第10話
なぜ俺が今襲撃に来ると思ったのか。
まず、奴らはあまり目立ちたくない。
そこはその通りだ。
だが、夜を選ぶだろうというのは違う。
夜宿で騒ぎが起こったら泊まっている客が起きて目立ってしまう可能性がある。
目立つだけならまだしもそこからほかの勇者たちに殺しがバレたら王家にとって面倒なとこになるのは間違いない。
もしかしたら、王家に逆らったらどうなるか、という見せしめとしての役割を果たす可能性もあるが、あくまでも可能性だ。
この国の王はそんな賭けはしない。
だからこそこの昼なのだ。
昼は宿屋には人があまりいない。
万が一騒ぎが起きても誤魔化すことができる。
さらに、昼だったら大勢で兵がうろついていてもなんら不自然ではない。
「なるほどね」
どうやら蓮もわかったらしい。
こいつも頭の回転は早い方だ。
成績は俺、綾瀬に次いで3位か、たまに綾瀬に勝って2位の時もある。
「何が?」
ちなみにこいつは以前言った通り不動のワースト3だ。
「さっきケンに今から敵が来る理由を聞きそびれていたから考えていたんだ。時間がかかったけど今わかった。やっぱりあいつは天才だよ。真面目に勉強していたら世界的な賞も取れただろうに」
「しょうがないよ。天才は天才でも、ケンちゃんは天才ヤンキーなんだから」
「入ってどーぞ」
入ってきたのは、先程俺をここまで連れてきた兵だった。
「何の用だ? あんたら俺はもう用済みなはずだろ?」
俺がそういうと、兵は懐から手紙のようなものを取り出した。
「異世界人、我らが王からの預かりものだ」
「預かりものねぇ……」
俺は手紙を手に取る。
俺は鑑定の応用の道具解析を始めた。
まず鑑定というのは、対象を見ることで、自身の魔力を飛ばしてスキャンする。
そして、帰ってきた情報を数値化する仕組みである。
俺は訓練してその読み取れる情報を増やしたのだ。
これは神の知恵による恩恵が大きい。
これは……手紙の中に氷魔法が入ってるな。俺を凍らせて口がきけなくなったところをゆっくり殺す算段だ。
「なあ、兵隊」
「なんだ」
「これどうやって開けるんだ?」
すると兵は面倒くさそうに近寄ってきた。
こいつは俺が罠に気づいてないと思ってるだろう。
「残念」
「は?」
俺は紙をひっくり返して開いた。
「ぐわああああ!!!」
「チンケな罠だな。せめて俺が触れたら作動するくらいしとけよ、間抜け」
兵がみるみる凍っていく。
とはいえ俺もまだ鬼じゃない。炎魔法で氷を溶かして首根っこを掴んで放り投げた。
「ほーら、飛んでけッ!」
兵はそのままドアにぶつかり、そのまま突き破って外に出た。
「なに!」
兵が流れ込んで来る。
その数はおよそ15人ほど。
「おーおー、いっぱい連れてきたな」
「貴様ッ、何故中身がわかった!」
あ、こいつさっき怒鳴ってた偉そーな奴だ。こういうやつおちょくった時の反応はいいんだよな。
「さァな、なぜだと思う?」
ベーっと舌を出して挑発する。
「おのれッ!」
「落ち着いてください、ルドルフさん」
「げ」
癇に触る声だ。
とうとう俺を殺そうとまで思ったらしい。
「石田ァ、こんなとこまで来るたぁ、お前俺のこと好きすぎんだろー。つーか何でここにいンだ?」
大方王かその手下の話を聞いて交ざったってとこだろう。
どちらにせよ対策のために1人は生徒が手駒に必要だと思うので向こうにとっても都合が良かったのだ。
「いやぁ、王様の話を偶然聴いてねぇ、お前が死ぬって言うからよ。居ても立っても居られなくなったんだよ」
はいビンゴ。
「はっはっは、それ味方が言うセリフだろ。で? どうすんだ? お前が俺を殺すってか?」
「ああ、そうだ。この俺が、お前を、ぶっ殺すんだよ」
無理だろーが、ヘタレ野郎。
殺人とは何ら関係もない生活をしていた奴がいきなり人を殺せるとは思ってない。
大方自分が瀕死にさせたら、あとは後ろのに任せるつもりだろう。
「言い残すことはあるか、聖ィ? 遺言ぐらいは聞いてやるよ」
もうすっかりそのつもりだ。
ここまで場の気分に酔える奴も珍しい。
このまま油断したところを寝かせて逃げる事にするつもりだった。
