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第995話




 「逃げた………か」




 ガージュは、雇い主から聞いた情報を仲間伝いに聞き、そう呟いた。




 「間違いねぇよ。衛兵が確かに顔を見たってさ。ヒジリケンと他2人、今はもう森の外にいるんだと」




 ガージュに情報を伝えたのは、ミレア達がゴーレムの中に侵入した際にもいた人間の男。


 名前はギリー。

 この “ゲーム” における、ガージュの守護者だ。




 「ただ、一緒にいた “何でも屋” は里に残ったらしい。大方、ヒジリ達はゴーレムを恐れて逃げたとかそんなとこだろ」




 めでたしめでたしと言った様子で声を弾ませるギリー。

 だが、その一方でガージュは眉を顰めていた。


 明らかに納得していない。




 「本当にそう思ってるのか?」




 ガージュはケラケラと笑っていたギリーにそう尋ねた。

 すると、



 「ンなわけねぇだろ?」



 と、額に青筋を浮かべて、ギリーはそう言った。

 不完全燃焼。

 ギリーの怒りの原因はこれに尽きる。

 ゴーレムの中で受けた屈辱を………借りを返せず、敵は逃走。


 真っ先に追いたいところだが、重要な作戦まで数日ということで動くことも出来ない。

 血の気の多さが招いた怒りは、発散する場所を失い、腹の奥で煮えたぎっているというわけだ。




 「………ウンディーネの方は殺せないから、せめてあの金髪縦ロールだけは八つ裂きにしたかったんだけどなぁ。けど、決行まで後2日。移動時間も考えて、後1日で森の入り口に現れなかったら、なんであろうが関わってくることはない。逃げたにせよ、後で戦うつもりにせよ、刻限までに戻らないなら問題なしだ」


 「ま………そうだな」




 ギリーの言う通り、後1日以内に森の入り口に来なければ、里への移動距離を考えると確かに間に合うことはない。

 入り口から里までは急いでも1日はかかるのだ。




 「出たところで殺せばいい。どの道、奴は絶対に殺すと決めてる」




 消えることのない殺意。


 ()()()から、ガージュの怒りが風化することはなかった。

 兄弟を失ったあの日、その原因となったケンを殺すことは、ガージュにとって王になることと同等に重要であった。




 「それにしても、領主はよく俺らが自分の里で暴れるのを認めたよな」


 「“お告げ” なんだろ。俺達をこの国に招いた管理者とやら直々の命令に逆らえない。ここの妖精はみんなそうらしい………………それに、領主に利がないわけじゃないしな」


 「ん?」





 最後の部分を聞き逃したギリーが聞き返すが、ガージュは手を振って適当にあしらった。


 これは、ガージュしか知らない事実。

 今回の作戦は、領主にとって、単なるお告げへの従属からくるものではないと言うことだ。




 「それとギリー、喋ってる暇があるようだが、準備は整ってるんだろうな」




 心外だと肩をすくませるギリー。

 すると、やれやれと言いながらギリーはガージュに何かを放った。


 ガージュが受け取ったそれから、凄まじい濃度の魔力が僅かに漏ていた。





 「小型化した核だ。核三つ分のゴーレムの整備は整ってる。なんなら今日から行っちまうか?」


 「馬鹿かお前。森がある以上街中での発動と領主側との連携が必須なのを忘れたか? 十分な魔力充填を現地で行わないと、パワーが十分にならないのに、万全でない時に行って成功するわけないだろ。全くあの領主………ギルドマスターくらい手懐けておけよ………」


 「冗談を間に受けんなっての。移動は明日な」


 「わかってるならいい。じゃあ、他の2人にも作戦を伝えといてくれ」





 そう返す前に扉に向かっていたギリーは、ひらひらと手を振って部屋を後にした。




 「………」




 ああは言ったものの、ガージュはやはりケンのことが引っかかっていた。

 平和な異世界から来たにもかかわらず、人間界全土を巻き込んだ戦争において最前線で戦ったのがあのヒジリケンだ。

 曲がりなりにも英雄などと呼ばれている男が、今逃げるとはガージュには思えなかった。


 力をつけるために別のミッションを探しに行ったのなら理解できるが、何故かガージュの喉のつかえは取れずにいる。





 「………一応、衛兵に森の入り口の警備強化を頼んでおくかな」





 必要な準備は整っているが、それでも時間が惜しかった。

 気が急いてしまうのは、仇がちらつくからであろう。


 この作戦が成功すれば、ミッション報酬で莫大な経験値が入る。

 領主からの報酬もありだ。



 それらを以って、より圧倒的な力でヒジリケンを蹂躙する。

 そのためにも、今度の作戦は何がなんでも成功させたいところであった。





 「レイジュ………………」


















——————————————————————————————


















 あれから2日。

 先日アジトを発ったガージュ達は、カイトの街の手前まで来ていた。


 当然、馬車を使って移動している。



 結局、ケン達は現れることはなかった。

 この2日通った者全ての顔を確認した衛兵達の情報なので、それは間違いないだろう。

 殺せないことはガージュにとって残念だが、作戦の成功率が上がったことは喜ばしい事。

 これで心置きなく打ち込めるというものだ。




 「準備はいいか?」




 一斉に頷く仲間たち。

 準備は万端。

 覚悟はとうに決まっている。




 「それじゃあ、作戦開始だ」




 そしてガージュは、一切里の民に悟られる事なく、カイトへの侵入に成功したのであった。

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