第1035話
「………………生暖かいな」
降りた先は、さほど広く無い部屋。
人気の無さとは裏腹に、先程まで子供がいたかと思うほど、そこら中におもちゃが散らばっていた。
松明ではなく、もう少しちゃんとした照明を使っている。
そして、なぜか妙に生暖かい。
ぬるま湯というか、絶えず誰かに全身を触れられているような、そんな感覚だ。
「隠し通路はたしか………………あ。あり………ました」
早速退路を確保するG・R。
カーペットの下にさらに別の隠し通路があった。
「ここにもあるのか」
「袋小路にならないように、全ての部屋には通路を通して………います。そこだけは見つかっていないので、安心………してください」
“そこだけ”………ということは、他はもう敵の手に落ちていると考えていいだろう。
いつもなら、暴れて連中の領土ごと完膚なきまでに潰したいところだが、今回ばかりは仕方ない。
向こうは向こうで職務。
これまでの敵とは違い、治安維持という真っ当な理由で侵略をしている。
俺が文句を言うべきでは無いだろう。
「んで、ガキはどこだ? 全然姿が見当たらねーけど」
「………」
本題である子供の捜索。
目的地に着いたところで、さっさとやる事を済ませて帰りたいところだが、やはり聞いておくべきだろう。
「お前さ、なんのつもりだ? ここで一体何をしたかったんだ? ………………謀ったのか?」
「!………………ちがい………ます………!!」
全力で首を振るG・R。
問い詰めたいところではある。
だが、こんな反応をされては、こちらも疑いづらい。
長年の経験というか、人を観察するのに慣れたのか、悪意の是非はなんとなくわかるようになった。
先程も思った事だが、こいつからは悪意を感じない。
だからついてきた。
しかし、裏があることもまたここで確信した。
可能であれば話してもらいたい。
…………だが、
「チッ………抜け穴はバレてないんじゃなかったのかよ」
隠し通路の向こうから気配を感じる。
どうやら跡一戦交えることになる………………と、思っていたら、
「いえ、バレて………無いです。彼女は、敵じゃない………です」
「彼女?」
敵ではない、とG・Rは言った。
すると、
「——————そういうことです」
と、聞き覚えのある声が、奥から聞こえた。
隠し通路からスッと手が伸びる。
そして、ひょっこりと顔を見せたのは、
「どうも」
「おまっ………ルージュリア!?」
いつの間にか居なくなっていたルージュリアであった。
「上で衛兵達に追われていたとき、駆けつけようと思っていたところにあなたがいたので、こちらに先回りさせて頂きました」
「お前………見てたのか」
「別に眺めていたわけではありませんわ………………と、説明している暇もありませんね。急いでここを抜けましょう。ミレアさん達は?」
「里ン中。後で連絡を入れるつもりだ」
そのためにエルをつけたのだ。
特に、リンフィア達は帰巣のスキルを直に見ているから、俺が消えたのを察して、バラバラにならないよう連絡を待って………………くれてるといいなぁ………という感じだ。
まぁ、なんとでもなるだろう。
今は一先ず、脱出に専念しなければ。
ここにルージュリアがいるということは外は一応安全なのだろう。
………………と思ったが、よくよく考えると、一つ疑問に思うことがあった。
「そういや、なんでお前ここだってわかったんだ?」
「ああ、子供の救出だと予め聞いていたので」
子供………やはり子供がいるのだろうか。
しかし、その気配はやはりない——————
と、思って後ろを見ると、
「………………それは?」
G・Rは、妙に綺麗な加工がされている小さな石を持っていた。
よく見ると、一つ一つに名前が書いている。
まるで、位牌のような——————
「うん。子供達は無事保護しましたね」
「——————は?」
俺は、ルージュリアの言ったことに耳を疑った。
さらに、
「はい」
G・Rには、どうやら意味が通じているらしい。
子供とは、この位牌のことを言っているのだろうか。
馬鹿馬鹿しい。
普通ならそう一蹴する。
だが、ついさっき俺はあるものについて語った事を思い出した。
………もしもだ。
比喩的なものでも、思い込みでもなくこれの事を子供だと言っているのであれば、あるのかもしれない。
この位牌には——————
「それ………………“魂” 入りか?」
「「!!」」
目をカッ開き、なぜ知っていると言わんばかりに絶句している2人。
この反応を見れば、わざわざ知る力なんて使うまでもなく位牌の正体はわかった。
「………説明の手間が省けるのは嬉しいですが、それについても後で話しましょう。きっと、後で全てわかります。今あなたが知りたい事も、この国で行われている “王の選別” に関する最も重要な情報も」
「!! お————————————………いや、そうだな。じゃあ、さっさとここを出よう」
そして俺たちは、程なくして地下を後にした。




