第1012話
あの後、すぐに現場に向かおうとしたが、ノームは何やら用が出来たらしく、外れる事になった。
元族長だった話など聞きたいところではあったが、いずれ時期が来れば話すとだけ言われ、そのまま去ってしまった。
というわけで、俺たちはノームを除いた全員で、急いで現場に向かった。
しかし、そこには例の二人組の姿はなく、冒険者とミレアとエル、それとルビィが残っていた。
「ミレア!」
「あ、ケン君」
見た感じ大きな怪我はない。
そもそも負傷者が殆どいないのを鑑みるに、敵は戦ったというよりは逃げていた様だ。
「お前らも無事だな。つっても、エルはまぁわかってたけど」
ともかく、味方うちに犠牲は出なかった。
とりあえず、一安心した。
「ゴーレム出現は阻止したみたいだな」
「ええ。ルージュリアとルビィがどうにか撃退してくれたので」
「げき………あ?」
ルージュリアの方を向くと、素知らぬ顔で明後日の方角を向いていた。
この女、いかにもミレアが危ないと言ったふうなことを言って騙しやがった。
………けれど、結果として俺は助かったのかもしれない。
族長………確実に格上である相手に挑まずに済んだのだから。
文句を言えた義理ではないだろう。
「………ただ、ゴーレムの核は持っていかれてしまいました。多分………また襲ってくると思います。彼ら、すごい形相で悔しそうに逃げていましたから」
ガージュが、“俺が死ねばレッドカーペットが消える” と言っていたので、恐らくその消滅に関する通知があったのだろう。
恐らく、連中もガージュに恩義のある者だったのだ。
「そちらも、戦いは終わった様ですね」
「一応、1人死んで1人は捕縛した。王候補を失った以上、事実上の壊滅だ。選別にはもう絡んでこないだろう」
その一言にハッとしたミレアは、やや硬い面持ちで頷いた。
復讐にはいずれ来るだろう。
その場合は、恐らく殺し合いだ。
多分、連中もそれを望んでいるし、ガージュと違って俺に殺せない理由はない。
ルビィが認めれば、俺の手でやるつもりだ。
「………」
肩の力が抜けていくのを感じる。
顔は見えないが、多分力が抜けているだろう。
騒動が終わり、剣を振る必要は無くなった。
ここはもう、戦場ではない。
そう思ってくると、ようやくはっきりと、終わりを実感し始めたのだった。
「………………顔色が優れませんね、ケン君」
「ルージュリア………」
どうやら、抜けたのは力だけではないらしい。
顔色は………きっと優れないのだろう。
少し、疲れた。
「………!」
そっと俺の頬に手を当てるルージュリア。
怪しい奴だが、やはり敵意は感じない。
それどころか、今触れているこの手のひらからは、確かな暖かさがあった。
「責任を、被ろうとしたんですね?」
「………知ってたのか」
「お仲間さんから聞いてたので」
どうりで、だ。
おしゃべりな敵もいたものだ。
「言っておきますけど、それは多分、人の範疇を超えたものです。あまりにも烏滸がましい」
わかっている。
多分普通は、ここまでしないだろう。
俺は、多くを守るために戦い、しかし僅かに零れ落ちてしまった者の家族の怒りを、だれでもなく俺だけで受けようとしたのだ。
気にしないというほどあっさりした者もあまりいないとは思うが、普通は1人で背負う様な事もしない。
「で………何が言いたい?」
思わず不貞腐れた様に俺がそういうと、
「シャキッとして下さい」
と、背中を叩かれながらそう言われた。
「自分を責めるのは勝手ですが、守った事を後悔するのは、助かった人達に失礼ですよ」
「!」
それは………その通りだ。
少し、目が覚めた気がする。
「辛辣な激励ありがとよ」
「ここで潰れられちゃ、これまで貴方を見極めようとした私の努力が無為になりますので」
仲間たちが少しざわついた。
ミレアが感情を見て、企みがある事は知っていたが、ここにきて大ぴらにし始めた。
ただ、もう流石にわかった。
こいつは、悪人ではない。
だから、問い詰めるような真似はしないでおく。
「ふふ………心配しなくとも、事情については近いうちに話しますわ。だから今日は、ひとまず祝杯でも上げて、嫌なことでも忘れましょう!」
おーっ!! と、何故か冒険者達の方が騒ぎ始めた。
どうやらギルドで宴会でも始めるつもりらしい。
仕方ない。
終わったものは終わりだ。
引きずっても、進む足が絡め取られるだけ。
だった今は、酒でも飲んで活力をつけよう。
こうして、俺たちはギルドへ戻る事になったのであった。