これを聞いていなかったなら。
「あ、そうそう、琴葉ちゃんね。お前が死んだら俺が貰うから。前々から気に入らなかったんだよねー。俺とは遊ばない癖にいっつもお前みたいな社会のゴミと一緒にいるの」
「……何?」
「だからお前が死んだら俺がボロボロになるまで遊びまくってやるんだよ!」
「……」
取るに足らない一言である。
そう、所詮小物の戯言だ。
気にする事はない。
しかし、そういう一言が、人の怒りを買うということを石田は理解していなかった。
「……あいつに危害を加える気だったのか」
「危害? おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。俺はただ体の隅々まで可愛がって………」
俺としたことが考えが甘かった。
確かに生徒は暫く戦いに出る事はないかもしれない。
だが、内部からの襲撃は話が別だ。
油断しているといくら強くても対処出来ないかもしれない。
こいつはそれだ。
つまり、こいつ俺にとって邪魔な存在だ。
「それじゃあ、もうテメェは敵だ」
「え……」
石田は目が合った。
そして固まる。
蛇に睨まれた蛙のように。
今までに見たことのない目だ。
自分が見るはずのなかっただろう目だ。
「……ァッ、は、へ……」
訳の分からないことを言いながら後ずさり、ガタガタと震えだす石田。
周りの兵士たちも汗が吹き出るように出ている。
今、俺は威圧を発動している。
「……!!!」
この共通スキルは相手との力の差が大きい程強く効果が出る。
「俺さ、見た目はヤンキーだけどよ、自分で喧嘩を仕掛けることって基本ねェンだよな」
ゆっくりと近づいて行く。
ゆらゆらと。
石田たちは逃げない。
逃げられないのだ。
「けど俺も人間だ。そりゃあ、キレる時もある。例えば……今とかなァ……!」
「う、うわああああ!!!!」
兵士の1人が逃げ出した。
一番遠かったお陰で威圧の影響が小さかったのだ。
「潰れろ」
重力三級魔法の【オーバーグラビティ】を使い、敵を押しつぶす。
重力に耐えきれず、立っていられなくなっている。
唯一ルドルフは立っているが自由には動けない。
これは自分の周辺5メートルの範囲の重力を4倍にする。
自分にも同様の効果があるので本来は足止め用の魔法だが俺にとってはなんという事は無い。
「う、ぐ……!」
俺は一番手前にいた石田の髪を引っ張り上げた。
その目は完全に恐怖で染まっていた。
「ひ、聖、俺が悪かった。ももも、もう琴葉ちゃんに手を出したりしないからさっ、殺さ、殺さないで!」
「ああ、今から言うことをきちっとやったらな」
引っ張った髪をぐらぐら揺らしながら言った。
「な、何をすれば」
「まず、俺とつるんでた連中には手ェだすな。不利になることを言うな。後は国王には俺が死んだと報告しろ。後ろのテメェらもだ」
ルドルフを除いて全員がこくこくと頷いた。
「納得してねぇみたいだな。アンタ」
恐らくこいつには普通の脅しは効かない。
この中では圧倒的に強い。
何より、王への忠誠心が強いタイプだ。
そこでこう耳打ちした。
「アンタの選択次第で俺は魔王側につく」
「!?」
「俺の強さはわかっただろ? 三級魔法の無詠唱。ちなみに二級も一級も無詠唱で撃てる。もちろん重力魔法だけじゃあねェ。そんな奴が魔王側についたらこの国がどれだけの被害を被るか、わかるな」
ルドルフは歯を食いしばって頷いた。
ようやく納得したようだ。
俺は再び石田の前に行く。
「俺は約束を破ったり、裏切ったりするやつは嫌いだ。だから破ったら———」
威圧を強め、髪を引っ張り顔を近づける。
「お前に可能な限りの地獄を見せて。殺すぞ?」
もういつ気絶してもおかしくはない。
極限まで追い込んだ脅しはかなり効くはずだ。
俺は威圧を解いて言った。
「とっとと消え失せろボンクラども」
俺は土魔法でドアの代わりを作り、閉めた。
怒りはもう収まっていた。
久々にここまで頭に血が上った。
今はもう冷静になって全然違うことを考えていた。
「そうだな、いざとなったら魔王サイドってのもありか」