第1009話
ピクシルの一撃をギリギリで防いだガージュ。
それは、人間嫌いのはずのガージュが、ギリーを庇ってのことであった。
「よくもまぁ戻ってきたものだッピね。このまま逃げれば、万に一つも生きる目があったかもしれないのに」
「生に執着はないし、お前から逃げ切れるとも思っていない………それに俺は、人間に貸しを作るつもりはない」
そう言ってガージュは剣を振った。
しかし、
「手抜きの彼に負けたお前が、俺に向かってくるとは………思い上がりも甚だしいな」
「っ!?」
初撃から大きく弾かれ、いきなり隙を生んでしまった。
当然、ピクシルはその隙を利用する。
隙だらけとなった胴に魔法の照準を向け、魔力を込めたその直後、
「む………」
隙を逃さないのは、俺も同じ。
魔法術式を計算、完成前に命令を加えて術式を破壊した。
「裁くのは、俺たちだっつってンだろ」
「ふふ………生意気」
来るか。
当然だ。
向こうもお人好しではないだろう。
向けられた敵意を丸々無視するなんて真似はするまい。
だが、
「え」
「っ!? テメェ………………っ!?」
凄まじい速度で構成された風属性の刃は、俺の方ではなく、俺の後ろのリンフィアの方を向いていた。
「守ってみろッピよ。“シューメイ” の息子」
術式破壊は間に合わない。
攻撃阻止もダメだ。
指は既に、引き金を引こうとしている。
だが、今の俺では相殺できるだけのものを持っていない。
………いや、待て、と。
身代わりになって防ごうとした瞬間、ふと浮かんだ最善策。
そうだ。
俺の手元にあるこれならば——————
「ほう………やってみろ」
向こうは効果に気づいている。
だが、構うものか。
「テメェで………喰らってろ!!」
俺がそう叫んだその瞬間、引き金は引かれた。
これは魔法攻撃。
ならば、この剣の特殊効果が有効。
勝負は、一瞬。
振った刀身は魔法に触れ、その瞬間に眩い光を放った。
すると、そこ魔力はみるみるうちに剣に吸われていき、それらは全て、俺の斬撃の養分となった。
が、
「吸ったッピね。さて、これはどうする?」
ピクシルは、それに被せる様にさらに強大な風魔法を放ってきた。
俺の予想通りに。
「よし………!」
「!」
思った通りになり、思わず笑みが溢れる。
——————魔法の相殺と言っても、規模が大きければ余波が生まれる。
例えば、強大な炎魔法同士であれば、爆風や飛び火は凄まじく、それらは周囲に甚大な被害を及ぼす。
では風は?
それは、当然だがぶつけ方次第。
混ぜ合わせればより強大に。
逆にぶつけて分散させることも可能。
俺はそれを狙う。
勢いを消し、止め、それをうまく扱えば——————
「来い………風ェ!!」
周囲を巻き込みながら、あらゆるものを吹き飛ばす暴風を生み出せる。
そうして生み出した竜巻は、派手に破壊をもたらしながら、全員を一斉に弾き飛ばした。
「なるほど。敵の魔法ごと巻き込んで操るか………流石だッピね」
全員なので、当然俺たちの弾かれる。
だが、これでいい。
一瞬でも大きく離れることが出来れば、あいつらは消えて逃げられる。
俺たちも距離が取れる。
「無茶すんなよ、金髪!」
「うはは! 悪ィな。」
だが、十分に時間は稼いだ。
頃合いだ。
そろそろミレアとエルが仕事を果たして助っ人を呼ぶはずだ。
そして、その望みは、大きな気配と共にすぐ近くにやって来ていた。
「!!………来やがったか!!」
この作戦において、俺はギルドを信頼していなかった。
だが、ギルド全てが敵の………領主の手にあるとは思えない。
それだけの権力があれば、俺はとっくに檻の中だ。
だから、敵味方関係なく、全員に直前に知らせることにした。
その伝令役が、入口を見張っていたミレアとエルだ。
そしてその知らせは、当然だがあいつの耳にも入る。
そればかりは本当に助かった。
何せ、最強の冒険者が助っ人に入るのだから。
すると、
「!」
飛んでいた俺たちを、柔らかい粘土の様なものが受け止めた。
それは、ノーム特有の土の操作能力。
そう、あいつがやってきたのだ。
あの最強のノームが、凄まじい酒気と共に。
「………ヒック………………待たせたなァ、金髪坊主………今回は、ハナから全開だぜェ………!!」
「来てくれたか!」
正直、ノームの顔を見て安堵している。
救援がここまで心強いものだと思ったことはなかった。
本当に頼もしい気分だ。
しかし、
「あァ。しかし………………一歩遅かったみたいだな」
「え………」
どうやら、全てが上手くいったわけではないらしい。
その証拠に、
「おやおや、誰かと思えば君だッピか」
「なっ………お前ら……………!!」
逃がそうとしたガージュとギリーは、一瞬で奴に捕まっていたのだから。
やはりどうにもならないのかと思っていると、この凄まじい威圧を放つピクシルを前に、ノームはまるで臆することなく前に出て行った。
「こいつは驚いたなァ………何でテッペンのテメェが出張ってんだ? ここは始まりの街だぜ、ピクシル」
「お前が言えたことだッピか? なぁ——————………っと、そうだった。今のお前はネームレスだったッピな………………元族長さんよ」
「「「………………………はァ!?」」」
思わず声を漏らしてしまった。
そう、なんと、このノームの正体は、ピクシルと同じ族長………つまり、正真正銘本当に最強の存在であったのだ。




