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第1020話



 「あー、やっと出られた………」




 ぐぐぐと背筋を伸ばすニール。


 大して長い間閉じ込められたわけではなかったが、緊迫した状況で動かずに見ていたせいで、どっと疲れを感じていた。




 「全くここの主も無茶をするものだな。一歩違えば肉の塊になってたぞ」


 「こわいこというなよ。ワタシがいちばんドキドキしたんだぞ」




 平然と続く会話。

 謎の声の主も、猪も、呆気に取られたように2人を見ていた。


 膝をつかせるなんていうのは予想の範囲外。

 まして眼球を潰すなんて思っても見なかっただろう。



 正に規格外。

 空前の逸材である。




 「おい。つぎはどうするんだ? うえにいけばいいのか?」


 『え………ああ、いえ。何もしなくて大丈夫です。すぐそちらに向かいますから』


 「向かうって………ぉ、お!?」




 突然視界が歪み、景色が様変わりし始めた。

 闘技場のような内観が少しずつ変わっていき、歪みの中央から元の神殿らしい石畳の内観に戻っていった。



 そして、中央にはやはり光る何かが残っている。

 ラビはその光から、ふと何かの気配を感じた。




 「なるほど。そこからでてくるわけか」




 光は次第に強くなり、突然視界を全て塗り潰す程の光を放った。

 あやふやだった気配が、その瞬間にはっきりと感じ取れるようになった。



 異様なまでのその気配。

 間違いないと、ラビは確信した。



 そうして、光を晴れた先に現れたのは——————





 「……………あれ………」




 目の前には、誰もいない。

 しかし、ニールとラビは、真後ろから凄まじい気配を感じ、慌てて振り向いた。


 そして、ようやく謎の声の主の姿を拝む事が出来た。




 「お初にお目にかかります、我らが王」



 感じていた気配が外に出たわけがすぐにわかった。

 それはそうだ。


 あれでは入りきらない。



 大空を舞う、燃え盛る身体と、吸い寄せられるような煌めきを放つ巨大な翼。

 この浮遊島をゆうに超える翼ではばたくたびに、凄まじい熱風が宙を舞っていた。



 当然、こんな神殿に収まるわけがなかった。



 大きさも、存在感も、何より内側から感じる圧倒的な強さも、全てが強大。

 不死鳥などという大それた名前にも、どこか納得がいく雄大さであった。




 「五色獣が一角。フェニックスのフレムと申します。どうぞお見知り置きを」





 五色獣。

 それは、この世界では伝説とされる有名な5つの獣が持つ名前だ。



 赤を司るフェニックス。


 青を司るバハムート。


 緑を司るケツァルコアトル。


 黒を司るケルベロス。


 白を司るペガサス。



 決して人には到達できぬ高みに存在すると言われ、国によっては存在否定すらされている生物。

 つまり、歴史から抹消された生物なのだ。





 ——————生物迷宮同様に。






 そう、同じなのだ。


 そして、彼らはラビを王と呼んでいる。

 これまでのことから、彼ら五色獣と生物迷宮になんらかの関係があることは明白であった。





 「………バハムートの………エルのおかあさんのフェルドーラもいっていた。ワタシが王………なのか?」





 一年以上前。

 エルと出会った頃に同じくであったファルドーラ。

 今は亡き彼女は、亡くなる寸前、確かにラビ達生物迷宮を主人とするようなことを仄めかす発言をしていたのだ。





 「ファルドーラ………懐かしい名です。唯一外界に出たきり音沙汰無かった彼女と出会っていたのですね。今彼女は………?」


 「………なくなった。むすめがワタシのししょうといっしょにようせいかいにはいってるよ」


 「!! そうですか………………しかし、奇しくもここ妖精界に全ての五色獣が集った………という事ですか」




 全て。

 それはつまり、




 「いるのか、ほかのやつも」


 「いるもなにも、これから貴女には、より王としての力を磨いてもらうために、浮遊島で力をつけ、頃合いを見て各神殿にいる全ての五色獣から、試練の証を集めてもらう………というのを繰り返してもらうつもりです」


 「ししょうのいってたゲームってやつみたいだな」



 そう。


 これはそのために作られたゲームのようなプログラムだ。

 浮遊島で雑魚を狩り、力をつけて神殿にいるボス代わりの五色獣から証を貰い、次に進んでまた力をつける。


 これからラビは、それを繰り返していくのだ。




 「ちなみに今の試練は入門ですので、証は無しです。本当の試練はこんなものではありませんよ」


 「おうさま………」




 話が大きくなってきた。

 まさか王を目指すのがミレアだけではなく自分もだとは夢にも思っていなかったのだ。


 


 「決して楽ではありませんが、貴女は………いえ、貴女達はすでに最低の条件を満たし、その先の段階まで来ています」


 「神威か」




 ニールの返事に“ええ”と返すフレム。

 ここに来て神威の訓練の思わぬボーナスが入った。




 「しかし、まだまだです。貴女達には、更なる神威の研鑽をしてもらい、より強くなって貰います。この場所は、そのための場所。王になるために必要な、神の力をより強く、巧く使えるよう磨いていくのです」




 私もか、と言いながら、ニールはどこか楽しそうにしていた。


 ニールは元々こういうのは嫌いではない。

 それどころか、五色獣という強大な試練を前にして、楽しみすら覚えていた。


 何せこれは、これはニールにとっても力をつけるいい機会なのだから。




 「神の力を磨き、王になれば“奴”に変えられたこの国を元に戻せる筈です。そしてそれは、貴女にとっても重要な事であるはずですよ」


 「ワタシ?」


 「ええ。目を閉じて見てください。貴女が倒すべき敵が、そこにいますから」




 フレムの助言に従い、ラビは目を瞑った。

 すると、









 「         」










 何かを見たラビの様子は、すぐ様一変した。

 額に浮かぶ青筋。



 早期されるのは、力を失い、自責の念と共に悶える母の姿。


 植え付けられた大好きな生みの親が見せた、決して見たくないその姿を、ラビは忘れられずにいた。




 そう。

 力を半分無理に奪われて、無事なはずがなかった。


 ラビを産んでしばらくは、不意に訪れる激痛に恐怖し、誰もいない場所では奪われたことに対する後悔でいつも涙を流していた。





 だから、忘れるわけもない。

 今まぶたの裏で見えている、あの男の姿を。



 仇敵である、あの黒髪の男——————この国の現管理者・カラサワ エイトの姿を。





 「やはり、知っているのですね………………母から受け継いだ知識に、彼の記憶が残っていたのでしょう。であれば、もう分かりますね」




 フェニックスは、階段の上を見つめ、ラビ達に向けてこう言った。




 「登りなさい。そして高みを目指すのです。母の無念を晴らすためでも、一族の使命を果たすためでも、どちらでも構いません。王になり、あの男を倒すのです。これは、そのための試練なのだから」


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