第1043話
「カイトに向かうぞ」
俺は水浴びを終え、夜食を食らうG・Rにそう宣言した。
「………………」
黙々と飯を食うG・R。
何かダメだったのだろうか。
「………」
「………」
ゴクリ、と口にあるものを飲み込む。
一息ついて、こちらに視線をやると、フォークを持った手をそっと持ち上げた。
何やら物々しい雰囲気。
やはり問題があったのだろうか。
「………」
フォークがハンバーグに突き刺さる。
一瞬、視線はハンバーグに注がれたが、再び俺に向けられた。
そして、
「敵の本拠地………ですか」
「真面目に答えンのかよ」
「私はいつだって真面目………です。おかわりを」
そう言うところだぞ。
「本拠地って意味なら確かにそうだが、広い里の方が隠れやすいだろうし、木を隠すなら森にって言うだろ? 人まみれの場所なら案外気づかれねーさ」
「まぁ、確かにもうここには用事もない………ですし、ね」
そうだ。
あれが病気ではないとわかった以上、この隔離施設にいる理由もない。
だったら、ミッションの内容をより深く調べるためにも、本来の領主の拠点であるカイトに向かうべきだと俺は判断した。
「そんじゃま、とりあえず連絡入れとくか」
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「うむ………………解せんな」
別宅にいる執事から、カイトにいる領主向けて一本の連絡が入った。
内容は、疫病探索の依頼を出した冒険者が、カイトに出向いて挨拶に来ると言うもの。
そして、調査拠点をカイトに移すと言うものだ。
暗殺者を利用した作戦の失敗を聞いた時に、敵からは逃げられると領主は思っていたが、むしろこうしてわざわざ向かってくると連絡まで入れてきた。
正直、不可解であった。
「読みが違ったか? あの少年は“魂狩り” の女とは無関係………? いやしかし………………………まぁいい」
そう。
焦る必要はまるでない。
わざわざ来るのだから会えばいい。
ただ、仮に金髪の少年が知っていて向かってくるのだとすれば、逃げる意思はないということ。
つまり、勝とうとしていると言うことだ。
「ふふふ………面白い。たった数人で、領主を………いや、今や英雄と称えられ、里の民を味方につけたこの領主を倒そうと目論むか………………」
油断はなく、慢心もない。
しかし、確信はしている。
自分には、負ける要素は何もない………と。
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「うぷ………あぶねー………てかすげぇ騒ぎだな」
数日後、約1週間振りにカイトへ戻ってきた俺は、その雰囲気の違いに奇妙さを感じていた。
何故か妙に治安が良く、明るい雰囲気になっている。
ほどほどにに治安の悪い里だったが、荒れた感じが前よりずっと無くなっている。
「お祭り………ですか?」
「おーいあんま声出すなよ」
でかい箱から顔を出すG・R。
仕事道具だと適当な嘘をついて馬車に乗せたのだ。
案外簡単に連れ出せたのは嬉しい誤算であった。
「しかしなー。この騒ぎは確かに祭り………あ、ちょっといいかおっさん」
「おー、白紙のニーちゃん。最近見ねぇと思ったら」
近況を聞こうと話しかけたのは、数回前のミッションで助けたオヤジだ。
何か聞ければいいのだが。
「この騒ぎはなんかあったのか? 最近里から出てたから何が起きてたのかわかんねーんだよ」
「おお、そうか。だったら知らなくても無理はねぇよな。噂ぐらい聞いてないかい? 最近領主様が挙兵して大量出現したモンスターどもを討伐したって。俺たちゃもうダメかと思ったが、お陰様で助かったわけよ」
「!」
なるほど。
勝利の宴ってことらしい。
「いやぁ、俺は領主様見直しちゃったね。今まではうだつの上がらないお飾り領主と思ってたけど、あの数の魔物を犠牲なしで退けるなんて、俺が思ってたようなボンクラが出来るわざじゃないよ」
「………」
どうやら、領主は民衆の心を鷲掴みにしたらしい。
評価は180度変わり、情けない領主は頼れる領主ということになった。
………そう。
やはり、評価が上がったのだ。
ウインドウに表情された数字が、ふと頭を過ぎる。
馬車の中で確認していた数字。
左側の数字………94という数字だけぐんぐん伸びていた。
4日前思い浮かんだ正解に近づいている気がする。
そして、何かが頭に浮かびかけたその時、
「!」
少し離れた場所で、歓声が起こった。
「おいおい何の騒ぎだ」
「おお、領主様が帰ってきたみたいだな。これも知らねぇだろうが、最近は連日残党狩りに出向いてるみたいでな。ギルドと連携をとって集団討伐に出向いてるんだよ」
「へぇ………サンキューな、おっさん」
ということは、また領主の株が上がったことだろう。
ちょうど良い。
これで確認が取れる。
もし当たっていれば、おそらく数字の意味がわかる。
「あっ、ちょっっ!?」
「!?」
ウインドウを開こうとしたら、後ろから男の焦った声と暴れながら啼き回っている馬の声が聞こえた。
馬は馬車を引いており、荷車を引きずり回すように暴れていた。
すると、
「わっ………ぁ………ぇ」
暴れた馬に驚いた子供が、目の前で腰を抜かした。
そして、運の悪いことに、馬向きはその子供へ向いた。
荒振りながら上に持ち上がった足は、子供の頭上に位置し、そして当然の帰結と言わんばかりに、足は真下にいる子供に向かって落ちていった。
「お嬢ちゃん——————」
迷わず神の知恵を発動。
魔力による身体強化。
風魔法を後ろにつけて、そこに炎魔法の爆発によるブーストをかける。
加速——————頭から低い体制で突っ込み、子供を抱えながら前へ。
馬から離れた瞬間空いている手足をついて減速。
体の向きを反転させ、着地に成功した。
「ふーっ………………大丈夫か。ちびっ子」
「ぁ………………う、うん」
放心しつつも、子供はしっかり礼を言った。
礼儀のなっている子供だ。
と、感心していると。
「白紙の兄ちゃんやるじゃねぇか!!」
「よくやったぞ!! 白紙の!!」
あまり受け慣れていない歓声を受けてしまった。
むず痒い気分になる。
が、お陰でハッキリした。
今だと思ってウインドウを開いて正解だった。
そう、数字が変わっている。
↓
『103:65』
4日前の時点で見れば94は103に。
64は65に。
94は現在進行形で上がり続けている。
そして、65はたった今1上昇した。
そう、好感度が上がったのだ。
矢印は恐らく、プレイヤーの数値。
つまりこのウインドウが指すのは、俺・リンフィア・ミレアの3人と領主の持つ、この領地での好感度なのだ。
「!」
その瞬間、ウインドウに表示が増えた。
心を覗かれているようで気分は悪いが、進展はした。
さぁ、一体何がわかるようになったのだろうか。




