第1000話
「ガァアアアアアアアァアッ!!!」
やはり、一撃一撃がやたらと重い。
加えて、刀身の長い剣を扱っているとは思えないこの剣の速さ。
なかなかに厄介。
剣術そのもののレベルはかなり低いが、白紙によって失われていない体捌きと勘によって、向こうはこちらの攻撃をかなり防いでくる。
外界では相当腕の立つ剣士だったのだろう。
「っ………重ェ」
それに、単純なステータス差も大きい。
ミッションを連日で受け、他を出し抜いたと思ったが、レッドカーペットとやらによって定期的に入ってくる経験値とスキルポイントは、通常のミッションの比ではないらしい。
「…………………いや」
だが、全然見える。
あの最強………ノームの冒険者やデバッガーと比べれば全く持って余裕だ。
やはり剣術のレベルは程度が低い。
ステータス差は、技術でカバー可能。
無駄を削ぎ、経験による先読みと勘を用いれば、手数は一気に増える。
弾き、斬りつけ、受け流し、突き、そして攻防を繰り返して、連撃の末に一太刀加えれば——————
「………!!」
見えた、勝ち筋。
脇腹、丁度刀身の入る隙間。
剣を持ち替え、一気に隙を狙えば——————
そう思い放った一撃であったが、
「!?」
まるで仕掛けたように貼られていた魔法の防壁が、それを弾く。
動きを読まれたかと思ったが、妙に違う。
これは恐らく、
「………………お前、また羽を喰らったのか」
「ご名答だ。いやはや恐れ入ったよ。俺たちが入ってきたのをしれたのも、お前らの王候補がこの眼を使って覗いた、ってところだな?」
そう。
同じく妖精王の力を取り込んだガージュにも、ミレアと同様の力が宿ったのだ。
相手の感情を可視化する、妖精王の眼だ。
恐らくは、これで俺の攻撃を読んだのだろう。
ステータス差に加え、この能力。
なかなかどころではない。
これはかなり厄介だ。
このままでは埒があかない。
一先ず、機動力を奪うために足を壊したいところだが、
「害意が足に向いてるな」
「チッ………………」
手が読まれる。
先読みは俺の専売特許のようなところがあっただけに、これはなかなかキツい。
強みが強みでなくなる。
「読める………読めるぞ!!」
ハナから合わせられる感覚はこれまでになかったので、妙な感覚を覚える。
どことなく気味が悪く、そして戦いにくい。
だから、らしくないミスを犯した。
「っっ………!?」
読み合いの末に、まさかの読み違い。
攻撃が外れ、僅かだが隙が生まれる。
「お返しだ——————」
ジワリ、と。
横腹から、炎が上がるような感覚。
広がる熱は、全身に痺れるような感覚を伝える。
痛み………感じないわけではない。
しかし、今更動じるものでもない。
だから、今から体が固まっているのは、きっと別の理由。
らしくないミス?
………否。
ではやはり痛み?
それも否。
否だ。
はっきりと言えるのは、理由がわかるから。
だが、それを認めるのはあまりにも情けなく、何よりこいつの妹に申しわけが立たない。
それでも、認める他ないだろう。
そうだ。
俺は、恨まれる立場とやらになって、確かな迷いを覚えている。
「硬直か? お前の勝手だが、その隙は致命的だぞ?」
固まった俺を狙い、隙を突こうとする。
流石に、これはマズイ。
だから、一瞬………………ほんの一瞬だけ、本気を——————
「——————ふゥッ………!!!」
「!?」
眼の色が、黄金へ変わる。
加速した思考は、瞬時に最善を計算し、攻撃を避け、そして間合いを詰める。
「動きが変わっ——————」
「遅い」
俺の技術をはるかに上回る、“知恵の力”。
型も何もない。
その時その時の最適を、全ての工程において選び取る。
故に、まるで入らなかった攻撃が、スルッと入っていった。
しかし、
「!」
向こうも伊達に妖精王の力を取り込んでいない。
先読みで攻撃の位置をなんとか察知し、間一髪、恐らくはゴーレムのために習得したであろう土魔法で攻撃を阻んだ。
「チッ………」
一旦距離を取り、神の知恵を解除。
状況は再び、振り出しに戻る。
「先読み………いや、そんなレベルじゃないな。なんて力隠してやがる………………いや、そりゃあそうか。あの化け物揃いだった三帝をも遥かに凌ぐという噂の男。こんなものの筈がない」
「………」
「聞くが、その力を使わない理由は、まさか温存のためなんて言わないよな?」
………当然、それもある。
ゴーレム召喚時の保険として、神の知恵は必要だ。
だが、それ以上に………
「まさか、この後に及んで自分のやったことに後悔を感じてるのか?」
「………………違う」
違う。
それは断言できる。
そんな簡単な話じゃない。
だが、躊躇っていることに変わりはない。
俺は一体、何がしたいんだ?
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「というわけだ。理解したか? あの男がどんな罪を犯したのか」
ゴーレムの核を持った、二人組の片割れの男。
安全なドームの中にいた彼は、そこでガージュの怒りのわけを、勝手にルージュリア達に打ち明けた。
「なるほど………彼の怒りの訳はそういう………」
「戦争………そんなことが………」
俯くルビィと、眉間に皺を寄せるルージュリア。
そんな2人を見て、エルは不安そうにしていた。
被害者から見たあの戦争。
大筋には関わっていないとはいえ、そういう目線もあったのかと、エルはハッとしていた。
だが、その一方で、ケン達がどんな思いであの戦争に臨んだのか知っている分、当事者でもないこの男が好きに語るのを疎ましいと思っていた。
しかし、エルはそれよりもルージュリア達の事が気がかりであった。
仲間というにはまだ関係性の薄い2人。
こんな話を聞けば、何も知らない彼女らならば少なからずケンに失望するのではないのかという心配がないわけでもなかった。
依然、表情を変えず動かない2人。
今2人は、一体何を思っているのか。




