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第1045話



 「ヒジリケン様………でお間違えございませんでしたか?」




 別宅の時とは打って変わって、若い執事が出迎えてきた。

 定番の緑髪をした短髪のエルフ。


 恐らく、かなり戦える。




 「ああ。依頼を受けた冒険者だ」




 プレートを見せると、ふむと一言呟き、プレートを返される。


 すると、無表情だった顔に営業スマイルが現れ、冷ややかで柔かな表情のまま改めてを挨拶をされた。




 「はい、確かに。ようこそおいで下さいました。私は領主様に使える執事の、ベルドランドと申します」


 「! そうか、アンタが………」


 「?」




 先程、G・Rに頼み事を受けていたのだ。

 領主の邸宅で働く、ベルドランドという男の様子を見てきて欲しい、と。


 どういう関係かは知らないが、一応引き受けた。

 まぁ、特に変わった様子はない。




 「や、ジロジロ見て悪いな。ああ、俺はヒジリケンだ」


 「本日はお一人様ということでお間違いありませんか?」


 「他の仲間は疫病の調査中でな。少しばかり手を離すとまずい状況だから一人で来させて貰った」




 という事にしておこう。


 さて、ここいらで一つ最初の調査といってみようか。




 「なるほど………お勤めご苦労様です。未だ謎の多い疫病の調査なんてさぞ大変でしょう」


 「いやいや、せっかく領主サマから受けた依頼だからな。そうそう、領主サマといえば、今のカイトの賑わいは凄いよな。評判が鰻登りだろ?」


 「ええ、これも我が主人の人徳の成す業です」




 ………想像以上に“硬い” 反応だ。


 本心が見えない。


 ならばいっそ………





 「でも、別宅にいた使用人達は皆領主サマを慕っていたよな。オタクもそうかい?」


 「ははは、それは当然でしょう。我々は常々領主の様のお姿をこの目にしているのですから」




 うん、ダメだ。

 見えてこない。


 やはり、警戒されている。

 だが、いいヒントになった。




 「それでは、どうぞ中へ。主人は今モンスター討伐を終え、休息を取っておられるので、しばしお待ちください」















——————————————————————————————













 「………ここも広いな」




 国王………アルスカークから俺たちが貰った家よりうんと広い。

 まぁ別に広い家がいいわけではないが、それでも日本の一般的な家で育った俺としては関心を持ってしまうわけだ。




 「どうぞ」




 メイドがこれまた高そうな紅茶を持ってきた。

 軽く会釈して一口飲んでみたが、流石にいいものを使っているのかなかなか上手い。


 と、茶を飲んで一息ついていると、メイドがジッとこちらを見ているのがわかった。

 ベルドランドとはまた違う反応だ。



 警戒というよりは、どちらかというと好奇心が宿った目。

 そういえば人間は珍しいんだったなと、久しく浴びることのなかった視線を受けて思い出した。

 俺もだいぶ里に馴染んできたという事だろう。



 それはさて置き、しばらく暇になってくる。

 話し相手になれそうなのは隣にいるベルドランドくらいだが、どれだけ会話が持つことか。




 「ベルドランド………つったか。アンタ、腕が立ちそうなのになんで執事なんかやってんだ?」


 「元々………」




 お、と思わず声が漏れる。

 一応答えてくれるらしい。




 「私は領主様に仕える傭兵の1人でして。戦いに明け暮れていたある日、身辺警護の出来る戦闘員が欲しいとのことで、ある程度作法を身につけていて戦闘も可能が私が選ばれる事になりました。名誉なことです」


 「傭兵だったのか………まさに転期だな」


 「はい」





 ………続かない。


 はいで終わるなよ。

 キャッチボールをしろ。




 だが、気になるワードを言っていた。

 傭兵………そう、傭兵だ。



 そういえば、G・Rも元は傭兵だと言っていた。

 傭兵である以上、雇い主は間違いなくいる。

 この辺で人を雇ってレイドができるくらいの集団が作れるのは、それこそ領主かギルドくらい。



 しかし、元々戦闘員だらけのギルドで傭兵はないだろう。

 ということはもしかすると………



 深く考え込もうとしたところで、声をかけられた。




 「ヒジリ様。主人のご準備整われました。お部屋にご案内致します………くれぐれもご無礼のなきよう」


 「んー」




 自分でも聞く気がないと思いような生返事をした俺は、睨みつけるようなベルドランドの視線を受けつつ、応接室に向かった。










——————————————————————————————











 さて。


 遡って振り返るのはここで終わり。




 これで今へと至るわけだが、やはりまだ何も解決はしていない。


 








 しかし、最優先事項はもう決まっている。


 これから一月以内に、領主を倒す()()をする事。

 地位も力もない俺がこの戦いを制するには、ちょっとした賭けが必要だ。


 俺は全力でお膳立てをする必要がある。




 そのためにも、まずは目の前に立つこの男から読み込む必要があるだろう。







 連れられた部屋には、夥しい量の資料と、甘ったるい紅茶の香りが漂っていた。

 カリカリと筆を走らせる音だけが、積み上がった資料の向こうから聞こえる。


 すると、




 「む、来たか」




 顎髭の長いエルフの隈の出来た顔が向こう側からわずかに見えた。


 そう、この男こそカイト周辺の領地を治める男。

 領主 アヴル・ダカイトスである。




 領主は一度手を止め、こちらを一瞥すると、ゆっくりと立ち上がった。

 すると、





 「ご苦労だったな、ベルドランド。下がりなさい」


 「!」




 なんと、俺がいるにもかかわらず、ベルドランドに部屋の外に出るよう命じたのだ。




 「はい。では失礼致します」


 「ルーパス、マリグル。先程も言ったように、お前達もしばらく休んでいなさい」





 他の警備係も同様に下がらせた。

 あたりは更にがらんとし、広い部屋に俺と領主の2人を残すのみとなった。


 

 あまりにも無警戒だ。

 ルージュリアの話によれば、似非疫病で魂が抜けた肉体を取り込むことができるらしいが、間違いなく今は極めて弱い。


 殺そうと思えば今殺せる。







 ——————だが、恐らく意味なく無警戒なわけではないだろう。




 ふと目があってわかった。

 あの余裕ある目。



 間違いない。

 俺が手を出せない事もよくわかっている。

 殺せるのなら殺してみろと言わんばかりの目だ。



 そして、その余裕の表情を浮かべながら、領主は再び口を開いた。





 「お前がヒジリケンか」


 「ああ。今回の件で疫病を——————」




 と、一応建前だけでも客っぽくしておこうと思っていたら、なんと向こうのほうから手を出してそれを遮った。




 「間怠っこしい真似は止そう。お前が今回の敵なのだろう?」




 なるほど、と。

 俺も取り繕うのをやめ、笑みを浮かべた。





 恐らく、誤魔化しは効かない。


 目星はとうに付けられているし、これから俺がどう誤魔化そうとマークは消えず、ひたすら命を狙われるだろう。




 ならば、堂々と名乗るまで。







 「ああそうだ。俺が、アンタの敵だよ」

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