第1036話
隠し通路の先は、里の外れの森の中であった。
中は相当入り組んでいたので、すぐに追っ手が来ることはないだろう。
俺たちは余裕を持って、G・R達の予備拠点に向かった。
ボロい小屋の椅子の下にまた地下通路が作られている。
この用心深さは信頼してもいいだろう。
そして俺たちは、そこで他のメンバーの到着を待つことにした。
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そして、数時間後。
ある程度後処理を終えたリンフィア達は、エル越しに伝えた集合場所であるここにやって来た。
こちらは色々あったので、粗方の説明をつけ、そしてようやく今に至る。
「そうですか………じゃあ、G・Rさんはしばらくここに閉じこもらないといけないんですね」
気の毒そうにリンフィアはそう言った。
しかし、本人はあまり気にしていない様子だ。
「もう慣れ………ましたので、へっちゃら………です。元々引きこもり………ですし」
「人と関わるのが苦手………とかですか?」
「ゴロゴロしたい………です」
目を丸くするリンフィア。
平和な理由で俺もホッとした。
まぁ、本人もそう追っていることだし、問題ないだろう。
「それにしても、まさかお嬢様がこんなガッツリ絡んでくるなんてねぇ。俺もうびっくり」
「どちらかというと、突っ込んできたのはあなた方ですよ。領主の件や疫病の調査は、私がカイトにいる理由なんですから」
集まってから散々状況整理をしたが、息を吐く暇もなく本題に入りそうだ。
こちらとしてもありがたい。
領主の事も、ルージュリアの思惑もしっかり知りたいところであったのだ。
「さて………どこから話ましょうか………………そうですね。私の事情から説明をしましょうか」
オホンと咳払いをすると、ルージュリアは改まって背筋を伸ばした。
改めて自己紹介でもするのか………と思ったら、それは結構甘い想像で、実際は結構な衝撃告白をされた。
「私は、カイトの住民ではありません。私は、遥かウンディーネの里からやって来た、ウンディーネ族・族長、『ウンディル』の娘です」
「「「——————」」」
絶句。
これまた想像以上の大物。
しかし、これで合点がいった。
ピクシー族長のピクシルを止められたのも、こいつが族長の娘として面識があったからなのだ。
そして、ギルマスたちがやたらとびびっていたのも頷ける。
国1番の権力者の一角である族長の娘となると、確かに丁重に扱わなければなるまい。
「私の目的は、この国を救う救世主を探す事。そして、その者は始まりの里周辺にいると私は知ったのです」
すると、ルージュリアはピッとミレアを………というより、俺たちを指差してこう言った。
「数ヶ月ほど前、父は——————ウンディルはこう言いました。『近いうち、王を目指す者達が管理者によって運ばれてくる。その者達は、共に王座を争い、幾人もの犠牲を出しながら、最後にはこの国をある危機から救うことになっている。管理者の筋書き通りに、だ』………と」
なるほど。
何故かはわからないが、族長は王の選別を知っているようだ。
そして、それが管理者が描くゲームであり、奴の掌の上で行われる事も。
概ねは知っている情報だが、一つだけ覚えもない事を言っていた。
俺は一先ず、それについて尋ねてみた。
「なぁ、ある危機ってのはなんだ?」
一瞬キョトンとするルージュリア。
すると、
「そうですか、知らずに調査を………………その危機は、貴方達も既に目の当たりにしたと思います。それも、ついさっきです」
ついさっき。
そう言われて思い浮かぶのは一つしかない。
「………………疫病か?」
「ええ、そうです。あの疫病は、今やこの国中で流行っており、人々を恐怖の種となっています。だから、管理者はこの疫病の秘密を解き、国を救った者を王とするシナリオを描いているんです。レッドカーペットなるものはご存知で?」
頷いた。
むしろ、俺からすればルージュリアが知っていることの方が驚きなのだが、今はあえて突っ込むまい。
「レッドカーペットはいくつもあり、先のガージュさんでいえば恐らくゴーレム技師、他にも騎士や盗賊など、あらゆる役割に扮して、王を目指すようになっています。そして、その全てにおいて共通するのが、シナリオに疫病解決に関するものが含まれているという事です」
「!………………なるほどね。レッドカーペットごとにすることやシナリオが変わるけど、他の連中を倒しつつ、疫病から民を救うという点では共通してるわけだ」
国を救う英雄と来た。
ライバルを退け、多くの民を救う………なんともゲームらしい。
ちなみにコウヤは知っていたのだろうかと思ってふと視線を向けると、
「………わりぃ。混乱すると思って話すのがのびのびになってた」
との事だ。
別段困ってもいないので、問題はない。
それよりも、話の続きだ。
「でもよ、だとしたらなんでわざわざお前が動く必要があるんだ? 救世主の出現は決まったようなものなんだろ?」
「………………それじゃあダメなんです。それでは、シナリオに定められた犠牲は避けられない。貴方も知っているでしょう? レッドカーペットに逆らった行動をとれば、貴方たち外界の者は即座に死ぬ。巨大ゴーレムの中で死んだ彼女の様に。だから私は、父の言った救世主のうち、私たちを救い得る者を探すことにしたのです」
やっぱり、というのが正直な感想だ。
こいつはシナリオに………管理者に納得していない。
だから、レッドカーペットに逆うことができ、かつ疫病を止めることが出来る救世主を見つけることで、滅びる運命にあるものを救おうとしているのだ。
「ですが、そうそう救世主など見つかるわけもないと思った私は、救世主がやってくるまでの数ヶ月の間、疫病の調査をカイトで行うことにしました。そこで偶然知り合ったのが、このG・Rさんです」
「族長の娘が調査に来たという噂を聞いて、私から接触………しました。賭け………でした………けど。今はもうお友達………です」
ひしっ、とルージュリアに抱きつくG・R。
そーっとルージュリアの表情を伺うと、何やら耐える様な顔で何故かプルプルと震えていた。
どういう感情だろうか。
「………とにかく。数ヶ月前知り合って、そこで色々と知りました。お陰で調査は進んでいます」
「あうあう」
G・Rは無理矢理引っぺがされていた。
仲がいいんだか悪いんだか。
話が逸れた。
再び咳払いをしたルージュリアは、話を仕切り直して続きを再開した。
「私が知った大まかな情報は二つ。一つは領主に関する情報、もう一つは疫病の正体に関する情報」
「正体………そうだ。あれは病気でもなんでもなかった。でも、患者は確かに苦しんでる。なぁ、ありゃ一体なんなんだ? なんで連中の魂に損傷があるんだ?」
「そうですね。では今度は、この国中に蔓延している疫病の正体と、それを悪用する組織について話しましょう」
悪用する組織………………どうやら、領主だけの話では済まなさそうだ。




