第1028話
「領主の嘘………?」
地下に潜ったことが正解だったことはわかった。
この女も領主を敵視している以上、敵の敵は味方ということになるが、やはりいまいち目標がわからない。
「疫病に、何か嘘があるのか?」
「何かじゃない………です。疫病そのものが嘘………なんです」
「っ——————」
これはまた、穏やかじゃない。
里の民全員が信じて疑わない恐怖の疫病。
疫病そのものが嘘であるのならば、一体イーボの妹は、武器屋の店主の妻は、何故隔離されたのかという話になる。
「………やっぱり行き………ましょう。あの扉の奥に。そうすれば、すぐにわかるはず………です」
女は頑丈そうなとじらを指さしてそう言った。
………前々から思っていたが、ネームレス相手に話すときは、呼び方がないと少し不便だ。
「なぁ」
「はい?」
「なんて呼べばいい? 決まってる暫定の通り名とかねーのか?」
一瞬固まる女エルフ。
それは思考停止や考慮中というより、何故そんな事を聞かれているのかわからないと言った様子であった。
「ネームレスは、持っている武器の名前や特色になる色などの組み合わせで呼ばれ………ます。被りが出た時は、後からネームレスとなった方に数字を付け足し、以後それを名乗り続け………ます。“ホワイトネーム” 知らないの………ですか?」
「悪いね。色々無知なもんで」
酷い話だ。
だが、今はこれで呼ぶ以外に他ない。
この偽りの名が、今の彼女の名前なのだ。
「被りは見たことが………ありません。だから、G・Rって、呼ばれて………ます。じゃあ、行きましょう」
なんかちょっと違う気もするが、まぁいいだろう。
「あ、いやちょっと待ってくれ」
「?」
もうかれこれ2時間以上経過している。
そろそろ領主のところに行かなければ間に合わないだろう。
「俺たち、一応疫病の調査を依頼された体でここに来てんだよ。そんで、この後すぐ領主のところに行かなくちゃいけないんだ。悪ィけど、扉の奥に行くのはその後でいいか?」
「………だったら、明日地図の印のある場所に来て………下さい」
G・Rは、メモと里の簡単なマップを渡してきた。
えらく準備がいい。
まぁ、貰えるものは貰っておこう。
「それでは皆さん、また明日………です」
G・Rはそう言って、てくてくと何処かへと帰っていった。
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「………………む! ギリギリだッピよ!!」
「だったらいいだろ別に」
指定時間数十秒前、なんとか現地に到着した。
警備兵にバレないよう、色々と家に細工をしていたら時間がかかってしまったのだ。
ちなみに、5分前出勤とかクソ喰らえと思っているので、一切悪びれるつもりはない。
そもそも不良に遅刻厳禁を求めるなと言いたい。
「お前ら何してたんだ?」
「色々………………てかお前………マジで寝てたのか。髪が………」
コウヤは裏で色々とやっているのかと思ったら、宣言通り何処かで寝ていたようだ。
「うお!? ヤベェ………ちょっとセットして来る」
「大丈夫かあいつ………」
慌ただしいのはいつも通りで、安心と言えば安心だ。
「あ!! そうだった………」
ため息混じりに思わず苦笑してしまう。
忙しい奴だ………と思ったら、トントンと人差し指で耳を叩きながらこちらに来ている。
耳を貸せとの事だ。
一体なんだろうと思いながらコウヤに耳を向けると、スッと表情が変わるのを見た。
すると、
「念じてウィンドウを出せ。変わってる。内容はわからん」
「!!」
と、トーンの低い声でそう言われた。
その後すぐさまウインドウを出現させ、じっと画面を見つめる。
そこには確かに、先刻表示されたミッションの表示画面から大きく変わったものが表示されていた。
「………………なんだ?」
↓
『87:64』
特にこれという説明がある訳でもなく表示された謎の数字。
確かにこれではわからない。
………とりあえず保留だ。
そろそろ時間になる。
確か、領主との対面前に、疫病患者を見に行く話だった。
「そういやルージュリアは?」
「先に行ってるッピよ。どうも個人的に用事があったらしいッピ」
一応リンフィア達にも目配せをしてみるが、心当たりはないらしく首を振られた。
「んんん………まぁいいか。んで、その病人がいる施設とやらはどこにあンの?」
「屋敷だッピ」
………ん? と。
思わず首を傾げた。
「知らないッピか? 領主様は、疫病患者を自分の屋敷に隔離して治療を行なっているんだッピよ。すごい事だと思わないッピか?」
ギルマスは感動している様子だ。
しかし、俺は感動というより疑念と驚愕を覚えていた。
怪我ならわかるが、ここで蔓延しているのは疫病であり、行なっているのは隔離だ。
感染、流行を阻止するための隔離なのに、自分の家をその施設にして、自分自身は拠点として使っている。
これをどう取るべきか。
「まぁ、行けばわかるか」
百聞は一見にしかず。
本人を直接見て、疫病の状態を調べた後に判断しよう。




