第1003話
ここに来て、俺よりも膂力のある者と戦い続けて、なんとなくその勘が磨かれてきたのがわかる。
しかし、今回の敵はそれだけではない。
こちらの動きを先行して読み取り、さらには遠距離からの魔法も使ってくる。
遠距離で攻撃しながら翻弄し、余裕がなくなったら距離を詰めて攻撃し、再び距離を取るの繰り返し。
こうなったら中々ペースは崩せない。
王の力とやらはやはり相当手強い。
だが、宣言した以上、俺は今の俺の力で戦う。
神の………トモの手を借りる気はない。
「ふーっ………しかし、強ぇな………」
魔法を使い始めた時から、中々接近できない。
最初の内に使わなかったのは恐らく温存のためだろうが、神の知恵アレを見た後では流石にそんな余裕もなくなるというもの。
お陰で敵の本領を引き出してしまった様だ。
「フン………」
「!!」
考えている間に、背面からの攻撃。
時計回りに半歩回転して躱しつつ、左前方の攻撃を弾きながら、足元の攻撃を飛んで回避。
空中——————身動きの取れない状態を当然狙ってくるが、
「ッッ………ズァアアっ!!」
身体を翻し、剣を振って全段回避アンド反射。
空中での体捌きは、白紙の対象にはならない。
覚えている動きは、難なくスムーズに動いてくれる。
ただ、魔法がやはり面倒だ。
周囲の魔力を操作する力は、手元から離れた場所でも攻撃が可能。
俺の間合いでない限り、全て奴の魔力であり、砲弾があると考えて良い。
それでも、読めないわけではない。
隙を探せ。
この力は、決して万能ではないのだから。
まずは戦況を変えるために、ここから、一気に攻める。
「………舐めんなよ、ガージュッッ!!」
近距離と遠距離、両方を使うのなら、まずは懐に潜り込む。
落ち着け。
焦るな。
魔力が読めるのは俺も同じ。
であれば、防御は捨てる。
そして、攻撃を絞る。
俺は、剣をあえてアイテムポーチに収納した。
「!? 正気か、お前………?」
「ああ、正気も正直だ。今のお前相手なら、ステゴロの方が戦いやすそうだからな」
相手はヒト。
モンスターではない。
ヒトの防御力の根幹は、決して体の丈夫さではないのだ。
ヒトが、モンスターからの攻撃や魔法を喰らっても生きていられるのは、体内の魔力で体が補強され、プラス魔力によるコーティングを外部から行ったり防御魔法を張ったりしているからだ。
だから、ヒトである以上、徒手空拳は通じる。
ただし、やり方次第だが。
「よし。んじゃ一丁かます——————ぜ」
「っ!?」
防御を捨てた全力疾走。
気でも触れたかというふうな顔を向けられるが、言った通り俺は正気で、これが最適だ。
当たり前だが、全身が軽い。
背後、前方からやってくる幾重にも重なった魔法攻撃。
だが、隙間は十分にある。
「俺を殺りたきゃもっと埋めることだな」
ルートを計算し、最も効率よく、そして最速でたどり着く様に前へ、前へと進む。
軽くなった体は、まるで羽の様に身体を運んでくれる。
足捌きは白紙以前のまま。
これは、幾度となく死地を乗り越えた俺の経験が詰まった歩法。
白紙化によって初心者となった男が放つ魔法程度、避けられない道理はない。
「チッ………来るか………………っ!」
包囲網を抜け、一気に間合いへ。
これで下手に魔法は撃ってこれない。
自分ごと撃ってしまわないよう、必然的に手数は減る。
そして、身軽になった今なら、この程度の剣技、いくらでもかわせる。
こちらを覗く目から、焦りが伺える。
向こうも必死なのだ。
だが、
「………………っ………斬る!!」
焦りは一瞬で怒りへと転じる。
目つきが変わったその瞬間、条件反射かの様に、一太刀。
そしてさらに追撃をした。
「くっ………流石に早いな………………ただ」
煮えたぎる様な殺意が伝わってくる。
人生を捧げ、命を賭してでも俺を殺そうとしている目だ。
結局刃は数度ほどしか交えていないが、怒りはよく伝わって来た。
そして、剣を見ればわかる。
僅かな動きの癖や予備動作。
白紙化されていないものは、以前からのもの。
つまり、こいつがこうなる前からのものだ。
間違いなく、ガージュはここ一年以内に戦いを始めた者だ。
それは、妹のレイジュも言っていた。
兄は、ただの農民だと。
まだ素人臭さの抜けない足捌き。
人に刃を向ける行為自体への、本能的な躊躇。
しかし、それを技術で、殺意でカバーをしている。
ずぶの素人が、よくぞここまで戦える様になったと思う。
心構えや精神の強さは、並大抵なことでは鍛えられないのだ。
だからこそ思い知る。
俺が、どれだけ人を変えてしまったのか。
………それは、今考えても仕方ない。
ともかく、ここからどうやってこいつを倒すか。
それについて考えなければ。
そう思っていると、
「何故だ………………ヒジリケン」
ガージュは、唐突にそう呟いた。
そして、
「なぜ、俺の妹を巻き込んだ」
俺に、そう尋ねた。




