第1037話
ルージュリアの話によって、今この国では例の疫病が蔓延している事がわかった。
そして、全てのレッドカーペットは、その疫病から民を救うという共通のストーリーからなっている事も。
しかし、そのシナリオでは多くの犠牲が生まれる上、疫病には別の正体がある事も判明した。
これからルージュリアは、その正体について語るつもりらしい。
「そもそも、白紙化とはなんのことだと思いますか?」
唐突な問いかけであった。
この国を一度リセットした謎の現象・白紙化。
今わかるのは、管理者がゲームのために起こしたということのみ。
しかし、確かにそう問われると、こうだとは答えられない。
白紙化とは一体、なんなのだろうか。
ルージュリアは、その答えを口にした。
「あれは、魂と肉体の分離を行い、用意された別の肉体に押し込むという現象………というより作業です」
「!!」
なるほど。
そういうことだったのか。
技を失い、ステータスが下がったのは、肉体を失ったからだ。
恐らく、記憶のみを新しい肉体に移し、それ以外は全て元の肉体に置き去りになっているのだろう。
だが、それはつまり、それほどの力を管理者が持っているという事。
また一つ、管理者について理解し、その距離は遠のいた。
ぼんやりと見えていた巨大な壁に厚みが増した様にも思える。
敵は、想像より遥か遠くにいる。
………しかし、今はよそう。
それを考えても仕方ない。
続きを聞かなければ。
「………管理者は自分が所有する妖精王の羽の力と別の力を組み合わせて、強制的にこの国の妖精を白紙にしました。でも安心してください。外界から来た者や妖精は、ここに住んでいる妖精とは違って影響を受けにくいですから、精々肉体の分離が関の山。ここの妖精達の様に、お告げ等で強制されたり名を失うことはありません」
「そうか………」
それを聞いて少し安心した。
外界の妖精もということは、この環境に何かあるのだろう。
ともかく、プレイヤーには干渉できないという事だ。
「しかし、分離そのものには問題がありました。今の我々は、自分のものでは無い肉体に押し込まれた状態。これがいいか悪いかは、いうまでもありませんね」
「………………まさか、疫病の正体ってのは——————」
「ええ、そうです。疫病とは、肉体と魂の接触不良のようなもの。つまり、拒否反応なんです」
どうりで魂にダメージがいっていたわけだ。
そりゃそうだ。
無理矢理合わない肉体に押し込まれているのだから。
「これも、原住民のみに起こりうるものだと考えています。一人一人分離と定着を行なった外界人と違い、原住民は遠隔でまとめて白紙化が行われた。疫病は、その雑さが招いた悲劇なのです」
これで領主が自宅に患者を隔離させていたのも合点がいく。
感染しないのだから、そりゃあ近い方が楽だろう。
だが、そうなってくると………
「領主はこれについてどう思ってるんだ?」
「そこなんですよケン君。『疫病の正体を知りながら患者を囲っている領主の、本当の目的』目下のところ1番の問題はそれなんです」
「知ってンのか」
「でなければ、彼女G・Rは反乱なんて起こしません」
確かに。
こいつは、明確な意図を持って領主に反旗を翻している。
やはり、何かがあるのだ。
そして、その答えは、G・R本人の口から語られた。
「………領主の目的は、魂が消滅して残る、妖精達の死骸………です」
「死骸………? 何に使うんだ?」
「妖精が死んだら、その種族に因んだ物質に身体が変換されるのは知って………ますか?」
それは、何度か見たので知っている。
なんなら、その瞬間今際の時も目にした。
とてもじゃ無いが、忘れられない光景だ。
それが一体、なんだというのだろうか。
………変換?
