第1026話
ミレアをエルに乗せて地下まで降った。
警戒のため、改めてあたりを調べてみるが、やはり人の気配はなく気づかれた様子もない。
侵入は成功したと言っていいだろう。
「第一段階クリアってことか。警備が入ってこないといいんだけどな」
と言いつつも、実はそこまで心配はしていない。
入り口の埃やゴミの感じからして、多分入ってくる事はないだろう。
警備の目的は、多分ここにはないだろうから。
まぁ、まだハッキリはしないのは気になるところだが、とりあえず今は、この洞穴の事を考えよう。
「明らかに人工的………ですよね」
リンフィアは、部屋に備え付けられている証明を見てそう言った。
それに関しては間違いないだろう。
元に、今足元にある更なる地下への窓を覗き込んだ感じ、かなり暗いが梯子と廊下が出来ている。
かなりしっかりした構造だ。
「急拵えだが、想像以上にちゃんとしてる。こりゃ奥が楽しみだ」
下の梯子に続いている窓を開き、知る力で周囲を探知。
反応はない。
少なくとも、今なら降りても大丈夫そうだ。
「気配はないし、この下の廊下はいくらか隠れられる場所がありそうだ。行ってみようぜ」
「「はい」」
頭から突っ込んで梯子に手をかけ、音が鳴らないようそーっと降りていく。
然程長くない梯子からはすぐに頭が出そうになり、ギリギリのところで一度止まった。
そして、ゆっくりと顔をだし、灯りや気配がないのを確認すると、一番下まで少し急ぎ気味で降りた。
セーフ。
と、ほっと一息ついて顔を上げると、灯りがなく真っ暗だが、廊下の全貌がよく見えていた。
「なるほど。一本道か」
逃げ場のない一本道。
しかも、かなり長い。
繋がっている部屋も少なく、人もあまりいない。
用途不明。
ますます謎のトンネルだ。
「人いねーし大丈夫か………」
“知る力” で再度確認したが、人はいない。
俺は音魔法で地面の音を封じ、合図を出して2人に飛んで貰った。
「っ、お、とと」
「っと」
誰もいない。
ここにくる様子もない。
セーフという事にしておこう。
さて、ここからが問題だ。
「ミレア、見えるか?」
「………………いえ、全く」
地下は灯りが一切なかった。
恐らく、自分でつけて歩かなければならないのだろう。
「仕方ないか………口閉じてろよ」
「え、ふぁ………ぁ」
このままではまともに進めないので、ミレアは抱えて歩く事にした。
「よし………………ん? どしたリフィ」
「………………………………何も! いきましょう」
“も” が強かったぞ。
“も” が。
………とりあえず、だ。
行き先を決めておこう。
前後に広がるだだっ広い一本道。
別の道は見た感じ二つ。
中心で左右に分かれているので、ここは巨大な十字路というわけだ。
廊下には誰もいない。
灯りは自分持ちのようなので、人が来てもよほど明るくされなければバレる事はないだろう。
見あたる扉は、前に5つ、後ろにはない。
天井に窓はあるが、それは恐らく今のようにゴーレム操作用の部屋に繋がっているだけであろう。
廊下の距離からして、恐らく領主の邸宅の真下を通って里の反対側まで繋がっている。
そして、あからさまにひとつだけ、頑丈そうなドアがそこにあった。
「とりあえず、あの奥の方の頑丈そうな扉に——————」
カツン——————と。
「「「ッ——————」」」
思わず声をとっさに抑えるほど、明らかな足音。
それは、曲がり角から突然現れた。
かなり奥だが、灯りが見える。
先ほど見た十字路の左から人がやってきたのだ。
「「「………」」」
大丈夫と言いつつも、言い表せない緊張が一瞬にして走った。
咄嗟に俺の袖を掴んだリンフィアの手から、焦りが伝わってくる。
マズい。
敵であれば一撃で仕留めるが、悪人でなければとんだ巻き込み行為だ。
それだけはしたくない。
「………………?」
溢れ出た選択肢への思考を散らすように、とある思考が俺の頭に居座った。
いや、待てよ、と。
ふと、ある事を思い出した。
そうだ、おかしい。
足音は確かに聞こえた。
だが、大きな一歩目が突然聞こえるのは明らかに変だ。
まるで、こちらに気づいているかのような——————
「………ミレア。“目” を使って奴をちょっと見てくれねーか?」
「目………………わかりました」
何故かそこから一歩も動かない謎の人物。
ミレアは、妖精王の力を使い、その人物の内にある感情を解読し始めた。
すると、
「………………恐怖………それと、期待………? 敵意は………ありません………!?」
「!」
もしかしたら、と。
期待を抱く。
この際だ。
今は真上が出入り口となっている。
いざとなれば、そこから抜け出せばいい。
だったら、あえて思い切った行動に出てみよう。
「………一応、2人ともフードをかぶってろ」
俺はフードを2人に渡し、顔を隠させた直後、神の知恵を使った。
蘇る魔法の知識。
脳は魔法式を瞬時に構築し、無駄なく魔法を完成させた。
準備は万端。
手に集めた魔力を放てばいい。
距離は相当あるが、これで足りるだろう。
「よし………………いくぞ」
そして俺は、光魔法を放ち、洞窟内を一気に明るくした。
「「「!?」」」
突然のことに驚くリンフィア達と、例の謎の人物。
かなり遠くだが、俺の目は捉えている。
視線の先、先ほどうっすら灯りが見えていたその場所に立っていたのは、エルフの女であった。




