんとか攻撃をずらした。
しかし、
「っ——————」
思わず剣を手放してしまいそうな凄まじい衝撃と痺れ。
重い。
前にいた3人とは比べ物にならない重さ。
そして、反撃も早い。
ずらされた槍を即座に持ち変えて力勝負に切り替える。
瞬時にそれも弾いて距離を取ろうとするが、圧倒的なステータス差がそれを許さない。
何より、詰め方——————足運びが他の衛兵とまるで異なる。
白紙化しても、歩法の技量は変わらない。
つまり、本来の力量がそのまま現れる。
「っ………テメェ………」
槍の持ち主は、ベルドランドであった。
明らかに戦い慣れしている。
積み上げられたものは、10年20年の年月ではなく、100を超える歳月を感じる。
熟練度はまるで計り知れない。
「ジジィだったのかよ………!」
「人の尺度で見れば、二周くらいでしょうか、ッ!!」
予想外の強敵。
恐らく、白紙化以前の技量は、ニールに引けを取らない。
厄介なことになりそうだ。




