第996話
「………」
「………」
男3人と女1人。
これ以上ない重要なミッションを前に、誰も言葉を発さなくなっていた。
重苦しい空気が馬車に流れて早1日。
入場の際、号令こそあったが、あれが唯一の発声であった。
「!」
顔を隠すため、締め切っている車内だが、隙間から様子は見える。
今は、住宅街一歩手前。
ここが、今回のミッションにおける最初の目的地であった。
「着いたぞ」
運転手の声かけに小さく返事をするガージュ。
深くフードを被り、扉を開け、5日ぶりのの里に足を踏み入れた。
「………この建物だな」
人通りの少ない路地に立つ、建物に改造された木。
木自体は珍しくないが、比較的新しい気が多い中、一つだけボロボロのせいで、妙に浮いている。
思わず目を引かれる存在感だが、実は誰も住んではいないのだ。
そのため、ここを使って騒いだり暴れたりする者は少なくない。
ガージュは、そこに目をつけた。
ここなら、多少以上な魔力を感知しても、いつもの悪ふざけだと思われやすい。
そう考えたのだ。
「入るぞ」
小型化された核を手に取って、建物の中に入る。
誰も住んではいないが、やはり度々使っているのか、人が通った形跡がある。
それも、ごく最近——————
「………!」
入って気がついた、魔力の残滓。
知り合いではない魔力をガージュは感じとっていた。
「誰かいるな………」
「ヒジリケンか!?」
「いや、連中じゃない。妖精………しかも相当弱い」
とても戦えるとは思えない微弱な魔力。
警戒するには到底及ばない程度のものだ。
「入り浸ってる連中か………じゃあ、さっさと行って出てって貰おうぜ」
「いや………ダメだ。俺たちはまだ手配中なんだぞ。ここでバレて騒ぎにでもなれば、魔力注入すらままならない」
ガージュにそう言われ、やりづらそうに辛そうに頭をかくギリー。
しかし、そう思う一方で納得はしていた。
「チッ………ホント半端な領主だな」
「仕方ない。元々、寄せ集めの中でなんとなくなっただけのリーダーだと言っていたからな。だから今回俺たちに協力したんだろう」
「これを通して民の信頼を得るため………ねぇ。しかし、なかなかエグいこと考えるおっさんだぜ。まさか、大量の怪我人を生むことが目的なんて俺らで思わねぇよ」
そう。
彼らは知っている。
領主が滅多に見せない、“素顔” というものを。
だからこそ、今回の作戦を決行したのだ。
目的が明確な分、下手な罠は仕掛けないと、ガージュ達は踏んでいるのだ。
「でもともかく、上の奴は寝かせとくか殺すかするんだろ?」
やる気満々なギリーは、武器を取り出しながらそう言った。
寝かせとくと言ってはいるが、これを見る限りどの道一択だ。
ガージュも仕方がないと言った様子で、頷いていた。
「んじゃ、侵入者の顔を拝むとしますかね。って、入り込んでるのは俺たちも同じだけど」
それだけ言って、ギリーはさっさと階段を登っていくのであった。
「やれやれ………お前らも準備はいいな?」
「「大丈夫」」
ガージュが再び前を向くと、すでにギリーは上の階へと上がっていた。
遠くから聞こえる軋んだ金属音が聞こえる。
錆びついた扉の音だ。
どうやら目的の部屋にギリーは入ってしまったらしい。
「どうもぉ。こんちわ」
「!!」
近づいてきたところで聞こえた引き攣ったような声。
女だ。
そして、反応的に一瞬で気づかれてしまったのだろうとガージュは推測した。
そして同時に、これはもう殺す他ない、とも思った。
そう思い一歩、部屋へと足を踏み入れる。
部屋に入った途端、女からの視線が向けられる。
と言っても、女もフードなので、目は見えていないのだが。
「! あ、アンタ達は………手配書の………!?」
「悪いね。恨むなら、こんなところに1人できた自分を恨みなよ」
「ひっ………」
ギリーを顎で使うガージュ。
ギリーは、すぐさま頷き、手の持ったナイフを構えて、ゆっくりと近づいた。
「いっ、いや………………アンタ達、何を………」
「これが見えてないわけないよな? だったらわかるだろ?」
「やだ………来ないで………………」
後ずさる女。
おぼつかない様子で下がる女を見ても、ギリーの足が一歩たりとも止まらなかった。
近づくたびに後ずさるが、ここはせいぜい室内。
大して広くもないここで退がったところで、限界がすぐに来るのは火を見るよりも明らかだった。
「ぁ………!」
詰まった。
次の一歩はもうない。
しかし距離は、死は、近づく一方。
終わりが見え、武器を構えたギリーは腰を落とした。
無為に追い詰める趣味はない。
叫びでもされる前に。
一歩で。
一撃で。
一息で——————
「………………ふふ」
「「!」」
地面を蹴ろうとしたその瞬間、ギリーは確かに見た。
余裕いっぱいの、女の表情を。
そして、
「ッッ!?」
前方から、凄まじい速度で光の弾が迫る。
攻撃から咄嗟に防御へと切り替える。
しかし、それを終えた頃には、もう女は目の前から消えていた。
「何を——————」
窓を覗き込む一行。
するとそこには、もう1人のフードの者に抱き抱えられた女の姿があった。
その者は、女を抱えたまま壁を蹴り、反対側の道路へ着地。
動き回ったことでフードがはだけ、素顔が顕となる。
「「「!?」」」
女の方は、やはり知らない女だった。
しかし、問題はもう1人。
もう1人のフードの “男” の正体は——————
「あいつ………何でも屋!?」
数日前、ケン達と別れたという情報の入った、コウヤであった。




