第1025話
「こんなところに隠し部屋が………よく見つけましたね」
部屋を発見した俺は、一先ずミレアたちを読んでから穴を掘る事にした。
結局なんだかんだで1時間以上はかかったのだ。
あまり残り時間があるわけでもない。
だからなるべく早く掘る必要があるのだ。
「でも、掘るだけならケンくんだけでもパーっと出来るんじゃないですか?」
「残念ながらパーっとは無理だな。なるべく警備兵にもバレたくないから、音も魔力も出したくない。まぁ音は音魔法で防音できるし、抑えれば魔力バレはしないけど、この深さを魔法で掘るとなると確実に探知される。だからお前を呼んだんだよ、リフィ」
「私?」
ピンときていないのか、キョトンとした顔をしている。
しかし、意味はすぐに伝わった。
「ああ。俺も含めた3人の中で1番お前が適任だ。静かにできるし、そもそも普通のやつはお前の力の探知すら出来ないんだからな」
「あ!! ………そうだ………アシッドスライムなら」
その後は、リンフィアは説明を聞くこともなく、ここだと俺が刺した場所の真前まで来て地面を見た。
上着を脱ぎ、最近買った肩から肩甲骨にかけて大きく露出した格好になった。
「………あんま外でその格好しない方がいいな」
妙な奴がよってきそうだ。
「言わないで下さいよ………私だって恥ずかしいんですから。横ちょっと胸も見えてるし………」
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッ………!!!!」
マズい。
ミレアの地雷を踏んでいた。
血の涙を流している。
「さ、さて! 早速地面を溶かしてしまいましょうか!」
アセアセと地面に手を置くリンフィア。
焦っている。
わかる。
こうなった時のミレアはマジで怖い。
地雷とはよく言ったものだ。
が、
「………………ッ——————」
カチリとスイッチの切り替わった機械のように、表情が変わる。
瞳の色が変わるにつれ、腕が紫色に変色していく。
次第に奥が透けて見える頃、半液状となった腕は、ポタポタと雫を垂れ流していた。
すると、
「………ごめんなさい。壊させてもらいます」
その雫は………腕は、煙をあげ、その物質を飲み込んでいった。
まるで食事をするように、取り込んだ物体を溶かし、消化するように消し去っていく。
そう。
これはアシッドスライムというモンスターの食事を腕で行っているのだ。
このモンスターは、ある一定以下の硬度の無機物を、ほぼノータイムで消化し、吸収する。
硬いものや生物は体質に合わないらしく、ノータイムとはいかないが、じっくり侵食しつつ最終的には溶かしていく。
ただ、魔力にはめっぽう弱く、一切吸収も侵食もができない。
そのためアシッドスライムは魔力で全身を包めば、一切ダメージを追う事なく倒せる上に切り放題なので、情弱小スライムとして扱われている。
その反面、ゴミなどの処理にはもってこいなので、よくテイムされている人気のモンスターでもある。
………まぁ、人間だけを溶かせるので、わかりやすい悪用法があるため、犯罪にも使われる。
皆まではいうまい。
と、気がつくとあっという間に10m近く掘っていた。
土や砂利は敵じゃないという事だ。
「おー、いいペース。おーい、天井が見えるまで掘ったら一旦報告頼む!」
「はーい」
この場においてできる事はないので、とりあえず上で喋っておく事にする。
「はぁ。もうこの時点でここ何回かの異界童話よりも手間だな」
「しかも今回は妙な条件付きですしね。バッドエンドの回避………っただかしら? 原作となっている童話はそのバッドエンドでしたよね」
「ああ」
コウヤの言う通り、“嘘をつく子供” の内容を、リンフィア達は把握していた。
今回はこれまでのミッション以上に、原作を知る必要がある。
バッドエンドの回避………
あの童話は、日頃から嘘をついている子供が、狼の大群が迫っている故郷の村を守るために、それを報告しようとしたが、誰にも信じてもらえず、村が全滅したという救いのない話だ。
要は俺たちは“子供”なのだろう。
だから、嘘をついてはいけない。
しかし、それは裏を返すと、嘘が必要となるシナリオを順次向こう管理者たちが準備してくるわけだ。
気は抜けない。
「全滅か。これが病人の全滅ってンならマジで笑えねー………やっぱ野郎はいずれ潰さねェとだな」
「ええ。生物迷宮のお婆さんやラビちゃんのためにも、管理者カラサワ・エイトに勝てるようにならないと」
目標を、改めて口にする。
目の覚めるような気分だ。
目標があれば、進む方角くらいは見失わない。
これは、見失ってはいけない。
灯台の火を絶やさないように、俺たちは進まなければならない。
「………俺も強くならねーと」
「! ………何気にケン君が向上を目指しているのは初めてかもしれんませんね」
「バカヤローお前ミレア。お前バカヤローか。俺はいつだって強くなろうと頑張ってんだぞ。夜中こっそり抜けて修行しているこの慎ましやかさがわからんのかオメー」
何やかんやで雑談を弾ませる。
ちょっとしたひとときだが、これはこれで悪くない時間だ。
——————
そして、
「ん?」
コツ、コツ、と音が聞こえる。
穴の下から、リンフィアが天井を目掛けて小石を投げているようだ。
大声を出さないようにするための一工夫ということらしい。
「ちょっと先降りるから、合図したら飛び降りろ。あと、さっき作ったこの布を被せとけ」
俺は床の色と同じようにして作った布をミレアに渡し、狭い穴の奥に降りた。
壁をうまく使いながら、剥き出しの天井に衝撃を与えないようにそーっと降りて………
「………っ、と。到着」
もうかなり暗い。
が、夜目の利くリンフィアと、知る力で暗闇でも見通せる俺の目にはしっかりとあたりの様子が映っていた。
「多分ここです。人はいません」
「ああ、お疲れさん。ありがとな」
「いえ。便利なものは使わないとですから」
有能な相棒を持って幸せだよ俺は。
さて、まずは音魔法で音を消していく。
僅かな魔力で済むよううまく調整し、そして少し狭いが生物迷宮の老婆からもらった剣を取り出し、地面に向けて構える。
少し失礼して………
「よっ………と」
地面をくり抜いた瞬間、ガクンッ………と。
地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
天井の一部が地面位落ち、足場から小さな光が漏れてくる。
薄暗い灯りが見えたその時、次第にその部屋は全貌を明らかにしていった。
「………これは——————」
そこは、木の椅子と簡易的なベッドにテーブルしかない殺風景な部屋であった。
部屋の高さは、およそ5m。
くり抜いた一部は天井はすぐに地面に落ち、ドスン………と言う音はかき消されたまま、俺たちは着地に成功した。
「地下到達………ってわけだ。さて、どうなってんのかねェ」
謎の地下施設。
その探索が間も無く開始される。




