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第101話


 『ニールか………懐かしい名だ。()()()で生きていたのですね』


 通信魔法具の向こうで、声の主はどこかしみじみとそう言った。

 あの傷とは一体なんだろうか。


 「全く忌々しい………」


 『やはり許せませんか?』


 「あの女は、この国の汚点です。やつを含むあの連中は“栄光ノ十二”のことを“終焉ノ十二”などと呼んでいると言うではありませんか! あなた方12人がいなかったらあの国は終わっていましたよ!」


 『まぁ、落ち着いてください』


 声の主はそう宥めた。


 「しかし、何故あの女がこの街に………」


 『おそらく追放された前魔王の捜索、或いは………いや、それは無いか』


 「前魔王はやはりまだ生きているのですか!」


 『えぇ。と言っても人間の奴隷にされているでしょうが』


 じつは奴隷商をリンフィアにけしかけたのは、この声の主だった。


 「それと例の黒龍の装備も所持しているようです」


 『ほう? やはり彼女が持ち去っていたのですか』


 黒龍の装備とは、黒龍ヴィルヴァディアの鱗から作った、龍装備の中でも最高峰の物である。


 「して、いかがいたしましょうか。ニールの処遇については」

 『そうですね………装備は出来るだけ持ち帰ってください。もちろん武器もです。そして、最低条件として絶対に——————』


 声の主はいきなり雰囲気を変え、冷然とこう言った。


 「——————殺せ」

 

 「はっ! 了解しました! ヘル様!」



 そして、通信魔法具は切れた。










———————————————————————————











 あれからだいぶ経って、会場内をほとんど回り終えた。


 「これでリトルバブルの方は大体終わらせたな」


 「はい、出現予定地は潰し終えました」


 「後は侵入者の方だが………」


 肝心のヨルデがまだ見つかっていない。

 しかし、ここまで回ったら大体場所は絞れた。

 

 「例の子供達に魔石を集めさせていた冒険者達のことですか?」


 「ああ、未だに見つかってないだろ? だから多分、あそこにいると思うんだよな」


 「え? あんなところにですか?」


 「ああ、間違いない。中で人の気配を感知した」


 その場所とは、ここから先にある山の火口を入ったところである。


 「まったく、こんな面倒な場所も会場にしやがって。まぁ、盛り上がるけども」


 「そう言えば、ここにはリトルバブルの出現予定がないですね。何故でしょうか?」


 「そこな。そこはリトルバブルじゃ追いつかないんだよ」


 「?」


 わかっていないようだ。

 仕方ない。


 「基本的にリトルバブルってのはな、モンスターバブルの発生の一週間前に発生する現象だ。大体それは全て同時に発生する。モンスターバブルも、周辺にモンスターバブルがあれば、それに呼応して連鎖的に同時発生する。あそこのリトルバブルはな、モンスターバブルになったンだ。リトルバブルじゃなくなった。だから、今日は発生しない」


 「なるほど。なんで分かれてるんでしょうね?」


 「クッソ長くなるがいいか?」

 

 「いえ、やめておきます」


 だろうな。

 俺も話すの面倒だし。


 「よし、じゃあ火口までひとっ飛びだ」


 「うええ………」


 ものすごい嫌な顔をしていたが、俺は構わず飛んだ。










———————————————————————————











 「ただいま帰りました」


 結局あの後追いかける気にならなかったので帰ってきたニール。

 帰り着くと、リンフィアが出迎えてくれた。


 「あ、お帰りなさい、ニール。ちゃんと見つかった?」


 「はい?………あっ! は、はい! ありました」


 「………はぁ。相変わらず嘘が下手ですね」


 「うっ………」


 完全にバレていた。

 最初は信じたが、徐々にリンフィアは疑いを持ちだした。

 そして、この反応を見てそれは確信に変わった。


 「何があったんですか。話しなさいっ」


 「………エヴィリアルから魔族が送り込まれています」


 「え………なん、で」


 「まだリンフィア様の事はバレていないようです。しかし、面倒なことになりそうですね」


 「………」


 リンフィアにとって今のエヴィリアル帝国は、もはや故郷とは呼べなくなっていた。

 周りの魔族達は全て敵。

 家臣達も殆ど消えた。

 残った前魔王の家臣については親の仇だ。


 「ヴェルデウス………」


 「………」


 ヴェルデウスはリンフィアにとって優しい叔父のような存在だった。

 いつもリンフィアを気にかけてくれていた。

 しかし、彼は弟を殺した。

 だが、それも聞くところによると操られていたと言う。

 そんな風に敵も味方も分からなくなっていた。

 昔からずっといる味方は今では数人。

 そばに居てくれているのはニールだけだ。


 「あの人は、操られて居たのでしょうか………?」


 「私はそう信じてます」


 「………」


 ニールは黙り込んでいた。

 

 「“ヴェルデウスの娘”なら何か知って居そうですが………」


 「娘さんか………私のこと恨んでるでしょうね」


 「そんな………」


 ニールは違うと言い切れなかった。

 リンフィアは悪くない。

 そこは断言できる。

 しかし、その娘達が恨んでいるかどうかは別だ。


 「いつか、会って話さないとですね」


 リンフィアは外を眺めながらそう呟いた。

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