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第1038話



 『勇者』のレッドカーペット。


 対疫病・対領主の切り札としてルージュリアが提示したのは、明らかに異質なレッドカーペットの存在であった。


 



 「隠されたレッドカーペット………そんなものがあンのか?」


 「いえ………正確には、レッドカーペットとしては機能していません。ですから、レッドカーペットを行う事で得られる恩恵は、一切得られないと言うことになります」




 なるほど。


 使えなくしている以上、それはレッドカーペットではない………すなわち、ミッションとして下されることはないと言うこと。

 つまり、経験値が一切得られないということだ。




 「金髪………経験値が無しってのは痛くないか?」


 「ああ。けど、メリット・デメリットを比較したら確実に取るべきだと俺は思うぜ」


 「ん?そうなのか?」




 コウヤの言う通り、確かにミッションクリアによる経験値が一切得られないというのはかなり痛い。

 コウヤ曰く、レッドカーペットでは通常のミッション以上にクリア報酬が得られるという話なのだから。


 だが、




 「考えてもみろ。俺らにはお前がいる。通常ミッションの数はこなせるし、ショートカットも出来るんだ。多少遅れをとっても誤差の範囲だろ?」


 「おお………確かに」




 攻略本持ちの上、神威による超火力攻撃を持ったコウヤ。


 頼りになるどころではない。

 チームの要であった俺以上に、こいつは俺たちのパーティには欠かせない。

 こいつがいれば、デメリットはひっくり返せる。


 


 「それに忘れてないか? レッドカーペットを受ける、1番のデメリットを」


 「………………! そうだった。レッドカーペットには、強制力がある。仮に人殺しのミッションを発令されても、無視ができないんだ………!」


 「あの管理者のことだ。絶対に手を汚さないミッションだけを受けさせ続けるなんてことはあり得ない。ガージュのレッドカーペットがいい例だろ? だから、これは俺たちにとって、唯一望んだように玉座へと渡る方法なんだ」





 受けない手はない。

 全員の意思は、そこで完全に一致していた。


 だが、それがそう簡単に得られるものではない事は、皆わかっていた。




 「俺たちは、どうすれば良い?」


 「妖精の泉を探し出してください。本来であれば、管理者が場所を示すはずですが、レッドカーペットでない以上、自力で探さなければなりません。エルフの土地にある事は確かなのですが………」





 これでまた一つ合点がいった。


 ウンディーネの始まりの里ではなく、わざわざエルフの始まりの里を選んだということは、つまりその泉を探すためだったのだ。

 そして、やはり俺たちは運がいい。

 探し物なら、あいつが役に立つ。




 「コウヤ」


 「ああ。任せろ」




 手に取った攻略本を開き、意識を集中させるコウヤ。

 すると、ほんの中央から、止めどなく文字が溢れ出した。


 部屋中に広がる光の文字。

 幻想的なその光景に、初めて見るルージュリアやG・Rは呆気に取られていた。




 「これは………」


 「まぁ見てろって」




 可視化された知識達。

 その中から、必要なたった一つを選んでいく。


 膨大な量、しかし、決まるのは一瞬。

 止まっていた文字が蠢き始める。

 要らぬ文字は、吸い込まれるように本の中へと帰っていき、必要な文字だけが宙に残った。




 「………迷いの森、最深部。先々代エルフ族長の隠れ家。ここに泉が——————」


 「っ………!」




 ルージュリアは、ガタッと音を立てながら立ち上がった。




 「迷いの森!? まさか………そんな………それじゃあ一月なんてとても………」




 どうやら、迷いの森の奥深くにあるせいで悲観的になってしまっているようだ。


 しかし、ルージュリアは分かっていない。

 コウヤの攻略本が、いかに反則なのかを。




 「安心しろよ、お嬢様。迷いの森の地図もこの中にバッチリ入ってる」


 「………………は?」


 「けど、時間的にちょっと困ったことになったぜ、金髪」




 パタンと本を閉じながら、コウヤはそう言った。


 わかっているとも。

 俺もそれを危惧していた。




 「深部は馬車が使えないから歩きになるとして、行き帰りで20前後。一月はギリだ。先の終わらせて戻ってくるのもいいが、その頃には領主が何をしでかすかわかったもんじゃねぇし、狙われてる自由人も心配だ」




 自由人………G・Rの事だろう。

 確かに、勇者の力を得るために泉に向かうのが必須だとして、領主のミッションにも対応する必要があるだろう。



 となれば、選択肢は一つ。




 「………………俺が残ろう。エルをお前らに預けるから、いざとなったら連絡してくれ。能力を使って全速力で向かえば、多分5日で着く」


 「護衛はいいのか?」


 「リフィもいるし、そもそもミレアは弱くねぇ。それに、お前らもついてるしな。特に、力隠してる分ルージュリアは頼りになるだろ」




 問題ない。

 後は、リンフィア達が納得すればそれでいい………と思ったが、どうやらわざわざ聞くまでもないらしい。


 好きにやれと、目で言っている。




 「流石、誰に何度も死線を潜った仲じゃねぇな」


 「止めるだけ無駄ですから。ね」


 「ええ。腕や足を平気で失くしたり生やしたり、お腹に穴を開けたりする人ですから」




 ひでぇ。

 俺だって失くしたくて失くしたわけじゃ………いや、そういえば腹に穴開けるのは自分からやったかもしれない。




 「おいおい、これから権力者相手に突っ込もうとする仲間に対して “死なないで” くらいいえねーのかよ」


 「「死にませんから、絶対に」」




 はっきりと言葉に変わった信頼。


 思わず笑みが浮かぶ。

 弱くなっても、この2人は俺を信じてくれているのだ。


 ならば、応えようではないか。




 「あっはっはっは! いいねぇ。言ってくれるじゃねーか。だったら任せとけ。イカれた領主如き、さっさと片付けてやる。だから、お前らもさっさと行って帰ってこい。こんな状態でも、俺抜きで仕事できるってとこを見せてみろ」


 「当然です!」


 「もちろんです」





 突き出した拳に、拳をぶつけて答える2人。



 しばらくのパーティ解散。

 心配はある。

 わざわざ管理者が隠したからには、恐らく険しい道であろう。



 だが、俺は知っている。


 あの2人は、出来るやつだと。



 片方は追いやられ、片方は未だ座につかない。

 それでも、王を冠する力を持った者だ。

 いつか人の上に立つあいつらは、これくらいの試練、絶対にやり遂げてくれる。



 それ故に、俺は送り出す事にしたのだ。



 それに、心配ばかりもしていられない。


 ()()()()()()恐らく領主も馬鹿ではない。

 気張って行かなければいけないのは、むしろ俺の方だ。

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