第1042話
「ふぅ………こんなもの………です!」
「………」
ピースサインを掲げ、得意そうな表情を浮かべるG・R。
あの後はもう一瞬であった。
元々、残った黒装束たちの遠距離攻撃は魔法メインのはずだったらしい。
そのせいか、俺を警戒するあまりろくに魔法が使えていなかったので、黒装束達はあっさり制圧されていった。
器用貧乏、技術の併用、切り替えが成立しづらい環境が、連中をダメにしてしまった。
とはいえ、今回は異例中の異例だろう。
見た瞬間術式を破壊できる様なやつは、恐らくそういない。
無詠唱魔法の破壊となるともはや皆無だ。
だから、今回はラッキーということにしておこう。
そんなことよりも、戦い終えて一つ思ったことがある。
「にしても、なんつーか………弱くないか?」
「はい。それは私も思い………ました。地下で最低限の強さは確認した筈なのに、仕向けられたのは特別強くもない敵が5人。暗殺だとしてもお粗末すぎ………ます。めっちゃ雑魚………です」
辛辣なコメントだ。
だが、はっきり言ってそうだ。
一人一人で見ればもはや地下にいた見張りよりも弱いかもしれない。
暗殺ではなく戦闘になったからといえばそれまでだが、持っていた技術的に戦闘ができないとは思えない。
つまり、特に暗殺特化でもないのだ。
「………………勝てるわけないのに………なんで」
「………」
眠っている5人を見つめながら、G・Rはそう呟いた。
同情………とはまた違った表情をしている。
こいつは今、一体何を思っているのだろうか…………と、気になるところだが、それは一旦置いておこう。
「なぁ、明日はどうする? よく考えたらここも敵に割れてるんだ。拠点は移しとかねーとだろ? 朝一から探すか?」
「定住は難しそうなので、拠点はなし………です。だから、ミッションというのを進めて………ください。それで、領主が倒せる………のでしょう?」
確かに、ミッションの進行は最優先だ。
そういえば、ウインドウに描かれたあの数字はいったいなんだったのだろうか。
87と64。
あの数字にいったいなんの意味があるのか。
俺たちはどう動けばいいのか。
まずはこのミッションの大筋から調べる必要がある。
が、
「………………あれ、変わってる」
最大の謎であった87と64という数字。
確認すると、数字が変わっていた。
↓
『94:64』
87は94に、64はそのまま。
ますます意味が分からない。
俺たちはまだ特に何もしていない筈なのだが。
………何もしていない?
ふと何かが頭を過ぎる。
64。
この数字に関して思い当たるものはないが、もしかしたら、厳密な数字に意味はないのかもしれない。
「………なぁ、G・R………ぅおあっ!? 何してんだお前!?」
ぼーっとしている間に、G・Rは服を脱いでいた。
「? 水浴びしようと思って………ました。そこに湖があるので」
「お前それはもうマイペースじゃ………………」
しかし、焦りはすぐに引いていき、俺の目線は背中や腕、腹に刻まれた傷に向いていた。
「その傷………………」
「これ………ですか? 当時はまだ回復魔法の使い手が少なかったので、すぐに治療できないことも多々………ありました」
そう。
回復魔法は、すぐに使えば傷を綺麗に塞げるが、古いものはそうもいかない。
自己修復によって塞いだ傷は回復の対象にならないため、跡が残ってしまうのだ。
「白紙化直後は傭兵をやって………ました。私のスキルは集団戦闘のサポート向け………でしたので、レイドによく駆り出されて………いました。スキルをつかえばみんなが生き残れ………ます、から」
急激なレベルアップのために集団で相当強いモンスターを相手にしていたのだろう。
そして、無茶をしても怪我人を速攻運べる様にいつの戦闘に付き添っていた………という事か。
それに、ネームレスなのにも関わらずあの槍捌き。
恐らく名前を奪われる前はずっと強かったのだろう。
サポート役だとしても、戦いに入れられていたのだと想像がつく。
「あの」
「ん?」
「水浴び行ってもいい………ですか?」
そうだ。
そういえばこいつ半裸だった。
「ああ行っていい。つーか早よ行ってこい」
そういうと、G・Rはご機嫌そうに湖へ向かって行った。
思わずため息が出る。
よく考えたら、男と同じ部屋で寝ることに一切抵抗がない時点で少し妙だと思ったのだ。
しかしまさかここまで羞恥心がないとは思っていなかった。
些か甘くみすぎていたのかもしれない。
さて、ということで、俺は特に覗きの趣味もないのでここでぼーっと待っておく事にする。
と、言う事にしたかったのだが。
「………………妙な気配だな」
さっき、G・Rと会話をしているときにふと感じた。
明らかに、こちらを監視する視線があった。
しかし、姿が見えない。
視線が見えた場所の辺りにはまるで人影もなかった。
だが、視線は確実に感じたのだ。
何かの能力か、それともゴーレムか。
何にせよ、護衛のためにG・Rの側に行かざるを得ない。
「うーん………………けど水浴び………意図してないとはいえバレたらミレア辺りがキレそうだな。よし、黙っとこう」
キレ散らかすミレアを頭の片隅に浮かべつつ、俺は湖に向かうのであった。
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「ヒトを媒体にする魔法術式ねぇ………おっさんえらく物騒なもん使おうとしてたんだなぁ」
燃えた木の切り株の上で、少年はそう呟いた。
円形に燃え広がる炎の土俵。
その正体は、魔法陣のほんの一部であった。
しかし、炎の一部は無理やり消された跡があり、別の魔力で塗り替えられいた。
つまり、機能しなかったのだ。
「まぁ、あいつらなどうにかしただろうけど、一応………ってことで。勝手ながら一つ借りは返したぜ。聖」
少年は、聞こえないところにいる金髪の少年に向かってそう呟く。
それは、かつて自分と自分の恋人を救った恩人への感謝の篭った言葉であった。




