第1002話
「オラオラオラオラァ!! ハハハっ、おいどうしたァ!?」
重さより速さ。
手数に重点を置いた攻撃。
そして、ステータスよりも、技巧重視の戦闘法であった。
流の戦闘と似通った点があるので、ギリーの剣は、そのまま暗殺者の剣であると、リンフィアは察した。
当然、白紙化によって技量重視でもそのレベルはまだ低い。
低いが、向かってくる時こそ足捌きや回避のそれはかなりレベルが高く、そもそも同じく白紙となっているリンフィアはステータスにもポイントを割り振っているので、技量では劣ってしまう。
加えて、中遠距離型のグローブでは、少し部が悪い。
が、
「うるせぇ………奴だなッ!!」
後退し、コウヤと位置を入れ替わる。
距離を取り、遠距離からギリーを狙い、魔弾を放つ。
中距離と近距離。
超接近型のギリーからすれば、これはなかなかに厄介である。
やはり、2対1なだけあって、この戦闘はリンフィア達に分があった。
しかし、それでもギリーは退く様子は見せなかった。
「くははっ!! いいねぇ………これだけ強いと囮の引き受け甲斐があるってもんだ」
「囮………?」
「そうさ。俺たちゃ捨て駒だ。だがそれでいい。拾われた奴は拾われたなりに分不相応な役割をこなせばいいんだ。あの女は、その癖に自分の利益を求めたから死んだ。シンプルな理由さ」
何やら、ギリーにも色々と事情があるらしい。
あの女………というのは、ゴーレムの中で死んだ女の事だ。
冷淡な言い方をするが、パーティ全員が冷たい関係というわけでもないらしい。
「お前ら、寄せ集めって事か。んでもって、お前はあの露出狂に恩がある」
「露出狂とは言ってくれるぜ。ま、そこに関しちゃうちのリーダーのヘマだから否定はしないがね。ただ、恩があるのは俺だけじゃない。拾ってもらったのは、俺たち全員さ」
人間嫌いの男が人間を拾い、仲間にする。
それはつまり——————
「「………」」
それを察したリンフィアとコウヤは、なんとも言えない表情になっていた。
どれだけ恩を感じていようと、きっと届くことはない。
一方的な感謝や恩義は、こうも虚しい関係を作ってしまう。
そして、何より虚しいのは、本人がそれを許容していること。
ギリーは自覚しているのだ。
自分が、自分たちが、捨て駒であるということに。
「やめろ、俺たちを憐れむな。鬱陶しい」
「けど、このまま彼についていっても、あなた達は………」
「それでいいのさ。どうせ、俺たちは日陰もんだ。俺は殺し過ぎたし、あの女は欲深過ぎた。あの2人だって、盲信が祟って日陰に来た。いい末路だろ。それに………」
再び武器を構えるギリー。
この戦力差でも、戦闘は続けるつもりらしい。
「勝てばいい。勝ってあいつが王になりゃ、俺たちも日向に上がってこられる。最後に勝てりゃそれでいいんだ」
「………………何もわかっていません」
リンフィアは、そこに待ったをかけた。
「あ?」
「じきに終わりです………あなた達の “レッドカーペット” に、先はないと言ってるんです。上を歩く王が、いなくなるのですから」
ミレアは断言した。
事実上の勝利宣言だ。
しかし、現場にいるわけでもない者がかけた王手を、簡単に信じるわけなく、ギリーはそれを笑い飛ばした。
「ふははは!! おいおいまるでガージュが野郎に負けるとでも言いたげだな。あいつはレッドカーペットで莫大な経験値を得た上に羽を喰らって王の力まで得たんだぜ? いくら英雄だからと言って、真っ白になったヒジリケンにどうこう出来るわけがない!!」
「王様の力じゃ勝てないんです………………それっぽっちじゃ………………ケンくんが持ってるのは、神様の力だから………」
首を振るリンフィア。
それでも、ギリーは信じない。
「神威だろ? それなら俺も持ってるし、ガージュも手に入れた。それで一体どれほどの差が——————」
ブワッと、滝汗が溢れ、膝がおかしいくらいに震えている。
心臓の鼓動までもが早まり、全身が、一人でに警戒した。
ギリーにとっては後ろ斜め上。
振り返り、見上げた場所にそれはあった。
「な、ん………………だ………」
3分間の制限付き。
しかし、それでも十分に反則。
それは、ギリー達にとって、理不尽そのものであった。
「………………覚悟を決めたんですね。ケンくん」
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少々時間を遡り、数分前。
「………俺は一体、何がしたいんだろうな」
俺は迷っていた。
このまま、こいつを殺してもいいものか、と。
今までも、幾度となく悪人を屠ってきた。
その大半が、俺ではなく、見知らぬ誰かに理不尽を強いた悪人だ。
そいつにも家族が………みたいなことを考えたことがなかったわけではない。
それでも死ぬべき人間だから殺した。
ただ、それだけだ。
こいつも同じだ。
罪のないカーバンクルを攫い、殺し、死後すらも弄んだ。
まさしく死ぬべき人間だ。
だが、他の連中と決定的に違うところがあるとすれば、それはこいつにとっては俺もそうだということ。
ガージュにとって俺は、そういう類の人間と同類なのだ。
「………………」
「なんだ、戦意を失ったか? そんなわけないよな。後悔はしていないわけなんだし」
「このまま、カーバンクルを言い訳にしてお前を倒すのも一つ手だ。けど、それじゃダメな気がする」
目を背けてはいけないものから逃げた気がする。
「………よし、決めた」
武器を構える。
そして、せめてもの誠意として、俺は俺の覚悟を宣言した。
「俺は、本気は出さない。俺は俺のまま、お前と戦う」
「さっきのを使わないと?」
「一気に仕留めてもいい。けど、それじゃお前のことがわからない気がする」
剣を交えてわかることもある。
口では伝えきれない想いは存在する。
剣士はそう口々に言う。
人によっては信じられないかもしれない
しかし、それが与太話でないことを、俺は知っている。
「じゃあ、お言葉に甘えて。容赦なく向かわせてもらう」
お互いに、戦闘体制に入る。
そして、再び刃を交えるのであった。
——————この後、俺は神威を思い切り使う羽目になる。
それは一体何故なのか。
それを知るのは、この数分後のことであった。