そうだ。
この肉体は、本来の妖精の肉体ではない。
では何故、こんな機能をこの肉体につけたのか。
そもそもこの肉体に、外見以上の種族の違いはあるのだろうか。
もしも、その点で全く同じものだとすれば、利用方法はいくつかに絞られる。
そう、例えば——————
「吸収………出来るのか?」
「!! ………………流石ですね。その通りです」
だとすると、あれだけの人数だ。
もし全て吸収する事が出来れば、えらいことになる。
「ちなみに、これに関しては一度管理者も止めようとしたことは知っていますか?」
「そうなのか?」
「ええ。シナリオが無茶苦茶になりかねませんから。族長にも直属のお告げが降りました。しかし、それも途中で転換されたました。彼は、このアクシデントすらシナリオに取り込んだんです。その結果、族長へのお告げは取り下げられ、代わりとなる組織を発足させました」
組織………そういえば先程も言っていた。
それに領主も所属していると言うことだ。
………心当たりが、全くないわけではない。
それは、ガージュの件やセルビアの件でなんとなく感じていたことだ。
何か大きなものが後ろにいる………と。
「その顔、思い当たる節がありますね? 先日貴方達が邂逅したピクシル。彼も関わってきます」
「族長もかよ………………連中の目的は?」
「いいえ、彼らに決まった目的はありません。彼らはある恩恵を受ける代わりに、管理者の為に従う駒となった組織。目的があるのは彼らではなく管理者です」
意思のない駒というわけだ。
さぞ扱いやすいことだろう。
だが、そもそも強制が出来る管理者がわざわざ立てた組織だ。
スムーズに事が運ぶよう、やる気を出すための何かがあるはずだ。
恐らく、それが恩恵とやらなのだろう。
「その恩恵ってのは?」
そう尋ねると、ルージュリアの表情が少し強張った。
あまり気分の良い話ではなさそうだ。
しかし、それでもルージュリアは、その恩恵とやらについて語った。
「………お告げのもとで許される、いくつかの非道な行為。管理者は、疫病の件もまとめて、悪事を管理しようとしたのです」
「なっ——————」
思わず言葉を失った。
しかし、これまでの行動を考えれば、それくらいのことはやりかねない。
だが、
「犯罪が………認められるってことか………!?」
「ええ。しかも、お告げによって情報や人を操作して、犯罪で無くす、というやり方です。疫病も、うまく隠されているでしょう?」
恐らく、疫病の件を含め、その犯罪行為はシナリオに組み込むためのものだろう。
それでも、あまりにも馬鹿げている。
目的のためとはいえ、犯罪を認めるなんて正気ではない。
「だから、領主も管理者のお告げの下、助力を受けてここまで患者を集める事が出来たんです。そして、体の弱い子供なんかは、既に死の一歩手前まで来てしまっています」
「!? マズいじゃねぇか!!」
「はい。ですから、我々は一旦この状況をどうにかするために、応急処置を施す事にしました。それが、あの位牌です」
ルージュリアは、G・Rの持つ位牌に目を向けた。
そういえば、あの中には魂が入っているのだった。
それも、今話していた子供の魂だ。
「応急処置というのは、魂の再分離と一時的な確保。ある人物から教わった方法によって魂を位牌に閉じ込めることに成功しました。ですが、これはもはや肉体ですらない容れ物。恐らく、期限は残り一月。私たちはそれまでに、この状況を打破しうる人材を探さなければなりませんでした」
過去形——————つまり、見つけたということ。
こうなれば、もうわざわざ言われずともわかる。
「そして、今、ようやくその人材を見つけることが出来たんです!」
「それが、俺たちと言うことか」
「はい。神の力を宿し、人を救う事を躊躇わない貴方達は、私たちがこれまで守ってきた力を継ぐに相応しい」
「力………? それがあれば、疫病をどうにか出来るってのか?」
はっきりと頷くルージュリア。
そして、俺たち3人——————自身が見込んだプレイヤーに向かって、ルージュリアはこういった。
「それは、この状況を収めるための能力を備えさせ、しかし圧倒的な力故に封じられたレッドカーペット。この国で唯一隠された、たった一つの役割——————『勇者』のレッドカーペットです」




