第104話
「………んぐ」
ヨルデはゆっくりとまぶたを開けた。
寝起き特有のうすらぼんやりした景色が見える。
(どこだ?)
覚醒しきれてない頭でそんな事を考えているようだ。
直後、とんでもない暑さがヨルデを襲った。
「あっつ………」
(確か自分は………)
と、思い出してみているらしいが、記憶が曖昧な様子。
仮死状態から目が覚めたせいでいくつかの支障をきたしているらしい。
「頭が痛い………体も動かん………一体俺は何を………」
すると、隣にいる俺に気がついたようだ。
「ん?」
「お、起きた」
(誰だ?)
どうやら誰だかわかってないらしい。
俺はぼんやりしているヨルデに、
「オラッ」
バチンッ!
「んがッ!?」
軽くデコピンをした。
頭が物凄い勢いで振られ、目を回すヨルデ。
デコピンの効果で完全に目が覚めたようだ。
「おっす」
「………」
悪い夢でも見ているような顔だった。
ヨルデは一度目を閉じる。
そして、頭の中を整理してゆっくりと目を開けた。
「よォ」
「ぎゃああああああああ!!!!??」
バタバタと慌てながら急いで後ずさる。
「ななな、なんで、おまっ、お前!?」
「やれやれ、さっきまで半死人だったくせして騒ぎやがって。ともかく元気そうだな」
俺はおもむろに立ち上がって体を伸ばした。
「んじゃ、そろそろ帰るか。あ、手元の血ィ拭いとけよ」
「血?」
ビチャッ
手動かすと水が跳ねたような音がした。
そのまま手を動かすと、コツンと何かが当たった。
ヨルデは、恐る恐る手の方を見た。
「………」
目の前にあったのは、一面の血だまりと、何かの生物の骨だ。
「うぎゃあああああああ!!!!!」
「ウルセェなー。騒ぐなボケ」
俺はヨルデの頭を殴った。
「安心しろ、人じゃない。魔石化解除されたモンスターの死骸だ」
魔石化解除
モンスターは絶命すると体が消え、魔石に変化する。
しかし、魔力を加えると、それに反応し魔石からモンスターの死骸が出て来る。
魔石の使い道は基本的に魔力源として使うか、死骸にして素材を剥ぐかのどちらかだ。
「うっ………どう言う事だ………何も覚えていないぞ………」
「やっぱ覚えてないか。おい」
「何だよ」
「ここで何があったのか説明してやる。今度は騒ぐなよ」
俺はここで何があったのか、知っている事を事細かに教えた。
「な………!」
「言っとくがこれは事実だ。現に数日前から記憶がないだろ」
さっきまでの症状から見て遠隔操作されて4日半くらい経っている。
そこからの意識はない筈だ。
「確かに覚えてない………あ、あいつらは!」
「取り巻きは知らん。お前を見つけた時、既にお前1人だったからな」
焦ったような表情を見せるヨルデ。
「ほー、お前に人を心配するほどの人情があるとはな」
「当たり前だ! 親父と兄貴に勘当されてからずっと一緒にいるんだぞ………あ」
しまった、と言葉が詰まるヨルデ。
「勘当?」
「………親父と兄貴が気に入らないから出て行ってやったんだよ。俺様はあんなのに頼らずとも1人でやっていけるからな!」
なるほど、あのゴミとは関係を切っているのか。
「この前俺が誰だかわかってんのかーって言ってたよな、お前?」
「ぐっ………そ、それは利用してやっただけだ!」
なんか哀れになっていたな。
俺はいかにも可哀想だなーと言うのを丸出しの顔でヨルデを見た。
「おい貴様ッ! その顔やめろ!」
「勘当ねぇ………ま、よかったんじゃね? お前ン家この前俺が潰したからな」
「………は?」
「ヨルドだったっけか。ラクルでそいつがこの前俺と一緒にいた女の子奴隷にして痛めつけていたのが気に食わなかったからトラウマ植え付けて家を没落させてやったんだよ。あっはっは」
「マジかよ!?」
あれ、怒らない?
「あ? 怒らねーってことはお前マジで捨てられたのか?」
「捨てられたって言うな! この俺が捨ててやったんだ! それにしても潰れたか………うん、いいな。スッキリした」
ヨルデは清々しそうな顔をした。
「あっ、そうだ! こんなとこで油売ってる暇はない。あいつらを………」
「「アニキ!」」
「!」
岩の下の方で声が聞こえた。
俺たちは、下を覗き込んだ。
「イースト! アルンド!」
手に持ってるのは魔法具か?
なるほど、だからこんな奥まで入ってこられたんだな。
「うお!」
俺はヨルデの首根っこを掴んだ。
「何するんだ!」
「メイ」
「はい」
俺はメイを抱えて、ヨルデの首根っこを掴んだまま、
「ちょい、何考えてんだ。おい………止せ、やめろ」
「よっと」
飛び降りた。
「止せえええええええ!!!!!」
「「アニキいいいい!!!!」」
俺は悲鳴を無視して飛び降り、着地すると、バタバタ暴れているヨルデをポイっと投げた。
「ぐほっ!」
「「あ、アニキ………ぐはっ!」」
俺はとりあえず全員気絶させた。
騒がしかったのが一気に静かになった。
「これで静かになった!」
「あの………明らかに余計な一撃入ってますよね」
首トンの前に、コブができるくらい殴った。
「ちょっとした仕返しだ。よし、帰ろう。今回の件をおっさんに報告しねーとだろ? 俺は俺でリフィたちに言っておかないとだし。だから早く帰ろうぜ」
「そうですね。じゃあ、お願いします」
俺は全員を抱えてフェルナンキアに帰った。




