第999話
ゴーレムを核を持った2人組を追いかけ、その末に追い詰めることに成功したルージュリアたち。
しかし、男の方が持つ防御系の神威の能力により、籠城されてしまい、なす術が無くなってしまっていた。
そんな中、男にケンの“悪”について語ると提案され、状況が状況なだけに、聞かざるを得なくなってしまった。
「その鯨はどうか知らないが、お前とそのカーバンクルはあの男の事を知らないだろ?」
「ええ、知りません。それがどうしました? もしも彼が何かあなた方の恨みを買うようなことをしたとして、それにはきっと相応の理由があるはずです」
ルージュリアがそう言うと、ルビィも激しく頷いた。
だが、男は対照的に首を横に振っている。
「それだ。そういうところが本当気に食わない。あれだけの者の死に関わって置いて、平然と善人でいようとする」
彼は否定しているわけではない。
しかし、ケンは善人であるという意見はもはや関係なかった。
あるのはただ一つ。
『ただ、何を以ってしても、ヒジリケンは罪人である』
その思想のみ。
彼が説いているのは善悪ではなく、罪の在処だ。
人間性など、もとより勘定にいれていない。
「それに、一切関係のない話だと思うなよ、お前たち」
妙な言い草に引っかかるルージュリア。
これではまるで、
「? まるで私たちにまで彼の悪が及びかねないとでも言いたげですね」
「その通りだ。何せ奴は——————」
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「ついにこの時が来た………………ようやくだ………ようやく仇が取れる………!!」
「………」
歓喜に打ち震えながら、目は怒りで溢れんばかりになっている。
共存し得ない二つの感情を混ぜ合わせ、笑顔を浮かべる様はまさに狂気。
これを俺がやったのだというのだから、もうどうしようもない。
しかし、これでようやく恨みの理由が聞けそうだ。
「仇………………か。俺は、お前にとって大事な誰かを殺したのか?」
「ああそうだ。お前は、俺から妹を奪った………!! あいつは………あいつは人間に囚われていただけなのに、お前らに巻き込まれて………!!」
俺は、ガージュの顔をジッと見つめる。
見えるのは、狂気の表情。
だが、それ以上に、俺はこいつに妙な面影を感じていた。
………妖精………面影………人間に囚われていた………………お前達・………巻き込まれた——————妹
「——————」
今、理解した。
それはきっと、神の知恵が常時働いていた以前であれば、勝手に思い出していただろう。
だが、今本当にガージュと向き合い、しっかりと顔を見て思考したことで、俺は思い出した。
こいつと瓜二つの、妖精の女を。
「………その顔、まさか思い出したか?」
「………………………」
俺は、先の戦争で関わった者の顔と名前を、全て記憶している。
特に、人数の少ない頃から関わっていた者達——————亜人奴隷からの解放者から組織する部隊、反乱軍。
ルナラージャで解放したあいつらは、よく覚えている。
中には言葉を交わした者も、一緒に飯を食った者もいる。
生きているものも………………そして、犠牲になった者も。
「………お前、レイジュの兄貴か——————」
笑顔が、一瞬で憎悪の表情に染まる。
その頃には、目に黄金を宿し、怒りを露わにした男の、殺意に溢れた一撃を受け止めていた。
「戦争に亜人を巻き込み、あいつを死なせたお前が、軽々しくその名を口にするなァアッ!!!」
——————重い。
力もそうだが、それ以上に憎悪が深く、まるでのしかかるように感じる。
誰かにとっての仇になった経験はない。
だから、俺自身戸惑っている。
しかし、それは確かに受け止めねばなるまい。
こいつがしたことはともかく、だ。
あれは、正当な怒りだ。
「………何を言おうと言い訳だな。戦争において、兵の死の責任は敵ではなく、その兵の頭にある。将ってのは、命を預かる仕事だ。だから、お前の怒りはわかる」
「だったらここで………」
そう、正しい。
こいつは俺の怒る権利がある。
こいつだけじゃない。
あの戦争の遺族は、怒りの矛先を向けるのであれば、俺に向けるべきだ。
石を投げられる覚悟はとうに出来ている。
甘んじて受けるべきところだ。
けど、それは今ではない。
「まだ、俺は死ねない。俺にはまだ、護るべき奴らがいるんだ。いつか俺は裁かれるかもしれない。けど、それは今じゃない。だから、俺はお前を倒す」
「ぐっ………ゥ………!?」
押されていた剣を押し返し、力は絶妙に拮抗し始めた。
「それに………」
鍔迫り合いになった剣を弾き、一旦距離を取る。
意思を、確認する。
そうだ。
こいつに戦う理由があるように、俺にもこいつと戦う理由がある。
ミッションだけじゃない。
こいつは、自分のために他人を傷つけた。
それは、許してはいけない。
「お前が誰かを傷つけた理由が、俺を倒すためであるのならなおさらだ。落とし前は、俺がつける」
「………死ぬ気はないってことだな」
両者、再び構える。
戦う理由がはっきりし、そして正面に向かい合う。
これは殺し合いで、そして勝った方が言い分を通すための決闘だ。
すると、武器を構えたガージュは、己の言い分を宣言した。
「じゃあ、俺が勝ったら、お前の仲間を殺して王になり、レイジュを死なせた国を壊す」
「!!」
「当然だ。亜人に偏見を持ち、あまつさえ奴隷にしようとする事を是とする人間の国など、百害あって一利なし。次に蹂躙するのは、この俺たちだ」
こいつの憎悪は、もう止まらない。
だから、俺が止める。
止めてみせる。
「だったら俺は、お前に勝って、きっとミレアを王にして見せる。先のことなんてまだ何も考えちゃいない。けど、間違った奴を王にするわけにはいかない」
ぶつかり合う、己の言い分。
言葉は決して、交わることはない。
交差するのは、ただひたすらに殺意と刃のみ。
それを理解した俺たちは、ついに決戦の幕を切って落とした。




