第102話
「暑い………」
今、俺たちは火口の中にいる。
火口なんて来た事なかったが、想像以上に暑い。
「あれ使うか………」
俺は氷四級魔法【クールカーテン】を使った。
これは【ウォームカーテン】と対になる魔法で、範囲内の気温を一定以上に下げる魔法だ。
入ってきた熱風も、冷風へと変化する。
「あ〜、涼しいです。ありがとうございます」
「おう」
暑さ問題はこれで解決だ。
「ヨルデさんはこの先にいるんですよね?」
「ほぼ間違いない。あのちびっ子どもが嘘ついてなけりゃな。それは無いと思うが」
人の気配はする。
しかし、妙な点が一つ。
「いつも居るはずの取り巻き連中の気配はないんだよなぁ」
「取り巻き?」
「あいつの側にいっつも付いて回ってる取り巻きが2人居るはずなんだが、捕獲しても無ければ、ここに居る気配もない」
ただ単に今回だけ一緒に居ないだけなのだろうか。
俺はどうしてもそうは思えなかった。
嫌な予感がする。
「あと少しだ。ここを抜けたら居るはずだ」
「はい」
今いるのは、少し進んだ洞窟の中だ。
もちろん人はいない。
数分後
「ふぅ、やっと着いた」
「この魔法がなかったら火だるまになっていましたね」
「俺は多分平気だけどな」
徐々にHPが削られるだろうが、多分生き残れる。
「本当に人間離れしていますね」
「まーな」
自分で言うのもなんだが、確かに人間離れしていると思う。
この世界に来る前の自分と比べればもう明らかである。
「この上にいる」
「この岩の上ですか?」
洞窟を抜けた場所には、巨大な岩があった。
縦長の山のような岩だ。
「なかなか大きな岩ですね」
「そうだな」
ロッククライミングするか。
そう思って横を向くと、
「では、お願いします」
抱えろと言わんばかりに手を広げていた。
「お? どういう風の吹き回しだ?」
「これで終わりなんでしょう? だったら早くしましょう。さぁ」
「オッケー」
俺はメイを抱えた。
「せー、のッ!」
ブオォン! と大きな音を鳴らしながら上空を飛んでいく。
天辺まで辿り着くと、
「居た!」
間違いない。
ヨルデだ。
俺は着地して、メイを降ろした。
「彼は………」
「知ってるのか?」
「はい、何度か宿に来て騒いで居た人です」
なるほど、それはいい迷惑だ。
俺はヨルデへ近づいていった。
本当に洗脳されているのか、それともただの金儲けか。
真偽を確かめようとした。
「よォ、久し——————」
しかし、
「おい、テメェ………何、してンだッ!!!」
「??ぅ、あぇ?」
もう明らかだった。
手に握っているのは何かの骨らしきもの。
そして、口と手には、大量の血が付いて居た。
ヨルデはもう、完全に正気を失っていた。
「ぁ、ぁ、あああ、アアアアアアアアああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!!!!!!!」
そして、その声に呼応するように、周りから次々とモンスターが現れる。
「あ、あの眼は………まさか」
メイの顔がみるみる青ざめていく。
眼?
目を見てみると、真っ黒に変色している。
洗脳されているのは間違いないが、どの魔法にも、あんな異常が出るものはない。
「お父さんと、同じ………!」
「!?」
メイの父、ヴェルデウスは洗脳されたといって居た。
あの眼になって居たと言うことになる。
つまり、魔法以外の洗脳。
——————固有スキル
どうしてもこれ以外浮かばなかった。
しかし、今まで見たクラスメイトの中に、洗脳のスキル持ちはいなかった筈だ。
「まさか、俺たち以外に転移して来た奴がいるのか………?」
あり得ない話ではない。
神はトモ以外にも存在する。
「クッソ、今はあいつをどうにかしねーと!」
周りをモンスターが囲っている。
「ギュオオオオ!!!!」
「キュルルルルルル………」
「フシャアアアアアアア!!!!」
「キュイイイイイイイイイ!!!!」
この辺りの魔力を利用したモンスタートラップだ。
モンスタートラップは魔石さえあれば、どこでも作れる。
トラップに使う魔石に、その土地の魔力を吸わせれば強化も可能。
「ケンくん! 危険ですよ!」
中にはAランクも多く混ざっており、数も大多数。
ダグラスクラスでも苦労するだろう。
しかし、
「邪魔だ失せろォォォオオオ!!!!」
俺は別だ。
俺は水一級魔法【激流ノ天災】を発動。
そして連発をした。
この魔法は水魔法の最高威力を誇る魔法の一つで、あらゆる方向から圧縮され、うねりながら進む水の柱が敵を攻撃するという魔法だ。
広範囲、この威力。
文句なしの一級だ。
そして、あたりのモンスターを一掃した。
ヨルデだけはうまく避けてある。
「まず、こいつを元に戻さねーとな」
俺は、さっき魔族を拘束したように土魔法で閉じ込めている。
「戻るんでしょうか………」
「知らねーよ。やってみるしかねーだろーが」
俺達は、ヨルデの洗脳解除を始めた。