第1016話
ラビ達は、猪の先導で何処かへと向かっていた。
真っ直ぐに森を進んでいるのだが、どこへ向かっているのかは検討もつかない。
ニールは念のためだと警戒をしつつ、猪についていっていた。
そして、ラビはというと、
「わるいね。のっけてもらって」
猪と打ち解けて上に乗せてもらっていた。
「いえ、貴女は大人同様の知識を得ているとはいえまだ子供ブフ。その上白紙化によってステータス大きく低下してしまっているのですから、こういう時はおいらに任せて下さいブフ」
「うはは、いいやつだなおまえ。じゃあ、ニールねえとおまえにこれからもたよらせてもらうぞ」
正直、ここ数日の散策でも、猪を追いかけている時も、ラビはニールにおぶって貰っている場面は多々あった。
こればかりはどうしようもない。
力を失ってしまったのだから。
と、思っているラビは、ふと今猪が言った言葉の中に聞き覚えのないものがあったことを思い出していた。
「なーなー、“はくしか” ってなんだ?」
「この国は一度、管理者と呼ばれる存在によって何もかもリセットされたのです。それを妖精達は白紙化と呼んでいます。このせいで国にいたヒトは皆ステータスが一定値まで下がってしまい、成長の方法も鍛錬では無く経験値と呼ばれるものを得ることによって………」
「ああいや、その“けいけんち” とかのところはきいてる。そっか。リセット………」
ギュッと、猪の体の上に置いた手に、思わず力が入る。
全てをリセットする。
しかも国そのものを、だ。
それは、あまりにも途方もない能力。
あのケンですら、そこまで大それたことは出来ない。
それほどの力を持った存在の上にいる、漠然とした恐怖。
その正体の影すら見えない。
謎めいていて、あまりにも大きい。
「………?」
しかし、妙だとラビは自分でも思った。
何故、そこまで恐れる必要があるのか、と。
強大ではあるが、しかし敵というわけでもない。
謎めいてがいるが、しかし知る必要はない。
なのに、何故か気になって仕方がない。
その管理者が、一体何者なのか。
何を企んでいるのか。
「見えましたブフ」
「!」
と、言われたが、そこにはポツンと小さな祠しかなかった。
一見、たったこれだけかと思うが、ラビはその祠がなんなのか瞬時に理解した。
「いりぐちか」
「入口………ダンジョンか?」
ニールからの問いに頷くラビ。
そう、ここはダンジョンの入り口。
目的地というのは、ダンジョンであったのだ。
「おいらのご主人はここのダンジョンモンスターブフ。安心して良いブフよ。話は通じるブフから」
「話ねぇ………まるでエルみたいだな」
というのも、今ケンの使い魔をやっているエルは、ミラトニアのとあるダンジョンモンスターの子供………要は元々ダンジョンで生まれたモンスターだったのだ。
その母・ファルドーラからエルを託され、今は共に行動しているという訳だ。
こうなってくると、いよいよこの猪が生物迷宮と関わりがあることに信憑性が出てきた。
何せ、ファルドーラも生物迷宮を知っており、そして生物迷宮と縁のあるダンジョンモンスターだったのだから。
「その表情………なにかお察しになられた様子ブフね」
「ここにいるんだな。ワタシたちをあるじとよぶダンジョンモンスターが」
「………もう、何年待った事でしょうか。歴史から抹消され、姿を消し、そして絶滅の危機にされされた貴女がたを、ご主人達はずっとお待ちになられていたのですブフ」
これは、奇跡なのかもしれない。
生物迷宮最後の生き残りであるラビの母メイズ。
その彼女が、命を奪われそうになりつつも、必死に守った本当の生き残り。
それがラビだ。
そして今、生物迷宮を待ち続けた誰かが、この先に待っている。
歴史から失われ、その名前すら忘れられた生物迷宮を待つ者が、この先に。
「さぁ、どうぞ中へ。我が主人………………フェニックスのフレム様がお待ちですブフ」
「!………………うん」
フェニックス。
それは、フェンリルやバハムートと並ぶ、伝説のモンスター。
それがこの先にいる。
当然驚いている。
しかし、ラビの中ではその伝説と相見える驚きよりも、合わなくてはという使命感が優っていた。
母の力を奪った仇敵について何かがわかるかもしれないという期待と緊張を混ぜ合わせたような表情のラビは、そっとその祠に手を触れた。
そして——————
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ラビにとっても、ニールにとってもいい加減慣れたダンジョンへの侵入。
眼前に広がる景色は一瞬べ別のものへと塗りつぶされ、瞬く間に別世界へと入り込む。
もうこれが始めてというわけでもない。
今更新鮮さはない。
しかし、
「うぉ………お」
そのダンジョンは、これまで入ったどのダンジョンよりも巨大で、異質なダンジョンであった。
洞窟ではない。
全てが剥き出しになっている天空の神殿。
息をすることを忘れるほど神々しい景色だが、それ以上に肌に突き刺さるように感じる圧倒的な魔力。
ゴールは見えているが、そこまでは果てしなく遠かった。
距離もそうだが、何より “力” が圧倒的なまでに足りていなかった。
『そう。この最下層が今の貴女のライン』
「!!」
突然聞こえた声に、ビクッと身体を跳ねさせるニールとラビ。
2人はキョロキョロとあたりを見回すが、それらしい姿は見当たらなかった。
『ここはダンジョン。多くを語らずとも、するべきことはわかるでしょう?』
「「!」」
なるほど、と。
ニールもラビも、小さく笑みを浮かべた。
問答無用の始まり。
しかし、それは何らおかしいことはない。
ここは戦いの場であり、多くの者達が、何かを得るために訪れる場所。
つまり、知りたかったら登ってこいという事だ。
「最初の報酬は、自己紹介と歓迎ってことか」
「じょうとうだ」
動じることはない。
これまで幾度となく超えてきた死線を思えば、こんなものに動じている場合ではないのだ。
意気込みは十分。
覚悟も決まった。
この先に待つものを確かめるために、2人はダンジョンの攻略を開始した。




