第103話
「やっぱり魔法じゃねーな」
拘束されながらも暴れているヨルデを抑えながら観察したが、魔法による効果ではないと言うことがわかった。
この眼………これは何だ?
明らかに普通じゃないこの黒い眼。
何かの状態異常なのは明らかだが、まだこれが洗脳なのかもわからない。
俺は、とりあえずヨルデを鑑定してみた。
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ヨルデ
人間・【遠隔操作】
HP:2000
MP:3000
攻撃力:1500
守備力:1000
機動力:1300
運:10
スキル:《スキルは消滅しました》
アビリティ:《アビリティは消滅しました》
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「遠隔操作………それに消滅………まさか」
神の知恵にこの状態に該当する現象はあった。
しかし、これは、
「仮死状態にさせられてるな………」
人間の遠隔操作は可能だ。
その場合、ステータスは下がり、スキルもいくつか使用不可能になる。
しかし、これの上位に当たる固有スキルはある。
スキル名【死神】
その能力の一つに、スキルを引き換えにし、仮死状態にする事によって、ステータスを飛躍的に上げ、操作可能にするものが存在する。
スキルは失うものの、使用者が使えるスキルや魔法が遠隔発動できる。
魔力を使った細かい作業はできなくなり、動きにムラが出るペナルティがつくが、複数人操作も可能だ。
しかし、仮死状態が長く続けば、それはまぎれもない死となる。
操られ、疲れ果てて、行き場を無くした魂を狩る。
正に死神。
このスキルはSSSのスキル、つまり琴葉や蓮と同等の高性能スキルだ。
「………メイ」
「はい?」
「今から少しキツイ質問をする。出来るなら答えてくれ」
「!」
俺の話し方から緊迫した状況を読み取ったのか、メイは表情が引き締まった。
「わかりました………!」
覚悟を決めてくれたらしい。
では、
「お前の親父さんの意識は、途切れて以降戻ってないか?」
「………いえ、戻っていなかったです」
「………そうか」
これで確定した。
「こいつをこうした奴、お前の親父さんを操った奴と同一人物だ」
俺は激しく感情を表に出すだろうと思っていた。
だが、違った。
メイは怒っているとも驚いているともつかない微妙な表情をした。
「そう………ですか」
「………」
「………」
数秒の沈黙。
それを破ったのは、俺でもなく、メイでもなく、
「ごぉおおおおろおおおおずうううううううううぅあああああ!!!!」
「!」
再び様子が変わるヨルデだった。
「進行が進んでる! ケンくん!」
「ああ!」
考えろ。
固有スキルは確かに特殊な力だ。
だが、何かあるはずだ。
固有スキルの特徴。
それは、動力源が魔力ではないこと。
魔法は、魔力と言うエネルギーに命令を加え起きる一種の現象だ。
しかし、固有スキルは、別だ。
あれは、動力がない。
無から有が生まれる。
つまり魔法のように魔力から干渉は出来ない。
「魔力からの干渉は不可能………かと言って肉体へ直接的に干渉するのは………ダメだ、負担がデケェ」
死体に下手に手を加えるとかなり厄介だ。
何か手は………待てよ?
じっとヨルデを観察する。
やはり、本当に見逃すほど僅かだが、理性がある。
それに、さっきはこっちに向かって殺す、と言った。
恐らく、スキルにどこか綻びがあったのだ。
ならばどうするか。
「………上書き」
固有スキルの特徴はまだある。
それは、本人以外は解除できないと言うことだ。
例えば、風魔法に飛行の魔法がある。
その魔法の発動中におかしな魔力を送り、魔力を乱し、コントロール出来なくすると飛行できなくなる。
固有スキルの場合はいかなる干渉も受けない。
他にも魔法と違い様々な効果もあり、その中に効力の持続力の違いがある。
固有スキルの持続力は最悪使用者が死んでも効力が続くほど高い。
しかし、この例で言うなら、重力魔法をかけたら、沈ませられる、と言った具合に何かで被せれば効果は消える。
雑魚相手だから手を抜いたか、まだ未熟なのか、理由はわからないが、綻びのある今なら介入出来る。
そう、強い魔法で被せられれば、
「行くぜ………」
被せるなら同じ場所に干渉できる魔法だ。
ならば、光魔法を使う。
光三級魔法の【ルミナスイリュージョン】、その上位魔法に光の幻術系の一級魔法がある。
「効いてくれよ………!」
俺は光一級魔法【幻夢ノ世界】を発動。
すると、俺とヨルデの周辺の空間が変化する。
灼熱の火山から熱気が消え、周りも岩ではなく、殺風景な白い壁と床に包まれた何もない空間になった。
これは、その場の空間が変化したのではなく、擬似的に作られた空間に意識を閉じ込める魔法だ。
イメージはもちろん、ここに召喚される前に行った何もない空間だ。
「今から命令する」
この空間では何でもありだ。
何もない場所から石やら剣やら城やら何でも出現させられるし、この空間を、灼熱の空間にしたり、極寒の空間にすることも可能。
そう言うのを駆使して精神攻撃を与える魔法だ。
ただし、複雑になればなるほど、魔力の使用量と、頭痛が酷くなっていく。
俺は結構耐えられるので、この魔法で廃人を量産出来るが、流石にしない。
今回はこれで催眠をかける。
「お前には最初から固有スキルはかかっていなかった。それだけをイメージし続けろ」
この中では、ヨルデは薄っすらと意識がある。
俺はひたすらそれを刷り込ませた。
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「ふぅ………」
魔法の効力が切れ、意識を本体に戻した。
「終わりですか?」
「ああ、ギリギリ助かったぜ」
メイはヨルデを見てみた。
眠っているヨルデの瞼を開いた。
「本当だ、目が元に戻ってる」
万全とは言えないが、遠隔操作は完全に無くせた。
とりあえず、これで終わりだ。
「あー、疲れた」




