第1039話
リンフィア、ミレア、ルージュリア、コウヤを見送り、俺は一度G・Rの仮拠点へ戻ってきた。
G・Rの厚意で、とりあえずしばらくはここを拠点とする事になった。
「さて………猶予は1ヶ月か………頑張れよ、リフィ、ミレア」
位牌に封じられた魂が消えるまでの期間。
それまでにあいつらが帰って来れば、とりあえず子供は救える。
「………そういえば、」
「ん?」
「使い魔を預けて大丈夫………ですか? 使い魔は、ある程度主の影に戻って魔力を欲する必要が………ありますけど」
「ああ、そのことか」
唐突な質問だが、確かに初見なら疑問に思うだろう。
だが、
「俺にもわかんねーけど、この国に来てからあいつ魔力を自給自足出来るようになったんだよ。もともと縁のある土地なのかもな」
記憶違いでなければバハムートは五色獣の一角。
つまりこの妖精界は——————
「そういえばお腹が空き………ました」
「脈絡って知ってるか?」
まぁ、丁度俺も空腹だったので何か腹にいれるとしよう。
幸い、食料も調理器具も揃っている。
地下の狭い場所だが、衣食住には困らなさそうだ。
が、包丁やまな板などの器具ははろくに使った跡がない。
かろうじて火は使った形跡があるが、何故かここは逆にかなりの使用感がある。
食材も、調味料はそのまま掛けられるタイプ以外ほとんど使った形跡がない。
という事は、G・Rはロクに料理をしていないのだろう。
「ったく………飯は今後俺が作るからな」
「あなたは何故向こうについていかなかったの………ですか?」
「お前マジで急だな………」
確かに俺たちの目的だけでいえば、ここは完全に寄り道。
極論、里がどうなろうと王の選別には影響しないだろう。
まぁ、任務を放っているのでそこは問題になるだろうが、疫病はどうにかするつもりなので、結果としてそこは関係ないと言える。
何故と思われても仕方ない。
だが、それでも俺は助ける。
一応と言えるかもわからない小さな理由ゆえに。
「俺は、誰かを助けようとしている奴が報われないのが気に食わねーンだわ」
「?」
それだけの理由で、とでもいいたげな顔。
これまで幾度となくされた。
「はは。馬鹿馬鹿しいか? でも、俺の行動原理なんざそんなモンだ。気に食わねー敵は徹底して潰す。更正の余地のある奴はたまに見逃すけど、そういう奴も二度と他人に迷惑をかけねーように教育する。要は潔癖みてーなモンだ」
「悪人は徹底的になくしたいってこと………です?」
「そのとーり。小悪党くらいなら目に入らねー限り逃すかもだが、看過できないクズは潰す。小悪党も芽になるようなら潰す。それだけの力が………………あったんだけどなぁ」
今はすっからかんだ。
正直笑えない。
どうにか出来ると言っても範囲が狭まるのは必死。
もしも手の届かない範囲に大事な何かが出て仕舞えば、俺は何も出来ないのだ。
悪党潰しはその予防でもあるのだ。
「それに………………今回の敵は、ちょっとばかし危ない気もするからな」
「………?」
上で火事が起きていた時、ふと思った。
衛兵の中にはサラマンダーもいたのに、何故鎮火しなかったのか。
理由は一つ、火が必要だったからだ。
もっといえば、視界が塞がれる状況を、自然に作りたかったのだろう。
念のため、火に突っ込む時に助ける体を装ったり、リンフィア達が上にいる間に事情説明をさせたりして正解だったかもしれない。
もしも、あれが意図した火事で、G・Rの出方を窺っていたのだとすれば、敵は思った以上に、入念にG・Rを監視しているかもしれない。
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月明かりがはっきりと見えるようになった頃、普段は聞こえない人の声が、今日に限って昼間よりもずっと響いて聞こえた。
里中に鳴り響いているのは、これまでになかった “一丸” の感謝。
里を救った英雄への、歓声であった。
「フッ………騒がしいな。して、マスクの男だったかか………………うむ、なるほど。ご苦労だったな。下がれ」
「はい」
従者らしき女は、深くお辞儀をしてその場を後にした。
ここは、カイト中央に聳え立つ大樹——————領主の本宅の一室である。
ドーナツ型になっているこの部屋からは、里全体が一望出来る。
そして、先日のモンスター侵攻を食い止めた領主を讃える声が、そこら中から聞こえていた。
ギルド主催の即興の祭り。
外での騒ぎは止まることを知らず、祭りは夜を越してしまいそうな勢いであった。
「見てみろ。あれだけ私を無能呼ばわりしていた連中も、あの中で声をあげている。心とは、実に単純で自分勝手なものだとは思わないかね」
「仰る通りです」
顔を伏せる謎の男。
ニヤニヤと貼り付けたような笑みを浮かべながら、いつも通りの返事を返した。
「まぁ、君はそう言うだろうね………して、別宅付近でようやく“魂狩り”の賊が見つかったそうだが、奴の仲間だと言う覆面の男。君はどう見る? 私にはさっぱりでね」
「お戯れを。先日仰られていたではありませんか。『次に的確な邪魔をしてきた者がいれば、それは間違いなく以前人魚の声を得る邪魔をした者と同一人物だ』………とね」
男は顔を上げながらそう言った。
——————この男は、以前ケン達がセルビアの声を奪還する際に、主犯とは別に遠巻きで観察をしていた人物だ。
そんな男が領主の前にいるなど、ケン達は想像もしていないことだろう。
「ははは、そうだったな。白紙の服を着た金髪の少年。報告を受けたのはマスクの上黒髪だったが、十中八九彼なのだろう。しかし……冒険者として呼びつければ食いつくと思っていたら案の定だったうえ、またもや邪魔をするとはな。どこで知ったのかは知らんが、ガージュの件に私が関与していると勘づいているようだし、頭の切れる男なのだろう」
だが、と領主は続ける。
「それも今夜までだ。少年」
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領主別宅、周辺の様子。
民を失い、隔離施設となった名もない里を囲む森。
ここは、カイトでのお祭り騒ぎと対比するように、ただただ静寂が流れていた。
——————周りを取り囲む、殺意の群れと共に。




